01「風に舞う塵」
光の、眩い白。前を往く彼女を形作る、彼女の属する所の物、彼女と言う現象の属性その物である、白。私があの死の森に居た時にはその死の在り様を代表するような感じで黒き光とすら認知できたそれは、今は只眩く健康的で清浄で心地良く、そして、強過ぎる。生と死、その両極がバランス良く行き来するのが物質界と言う魂のバイパスを澱み無いバイパス足らしめているのだと思うが、今のこの生が極端に発光していて死をあたかもどこにも無い物であるかのように主義主張する天国に居ると、ここで魂の渋滞が発生してしまっているように思われる。魂が、死へと流れていく事を放棄している、そんな感じなのだ。あの、天使達の死、その魂は本来ならばここ物質界ではない天国へ上がっていかなくてはならない、もしくは地獄へ深く落ちて行かねばならない。しかし彼らはその死に体を地面の愛玩具として弄ばれているばかりでなく、その魂でさえここ偽りの天国に封じ込められているのかも知れない。私は疑問だった、彼らも白を吐いた筈だが、それらは一体どこへ消えていってしまったのだろう、と。白は、彼らの生命力、それも子供の夢見る力をその主成分とするそれそのものだ、私も今自分の生命力の化身を眺めていてそれが分かる。そして白は、吐かれた事で彼らと分け隔てられた、生命の抜け殻-天使としての残り三日の、そして腐った木となってその存在を維持できるだけの仮初の生命が残された-と、生命それ自身とに。だから彼ら自身はああも死の異臭を放ったまま地面にへばり付いている、生命力を微塵も感じさせない腐り切った枝葉を晒し。彼らは、死にたいのだろう、だが死ねないのだ、この光り輝きが彼らの生命力に因る物だとして、それが今こうして私の目に眩くその存在を誇示し続けているのがその何よりの証拠になろう。多分彼らはそう、彼らがどうにか存在していなくては成立しないのであろうこの白の為に生き続けさせられているのだ。この天国は、恐らく彼らの白の力、夢見る子供の生命力で成立している、子供の生において死菌酵母の発酵など有り得ないから死酒の香りが微塵もしない、生だけの感じ、幸せだけの感じ、永遠の感じ非現実の感じがする。非現実、そう、現実感が丸で無い、本当に夢の世界のようだ、世界が永遠に止まってくれれば、遊ぶ事だけで太陽を仰ぎ見る事だけで水と一緒に裸で踊る事だけで草木と一緒に風の歌を歌う事だけで空を見上げて雲の白さを自分の心の色として染み込ませる事だけで暮らす、子供の日々、それが永遠に続いてくれれば、そう願って止まない何処かの夢見る少年少女が作り上げてしまった永遠停滞世界、生しか無いという、偽りの楽園、その惑星全体を材料とした模造庭園の中に迷い込んでしまったかのようだ。だが、ちょっとこの天国の外側を見ればそこには明らかにその模造庭園作りに余計だったのだろうゴミの山が転がっている、私とてそのゴミの一部だ。生命力を搾取されて、その生命力の影としてずっと存在を保持し続けねばならない塵灰、その塵灰がこの精巧で美しい模造庭園の中に入り込んでいるのだ。これは明らかにイレギュラーなのだろう。私は自分と言うイレギュラーがこの世界に何を齎す事になるのか、全く分からない。私はただこの模造物のような嘘臭い世界で唯一本物と思えるあの人に会いたいだけなのだ、私と言うゴミに反応してくれた、私と言うゴミを拾ってちゃんと屑篭に捨ててくれるかも知れない、あの人に会いたいだけなのだ。白の彼女と私と言う二対のゴミは、大いなる意志と言う突風に吹き上げられている、何処に着地出来るかは、知る術も無い。




