花が咲けば、虫が飛び交うもんです (FK協賛・第三期)
江川さま宅の「縁側通信(N0852Q)」(http://ncode.syosetu.com/n0852q/)におけるF君への愛が暴走。IF話としてどうぞ。
注)もちろんこれはIF話です。
「花が咲けば、虫が飛び交うもんです」 FK協賛 (第三期)
「おおおおお、これぞ! これぞ、極楽! ぱらいそ!!」
緑の相方は、その両の眼から貴重な水分を垂れ流しながら叫んだ。
「…どうしようかな、今の内に後ろから強襲して縛り付けて(元の世界に)返す方が正しい気がしてきた」
自分も過去に同じような行動をしたことを棚に上げて、 そう呟いた篠原京香であった。
「……渡人さま。……誰ですの? そちらのかたは?」
なにやら凄く顔色が悪いようですけども。
ぱしゃりと人魚の泉から声がかかった。
「あ、ウルリッヒお姉さま。お久しぶりでえす!」
水かきのついた手を岸につけて、声をかけてきたのは人魚族の美女。ウルリッヒ=蘭=イデア。
京香の大好きなお姉さまのお一人である。
「おおおおおおお! 美女成分!」
「黙れ、河童。もちつけ」
きもい。
「喜んで献上してくれるわ。祝いの三日餅を!!」
「―――――――そう返しやがったか、無駄に薀蓄に満ちあふれたインテリジェンスな河童め」
ちなみに、三日夜の餅とは平安時代の婿取り婚で夜ばいした男を三日目に親が踏み込んで捉え、その家でつくった餅を食わして婿に取るという「三日夜の儀式」で使用される餅のことをいう。
「………かっぱって? なんですの? 渡人さま?」
「うん、お姉さま。いいたい事わかるけど、句点つけて。――こいつが喜んで花盗人になりそうになる」
「喜んで! 河童かっぱらって嫁にします!!」
「ほら、な」
興奮で、頭の皿に補充した水が蒸発しそうなフレディだった。
「黙れ、河太郎! 貴様にやる花はない!」
気分は燃える宇宙で小僧を蹴散らすおじい様だ。好きやったんや。
「うるせえ、花は愛でてこその花! というか、むしろ俺はここに住む! むしろ棲む!!」
一つ屋根の下でうっはうはだ!!
河童が叫んだ。
貴様の故郷は上高地だろうが。帰る場所を間違えるな。
「甘いな、貴様によい知らせを教えてやろう。河童あらため河太郎。―――――人魚は本来、海に住む生き物だ!!」
ガンッ!
一つ目の見えない岩が、フレディの頭に落ちた様子だった。
「ま。……ま・さ・か?」
ぎこちない動きでこちらを向いたフレディへ二つ目の知識を教えてやった。
「川や沼に住む生き物が、海に放たれると死んでしまうそうだな。……大変だな?」
淡水生物は。
親切丁寧に主に湖沼を住まいとする日本古来の妖怪に教えてやった京香だった。
そして、水泳の飛び込みよろしくの格好で止まっていたフレディが、二度目の水分放出を始めた。
気のせいでなく、先ほどの幸せの涙よりも多いとみられる水分放出量だった。
「畜生! 俺はどうして上高地で生まれたんだ!! 福岡にさえ生まれていれば!!」
そうすれば、俺だって海に行けたのに!!!
この世の終わりのように泣く河童の姿は、すごく京香の心に癒しを与えてくれた。
よし、これで花の蜜にたかる虫(ただしくは河童)は排除された。
すんごく、いいことしたなあ。
などと満足した京香だった。
「…なんていうか、すごく莫迦らしい時間を過ごした気がするわね」
「そうね、ウル」
見守るお姉さま方は、それでも美しゅうございました。
あまりの絶望で泣き暮らした揚句、再びしなびれたきゅうりになったフレディの頭のてっぺんから持参した水をかける。
だって、これから強制返還かますのに事前でこの状態だったらこやつ死ねるぜ。
河童のミイラをこれ以上増やすこともあるまいと思う京香だった。
いやまあ、観光地は増えるかもしれないがな。
「うう。うう。うううううう。――――ぱらいそー。ぱらいそー。ぱらいそー」
言語中枢が壊れた河童は平仮名四文字しか喋らなかった。
「じゃあ、お姉さま方。―――またお会いしましょうねー」
にっこりとそんな緑の相方の首根っこを掴んで御挨拶。
大事なことは腕を引っぱっちゃいかんということだ。
こいつらって両腕が背中で繋がってんだってさ。通臂っていうらしい。
「ええ、またね」
「……何しに来たんだったの? あなたたち?」
判らないなりに手を振ってくださるお姉さま方はとても優しいなあと心休まるさようならの時間でした。
「ううう、ぱらいそー、ぱらいそー、ぱらいそー」
「にしても、うぜえなこのオープンスケベエロ河童」
未だに泣いている河童を故郷へと送ってやった。
着地点は見事に沼のど真ん中だったので、心配だったしなびたきゅうり再現はなかったようだが。
「………」
「………」
今度は、沼に4本の足が生えた。
どうやら衝撃的だった初回の時の転移座標を再現してしまったらしい。なんということだ。
「いやあ、丁度フレディに会いに行くところでよかったねえ」
沼に入ったの、スゴイ久しぶりだったよー。
爽やかに笑うフレディの友人は膝までめくったズボン姿で言ってくれた。
「どうもありがとうございました」
「ううう、ぱらいそー、ぱらいそー、ぱらいそー」
アパートの隅でまだ泣いてる奴がいた。
「こいつが勝手に俺のリクルートスーツ奪ってったからさあ。回収しようと思ってたんだ」
笑顔で笑いながら怒る御仁がいた。
巻き込まれたくはないので、早々に帰ろうとおもう。
「じゃあねえ、フレディ。……強く生きろよ☆」
華麗に退散した京香だった。
ふっと消えた女性を見送りつつ、世の中っていろいろとあるよなあなどと思う出来た人間は、友達でもある河童のフレディの愚痴を聞いた。
「ううう、俺は海の河童になりたい」
「……ああ、そう」
土産に貰った変わった味のする干物を肴に酒を呑みつつ、密かに彼は思ったという。
(陸地の泉に牛が住んでる時点で、その人魚の泉って淡水だったんじゃねえのかな?)
思いながらも、今さらどうにもならない指摘をしたところで目の前のオープンすぎてダチになりたいスケベ河童が騒ぎ出すことが判っていたので、彼は何も言わないことにした。
それはたぶん、この一連の話のなかで最も賢い選択だったと思われる。
どっとはらい。
了 by 河童愛でたぜとどや顔の御紋
思ったよりも、時間食っちゃったよw。
でも、悔いはないです。
アパートのご友人まで出演させるあたりがなんとも俺得。
九州の河童は海に住んでるそうな。すげえと一言。
ちなみに、泉は淡水です。あれえええ? ^p^
まさかのIF三作。(FK協賛)
とても楽しく遊ばせて頂きました。
これも江川さんの優しさとフレディ話のおかげさまです。本当にありがとうございました。^^)ノ