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2010  作者: 篠崎彩人
1「審判の日」

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1?「憐観囚」

 爆発した。白の彼女が人の彼女の住居と思しき建築物(ドアは何故か開いていた)に入って直ぐの事だった。爆発?一体、何が?咄嗟に私は自分の心臓を押さえていた。勿論違う、心臓が爆発していたらもう爆発した等と言う事を知覚している瞬間は存在しない。なら、何だ、何だこの神経を逆撫でする様なべとべとと嫌らしい不潔で露骨な爆発感は。何とも楽しげで、何とも気持ち良さそうな爆発だ、その何かが爆発した事で大いに失望し大いに悲嘆する者が居る事を知っている、人の不幸が主食の爆弾魔がそれを破壊したのだろう、そこまでは分かる。が、そこから先の思考が寸断されている、大いに失望し大いに悲嘆する者とは誰、そして、爆発した物とは、何だ。いや、物、只単に物体が破壊されただけではここまで背徳的な快楽の余韻を含む爆発感を覚えはしない筈だ、なら、物ではなく者なのか、生物が爆発したのか?いや、最悪の予想からの逃げ道として者に生物を含めてしまったが、それもやはり違う、基本的には生物に者等という高次な属性を人は与えたりはしない、生きる、物、そう結局は物と同等位にしか捉えない事が多いのだ、だから人にとっての者とは、悲しい哉人だ。ではやはり人の爆発、それが起こったのか?誰が爆発したのだろう、と言うより、何故私はその爆発したらしい人の爆発後の有り様を確認する前から人の爆発感を早速覚えたりしているのだろう。もの凄く自分の中核に居る人が爆発したのではないか、その人と連動して私の心臓で暮らしていたもう一人のその人も同時に爆発してしまったのではないだろうか、だから私はその人の爆発感を自分の心蔵に感じたのではないだろうか。自分の中に居る、もう一人の自分自身だと言っても過言では無い人間、そんな者は何人も居る物ではない、だから、その人が消えたら私は完全に孤独者となってしまう。その人が私の中から完全に出て行ってしまう、消失してしまう事だけは避けなくてはならない。嗚呼、早速来た、嘔吐感が来た、多分この嘔吐はその人が今や無用なるバラバラの肉塊に変質してしまったからと言うのでそれを吐き出す為の物なのだろう。待ってくれ、例えその人が肉塊になってしまったとしてもそれが出て行ってしまっては駄目なんだ、私はその人無しでは生きていけないんだ、吐かせないでくれ、私の一部を私から切り離さないでくれ、その人の肉体にもはや命が篭っていないのだとしたら、私がその肉体を引き継ぐから、その肉体を食べてでも私の中に取り込むから、だから吐かせるのだけは止めてくれ。だが、その私の呼び止めも虚しく私の肉体は自分の中のもう一つの肉体の管理者が消滅してしまった今それを管理するのは不可能と判断した様で私の口は勢い良く肉塊と肉汁の大洪水を起した。この嘔吐と一緒に全てが流れ出て行ってくれればいいな、と思った、私が天使になってしまった事、彼女も別の意味で天使になってしまった事、私がもう二度と彼女の笑顔を見ることが無いであろう事、私がもう二度と他の生命の幸せの為に行動を起す気にならないであろう事、何もかも、流れ出ていってくれればいいな、私の命でさえも、と。

 私が一通りの彼女の分解肉片(勿論精神的な物だが、今の私にはそう思えない、この嘔吐物の欠片一つ一つが彼女のそれであると堅く信仰している)を吐き終えた所でまた異様な状況に気付いた、子供達や蝶が、丸で命を吹き込まれる前の肉と骨格の人形であるかの様にそこらに倒れている。確かに、それが命を吹き込まれる前の物だとしたら神が命を吹き込み忘れた不良品という風に解釈してもいいのだろうが、これら精巧な生物標本は、ついさっきまで生きていたのだ、逆に神がそれらを標本にしたいと言うのでぶすぶすと針を心臓に突き刺したが故に彼らは永遠に眠ってしまったのだ。更に周りを見ると草木も死んでいる、その表面に緑の輝きを守っているが何かが可笑しい、私のこの情報過多視界だから感じ得る事なのかもしれないが、もう草の緑を緑として留める為の生命の脈打つ感じが失われている、水の吸い上げ、光の受容、二酸化炭素の吸引、酸素の吐き出し、同じ様に死んでしまった茎を登っていた蟻や葉に住んでいた油虫と共に有る時の平和な感じ、葉を食らう蝶の幼虫や彼らを超然と踏み砕く人間によって壊された感じ(それでもまだ再生への意志の伺える感じ)、そう言った物がもう二度と起こり得ない事が明らかな位彼らを包んでいた生命感が完全に停止している。今、この世界で動いているのは私の心臓だけだ。辺りの物同様に自らと言う生命の消失を願う時限爆弾宜しく冷たく一定の間隔で動く私の心臓だけがこの世界と矛盾している。圧倒的な静の世界、死の世界だ、この神々しくさえある荒廃感を私に味わわせる為に生の溢れんばかりのこの天国が有ったのだろうか、とすら思えて来る。これが、白の彼女の成すべき事だったというのか。見えざる羽を持った彼女のその羽を視覚可な本当の姿にする為の、つまり偽りの天国を壊し本物の天国を手に入れ本物の天使となる為の、この静寂の大量虐殺が彼女の目的だったのか。私はその見事なまでの神的エネルギー行使劇のたった一人の観客と言う訳か、しかも何も出来ずに自分の大切な人を失うと言う衝撃の結末が待っている事も知らなかった観客だ。観客は、劇に対し、泣く、笑う、怒る、驚く、疲れる、力を貰う、など様々なリアクションを持つがそのリアクションに責任を持つ必要が無い、何故ならその劇と自分とは現実と非現実との間の壁で厚く確実に切断されているからだ。だが、私は違う、本当は只の観客ではない、劇が終ると同時にその劇への感動冷め遣らぬ内に何故かその劇の続きに於ける主役に抜擢されているのだから、何時の間にか、劇世界と言う檻の中の囚人に成り下がっているのだから。そして今、私の持っているリアクションは、自殺への甘い幻想だ。

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