彼女が釣られた理由ふたたび
初恋ショコラbitterのCMがオンエアされ始めて、商品の売れ行きも絶好調だそうだ。quattuorの皆も、事務所も喜んでいるんだけど・・・
「社長、いまよろしいでしょうか」
「いいですよ、佳野子さん。ふふっ、用件は分かっていますよ。ちょっと待ってくださいね」
そう言うと、なぜか社長は秘書の人に何事か用事を頼んで外に出してしまった。
「もう私と佳野子さんだけですよ。言いたいことがあるのでしょう?」
「はい。社長、なぜリハーサルだったはずの映像がオンエアされてるんですか?!」
協力してくれたからとオンエアするCMのDVDをもらい、自分の部屋で見始めて愕然とした。それはどうみても、あのリハーサルの画像で。
確かにいろんな種類のウィッグとヘアメイクさん、プロのカメラマンさんまでいたのには驚いたけど“リハーサルも本格的にと思ってさ”という晴広くんの言葉に、そんなものなのかと納得した私・・・だまされた!?
あれから自意識過剰だけどCMが流れるたびに“私ってばれたらどうしよう”とびくびくしているのだ。かといって今さらCMは変更できないから、私はせめてそうなった理由が知りたい。
「他のモデルさんや女優さんとquattuorが同じシチュエーションをやってみても、何かが違うんですよ。
何が違うんだろうってスタッフとメンバーが打ち合わせしたときにリハーサル映像を見ていたのですが、それが好評でリハーサル映像を使おうって話になってしまいまして。佳野子さんに言わなかったのは申し訳ありませんでした。私は止めたんですけどねえ・・・」
嘘だ。社長が本気で止めたら、間違いなくこの映像はオンエアなんかされないはず。
「社長!私だってばれたら外を歩けません!!ファンにやっかまれます!!」
「佳野子さん、大丈夫です。後姿しか映っていませんしウィッグで全くの別人ですよ。それに全力であなたのことはばれないようにしますから」
社長が“全力で”ということは、たぶん私のことは外部には漏れないってことだろう・・・社長は腹黒いけど、こういうところは信用できる。
「そうそう、お詫びに彼と試写会の後に食事の席を設けますから。私と一緒に行きましょうね」
「えっ!!し、食事ですか?!」
「ええ。佳野子さんは何が食べたいですか?」
彼と食事・・・私、どんなに美味しいものを食べても緊張してきっと味を覚えていない。食事ってことは会話とかするのかな・・・いやいや芸能事務所の一事務員だもん、末席だから話すことなんてないか・・でもでも、社長が橋渡しをしてくれるのか?はっ!!待て私。またこれで釣られてCMのことをうやむやにされるのか?!
「ふふっ、葛藤しているのが丸わかりですよ?あなたは本当に面白いですねえ。できればおとなしく私の提案に釣られてもらえませんか」
ああ背後に真っ黒オーラが渦巻いてる(イメージ)・・・きっと、私が何を言っても社長はそれを押し切ってしまうような提案をしてくるんだ・・・・要するに私には選択肢がないってこと。
「・・・分かりました。私は中華が食べたいです」
私の箸使いは変ではないと思うけど、もし焼き魚が出たら緊張してきれいに食べる自信がないし、ナイフとフォークを落としてしまったら・・・いやああ!!彼に笑われたら私、1週間は立ち直れない。
「分かりました。佳野子さん、試写会ももうすぐですから楽しみですね」
社長がにっこり笑う。
「・・・はい。そうですね」
私はひきつった顔で白旗をあげた。




