美奈
私、みいなには秘密があるの。これは家族にも、仲のいい妹にも言ってない。ブログに書くのも初めて。
文才ないから、どこからどう書いたらいいのか分からないけど、誰かに相談したかったの。そのためにはブログが一番ハードルが低かった。このブログ、家族や友達には絶対にバレないようかなり気を遣ってるんだ。
中学時代、好きな男の子がいたっていう話は書いたと思う。いじめられっこで、でもすごく優しいの。顔はー……普通かなあ。正直、顔とかあんまり興味ないんだ。本人は気にしてるみたいだったけど、私は顔より性格の問題だと思うのね、男女関係って。
なんかいきなり話が逸れそう。脱線する前に戻さなくちゃ。
中学のその子とは、ちょっとデートに行ったくらいだった。高校は私が女子高に行ったせいで離れちゃったし、連絡取りあうこともなくなった。だからといって新しい彼氏が出来るわけでもなく、高校では吹奏楽部の練習に明け暮れる日々が続いた。ちなみに、みいなはトランペットしてたよ。
部活動で毎日が充実してた。
今は、部活になんか入らなきゃよかったって思ってるけど。
その頃は、毎日遅くまで練習して、夜に帰宅してた。吹奏楽部のメンバーは、私とは違う地区から来てる子たちばかりだった。だから、駅から家への帰り道はいつも一人ぼっちだったの。
今になってみると、いくらよく知った土地だからって、近道だからって、細い路地なんか一人で通らなければよかったって思う。
街灯はほとんどなくて、廃墟みたいな建物がいっぱい並んでて、死角が多くて。
なんでだろ、そんな場所を通っても自分は大丈夫って過信してたのかな。
男の人たちに取り囲まれるまでは、そんな酷い目に自分が遭うなんて、ちゃんと想像できてなかったんだと思う。
あんまり鮮明に思い出すのは怖いから書けないけど、男の人四人にレイプされた。「騒いだら殺す」って言われて、じっとしてた。
けど、あんな怖いのをずっと我慢するのなら、いっそ殺してもらえればよかったと思う。その時は怖くて、殺してとも言えなかったけど。
怖くて、こんな目に遭ったのは自分のせいなんだって思って、レイプされたことは結局誰にも言えなかった。このことを話したら、家族にも汚いって思われるんじゃないかって思ったから。
レイプされて妊娠、って考えるだけで怖かった。まだ高一なのに好きでもない、それどころか全く知らない相手の子供を身ごもってたらどうしよう、ってそればっかり考えてた。
だからね、生理が来た時は本当に安心して、泣いちゃった。変だよね、トイレで経血見て泣いてる女子高生とか……。
家族にも言えなくて外に出るのも怖くて、けどいきなり学校を休んじゃ変だから、いつも通り学校には通った。女子高だったのは救いだった。男性教師が近くに立ってるだけで息が詰まりそうだったけど。
とにかく男の人が怖くて、でも誰にも言えなくて、二十五歳になった。あの日以来、私は誰とも付き合ったこと無かったし、男の人と手を繋いだこともなかった。
けどさ、女の子で二十五歳で、結婚の「け」の字もなさそうな娘を、両親は心配し始めたの。今時二十五歳で結婚してない子とかいっぱいいるんだけど、近所の(私と同い年の女の子が)次々と結婚していく様子を見て、両親は焦ったみたい。彼氏を作る気はないの、とか、我が子はかわいいよ、とか色々言われた。
色々言ってきてもしょうがないの。
だって皆、私が犯されただなんて知らないんだから。
私がもう、どうしようもないくらい汚れてるなんて、皆知らないんだから。
だけど親に言われて、私も焦り始めた。あの日の事は隠さなくちゃ、普通の人のふりしなきゃ、そのためには男の人と付き合ってるポーズだけでも取らなくちゃって。
そんな時、近所のコンビニに行ったら、中学の時好きだった男の子に出会った。ずっとそこで働いてたらしいんだけど、時間帯がずれてたのか、その日まで出会ったことも無かったのに。
彼は昔と変わらない、優しい雰囲気を纏ってた。背が伸びて、顔が大人っぽくなってること以外、何も変わって無かった。
やっぱり私は、彼のこと好きだ、って思った。
けどね。本当のこと言うと、彼なら大丈夫なんじゃないかって、思ったの。
彼となら結婚してもなんとかやっていけそうだし、男の人だけどそこまで怖いと思わなかったし。……彼氏を作りましたーって親に報告するためには、彼はちょうどいいって思った。だから、付き合うことにした。
本当、酷いよね。結局私は、彼を利用しようとしたの。
なんだか、ブログの割に長くなっちゃった。色々と吐き出したかったの、ごめんなさい。
なんだかんだ書いたけれど、今はもう、彼のことすごく好きなの。男の人の中で唯一信頼できるっていうか、安心できるっていうか。最初は利用しようとしたけど、今はそんな気全然ない。彼とならやっていけるって思う、これからもずっと。
もうすぐ、彼と付き合いはじめて三か月経つの。今はまだキスしかしてないけど、もしかしたら、もうすぐ『そういうこと』するかもしれない。
彼のことは好き。でも、まだちょっと怖い。
細い路地裏で押し倒されて、自分の上で機械的に動く男の人を呆然と見てた、あの日のことを思い出しそうで。
好きな人となら、違う世界が見られるのかな……。