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2010  作者: 篠崎彩人
1「審判の日」

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11「白と透明と」

 彼女の動きが止まる、何だ、対岸に着いた、と言う事なのか。それともこの液化生命の川、人という固形から強制的に蕩けさせられて一様にこの天国を伝う見えざる生命の腐敗溶液中に固形物を発見したのか、その溶液中に浸し続けていれば、いずれは同じ様に蕩け混ざり川を流れるその他生命水と区別が付かなくなってしまうであろう命の石を。命の固形は勿論子供達もそうだし蝶でもそうだ、木もそうだし、草も、この視界に映る有りとあらゆる有機物は今、生命が自らに宿っている事を雄弁に物語っている。だが、彼女はそれらでは動きを止めなかった、だから、彼女の動きを止めたのは単なる命の石、命の固形物ではない。命の宝石を見つけたのだ、私の、そして私の記憶を知る彼女の、宝石、人としての彼女を。私は私の真正面に位置してその先に有る物を見せる事を拒む様な彼女の背中を睨む様に見据える、彼女に次の挙動が有った時、世界が震撼する程の、少なくとも、私の立つ位置に亀裂が走る程の恐ろしく衝撃的な現象が起こる気がする。彼女の背中に、段々と覚悟が宿っていく様が見える、彼女は多分自分が何をする事になるかと言う事を熟知しているのだろう、私天使に何らかの役目があるとすれば、彼女白の太陽少女にも間違い無く私とは別の何らかの使命が用意されていると見ていい筈だ、きっとその使命を今、彼女は果そうとしているのだ。その後の行動主体が私になる位、ここで彼女らの何かが決定的に終るのだろう、そう、両方の彼女の何かが。その後、か。人の彼女とまた出会えそうだと言うのに、まだその後が有る事を予測しなくてはならないのか、やはり対岸には、闇の広がりが佇むのみで私はこの生命液の川に身を浸す事から逃げられないのか、そしてこの流れに身を任せ、流れの最果て、固形を持たない、生物に宿らない生命の辿り着く場所、本物の天国、そこまで行かなくてはならないのか(そんな世界が本当に有るのかと言う冷静な視点を持つ自分も居るがこの異常に不浄な非現実的現実を見ているとそんな異次元の存在も幾許か信じてみたくなる、と言うより、もう入り口位には来てしまっているとさえ感じている)。私は願った、生命の固形がこんな不自然な白き川の流れを生み続ける世界の状況ではなく、生命がその白さを生物として、生有る内に十分に発揮し、その白さを消費し尽くした終わりの排水が、透明なる生命の小水が、母なる海へと、大地へと還って行く、そんな自然で生命が生命としてこの物質界に有る事を祝福されている状況の実現を、この世界での神の微笑みの顕現を。それを成す為には、生命の流れの最果て、真の天国まで行かねばならないのか、この世界に留まって状況をどうにかしようと言うのではなく、神の居る領域まで踏み込む事で願いを達成させようと言うのか。神がこの世界に居るとするなら、何故こんな生命活動環境に於ける致命的プログラムミスをそのまま放置しているのだろう、神そのもののプログラムにも致命的な欠陥が有ると言う事だろうか。この世界は間違っている、それは真理だ、疑う余地は何処にも無い、が、神自身、この世界の構成方針、設計図自体に何か途方も無いミスが有るとすればこの世界が間違っている事は或る意味で実際は間違っていない事になる、その設計図を忠実に再現したのがこの世界なのであればそれは間違いと言う事にはならない。私は、その神の設計図、それを修正しそしてまた新たな生命への託宣記号を書き加える為に存在しているのかも知れない。人と神を結びつける、神の使い、それが天使なのだから。

 遂に白の彼女の背中が、揺れた。私は、白の彼女の背中に見えない天使の羽根を見た気がした。

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