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番という存在に振り回されてはいるけれど。

作者: 有梨束
掲載日:2026/10/02

なんでもあり。

番の設定はかなりゆるめです、一回書いてみたかった番。

『神が定めし者同士は幸せになれる』、それを番と呼ぶ。


そんな話は聞いたことがあって、人によっては出会った瞬間にそれがわかると言うが、そもそも感知できる人が少ないから迷信みたいなもんだと思ってた。

世界中からたった一人なんて見つかるわけもないし。


「ジノ…っ!僕の番!」

今にも引き裂かれそうな声で俺を呼ぶノンドウを見て、ああ…本当の話なのかもな、と思うくらいには考えを改めそうではあった。




ノンドウと会ったのは、仕事初出勤の日だった。

城に登城した下っ端として色んな部署に挨拶回りで連れ回されている時に、別部署の上司として出会った。


……はずだったんだけど、俺を見るなり心臓のあたりを掴んで苦しそうにしているノンドウの様子は明らかにおかしくなった。

そして、顔を真っ赤にして他の新人たちには目もくれず、俺の肩をガシッと掴んできたのだ。



「君、恋人はっ、配偶者はいるかな…っ!?」

「は?」

思わずそんな声が出たし、それってセクハラじゃね?と思ったんだけど、ノンドウの真剣な顔に真面目に答えなきゃいけない気がして、「いませんけど」と伝えた。

そして、心底ホッとしたように顔を歪めたノンドウを見て、なぜだか心臓の奥が妙に音を立てた。



「……君の、名前を訊いてもいいかな?」

「今日からお世話になります、ジノと申します」

「ジノっ…!君は僕の番だ!」


その場にいた同期先輩たちが全員「え?」と言っておかしな空気になったのが、ノンドウとの出会いの瞬間だった。





今は恋人になったから過程は省くんだが、そのあとのノンドウからの猛アピールは凄かった。


番に性別は関係ないのは知ってたけれど、まさか男とは思ってなかったし。

ちなみに俺はフツウの人間だから、番かどうか本当のところはわからん。


ノンドウと違って、番を感知できる体じゃない。

いまやそんな人ばかりだから、番同士が対面しても気づけないのが現代だろうと言われているくらいだ。

ノンドウの先祖にはきっと竜人あたりがいるから、本人も気づける体質なんだろう。


だから、俺自身はいまだにノンドウが自分の番なのかはわからない。

「それって俺が好きなんじゃなくて、番だから俺を好きなだけじゃね?」と付き合う前に言ってしまったことがあるくらいには、ノンドウが俺に持ち合わせている番の本能部分は、全部はわかってやれてない。

それでも、歩み寄りはできるわけで──。



「…………すぅーーー、……はぁーーー」

「……なあ、ノンドウ? お前、息の仕方でも忘れたんか?」

「え?」

「さっきから、俺にしがみつきながら俺の胸でしか息吸ってないけど…、それでいいんか?」

「ジノの匂いを嗅ぎたいのっ!」

「…さいですか」

昼休み、俺はノンドウと待ち合わせて、この時間なら人も来ない倉庫室に集合していた。

番を感知できる側からしたら、一分一秒でも離れたくないらしいのだが、仕事中にベタベタするのは無理という俺の意見が採用されて、人目のないところで抱きつかれるという譲歩で今のところ丸く収まっている。


この人、仕事できる人なのに、俺の前では残念だよな……。



「…………ジノから、僕以外の匂いがする。…嫌」

「それはしょうがないわな、仕事してんだし」

「知らない女の子の匂いまでする…」

「すっげえぇ…、よくわかるね。さっきヘルプでお針子室に行って、荷物全部運ぶ係だったんだよな。あそこ、女子の匂いするもんな」

「…………」

「上書きしていいから、拗ねんなって…」

そう言って頭を撫でると、不服そうな顔からニヤニヤ顔に変わったから、機嫌は戻ったようだった。


番がわかるほどには本能に近い衝動を受け取りやすいノンドウは、俺から別の人の匂いがするのを心底嫌がる。

だからこうして昼休みに一回上書きする時間を作っている。

……たぶん同僚たちにはバレていて、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが、ノンドウは譲歩してくれている方なので、俺もできる限りは頑張っている。



番とは、本当は一分一秒たりとも離れたくないものだ。

俺は感知できないからわからないけれど、城で働く者の中には、番も同行出勤させている人を見たことがあるし、それが許されている。


俺なんか「部署一緒にしようか?」と上司に提案されたくらいで、番という存在は職場で優遇されるほどの認められた存在でもある。

それを断って働いているのだから、むしろノンドウに同情の気遣いが集まっている。


……いや、だって、四六時中ベタベタしてたくないし。仕事は仕事で仕事したいし、俺。


同棲したがっているノンドウに、なかなか乗り気になれない俺というのもあって、最近ではとうとう同じ部署の連中が「ジノ、お前生殺しって酷いな…」と言い始めた。

……これって、俺が悪いんかね?



子どもが自分の大事なおもちゃを取られないようにとばかりにしがみついてくるノンドウの必死さは、健気だなぁとは思うけれど。


「ノンドウ、ほんとに俺のこと好きね」

「うん、大好き。ジノがいれば生きていける」

番の愛の重さにようやく耐えられるようになった俺からすると、これが精一杯なわけで。

抱き返すように肩をトントン叩くと、ホッとしたような長い息が聞こえてきて、それに俺はほっとするのだった。




「……今日、お泊まりなし?」

「うん、ひとりで過ごしたいし」

「そ、…そっかぁ」

「ほら、夕飯は一緒だし。どこか食いに行こうぜ」

「お泊まり、なし……」

仕事終わりにも待ち合わせたが、ノンドウは絶望の淵に立ってしまったようで全然びくともしない。


そんなにショック受けんでも……。


「そんなに四六時中一緒にいたいもん?」

「……うん」

「その感覚、あんまわかんねえんだよなぁ。ひとりの時間も欲しいし。前の恋人もベタベタしてこなかったしなぁ」

「ま、ま、ま、えの、こい、びと………」

「あっ」

過去の恋人は全員地雷だった…、まずった。

時すでに遅し、ノンドウはどんどん項垂れていって、立つ気力もなくなったのかその場でしゃがみ込んでしまった。


あーあ、番がわかる側って大変だなぁ…。

わかるからこそ、今まで誰も好きにならなかったんだろうし、それを俺にぶつけてくるのも致し方ないと思うし。

俺は俺でわからないから、学生時代にそれなりに恋人はいたし。

でもそれはノンドウからしたら、地獄のような事実で…。



「あー、えーっと、泊まって何かしたいことでもあったんか?」

俺も隣にしゃがみ込んで、顔の見えないノンドウの頭を撫でた。

その横を仕事が終わった人たちが通っていくが、「あーあ、あそこの番また揉めてらぁ」と言われたくらいで、特に気にされてもいない。

他人から見たら、いつもの光景らしい。


これに慣れてきたんだから、俺も相当変わったなと思う。

前までじゃ考えられん、この状況。

恋人にぐずられて面倒だなって思わないあたり、俺もなんだかんだノンドウが好きなんだなと、自分で思う。



「…………朝、ジノに僕の匂いをつけたい」

「ん?」

「……ジノから僕の匂いがしないの、嫌なんだ」

「あーなんだそういうこと? んー、俺明日朝早いから、起きるのだいぶ早いと思うけど、それでもいいか?」

「…………っ!!」

俺の言葉にガバリと顔をあげて、切羽詰まった顔で俺のことを見てきた。

うーん、この顔に弱い自覚はある。

今日は俺が折れる番か。


「俺の家でいい?」

「うんっ……!!うれしい、ジノ大好き…!」

そのまま飛びつかれて、危うくバランスを崩しかけたがなんとか受け止めた。

ぎゅうぎゅうに抱き締められるところを同僚に見られたけれど、手を振られただけだったのでこちらも振り返しておいた。


やっぱり、こういうことも周りが受け入れるのだから、番って存在は特別なんだろうなぁ。


なんて、思ってたんだけど……。




「ジノさん、本当はあの番の人のこと好きじゃないんですよねっ? だったら、私と付き合ってくれませんか!?」

なぜかお針子室のこの前ちょっとだけ話した女の子に告白されているんだけど、どういう状況──?


「え、えっと、どういうことかな?」

中庭に呼び出されたから、仕事の手伝いかと思ったのに違ったらしくて、頭が追いついていない。


「だって、あの人から一方的にせまられていますよね? 本当は困っているんじゃないですかっ?」

「んー…?」

いや、そのフェーズはとっくに終わったというか、付き合う前は困っていたけれど、あれがノンドウの愛情表現だと腑に落ちてからは、特に困ってないけど。


「いや、そんなことはないけど」

「でもっ、でもっ、ジノさん本当は人前でベタベタするの好きじゃないですよねっ!? 私、ジノさんの元カノ知っているんです。彼女もベタベタしたい方だから、価値観が合わなくて別れたって聞いたんですけど」

「あー…、そんなこともあったっけぇ…?」

それ、いつの話だろうか。

学生時代に付き合っていた人なんて、たいして長い付き合いでもなかったし、最初の彼女とかか?


「私なら節度を持って付き合えますしっ、ジノさんを困らせたりしませんっ!!」

そう顔を赤くして俺を見上げているお針子室の女の子は、一般的には可愛いのだろうし、男ならフラフラ行ってしまいそうな気するけど。


いやぁ、仕事中にこういうことされるのは困るんだけどな。

今まさに困ってますよ、俺。

ノンドウは見境ないように見えるが、仕事や守りたいプライベートにまではヅカヅカ入ってこない。

あいつの方が仕事したい人だし。


……ノンドウなら、こんなことしてこないんだよなぁ。


そういや朝念入りに匂いをつけられたから、ノンドウの匂いがするなぁと思っていたら、グイッと後ろから誰かの腕が伸びてきた。

そんなもの、見なくても誰かわかる。



「なっ、どうした?ノンドウ?」

俺の肩に顔を埋めて、両腕で俺を必死に掴んでいるノンドウにびっくりして変な声が出た。


「もう昼休みになったか?悪い、行くの遅くなって…」

そう言いながら周囲を見ると、人の動きが増えていたから、やっぱり昼休みになっているようだった。

だからか働く人間の視線を感じる、…修羅場だと思われてそう〜、違うんです〜。



「ジノは、僕のだから…っ」

それは俺に向かってではなくて、目の前の女の子に言っていた。

おっと、珍しい…、普段もっと温厚なのに声を荒げてる。


「それはあなたの一方的な思いなんじゃないですか…?」

女の子まで負けじと言い返すから、いよいよ修羅場っぽくなってきた。

……面倒くせえって思っちゃダメなんだろうな、ははは。

俺だけ冷めた気持ちでいるが、2人はヒートアップしていく一方で。


「そんなことない…!ジノは僕の気持ちに応えてくれているもの!」

「だったら、どうして結婚されていないのですかっ!」

「ぐっ、そ、それはっ…!」

「結婚?」

思わず口を挟んでしまったから、2人の視線が一気にこっちを向いた。


「そうですよ!通例なら、番は出会って思いが通じ合ったら即結婚じゃないですか!同行出勤だってするし、認められているし!なのに、お2人は全然そんなことになっていないじゃないですかっ!」

女の子の主張を聞きながら、ノンドウの方に振り返った。


「今の話、そうなん?」

「え、あ、いや、通例ってだけで、みんながそうとは限らないし…」

目を泳がせながら弱々しく答えるノンドウを見て、可笑しくなって笑ってしまった。


「なるほどね、俺の気持ちを優先したわけか。ノンドウ、ほんとに俺のこと好きねぇ」

そう言ってノンドウの顎の下を撫でると、ノンドウは気まずそうな嬉しそうな顔で目を細めていた。


「だって、ジノにはジノのペースがあるし…、僕だけ突っ走っても…。番だからって理由だけで結婚しても、ジノの気持ちがないなら意味ないし…」

もごもご言いながらも、俺の様子を伺ってくる。

その全身から、とにかく俺に嫌われたくないと伝わってくるので、やっぱりこれも致し方ないんだと思う。



「じゃあ、とりあえず同棲するか」

「え?」

「結婚はまだ早えけど、一緒に住むのは譲るわ。部屋探し、手伝えよ」

「…いっ、いいの!?」

「周囲に誤解されるよりはいい。俺だって、お前大事だし」

それだけ言って、いつのまにかギャラリーが増えている中、俺はお針子室の女の子の方を向いた。


「というわけで、俺も俺なりに番を愛してるから、誤解させたみたいでごめんね」

「…………ジノ、大好き」

俺にしか聞こえないほどのノンドウの小さな声が聞こえてきたから、そのままわしゃわしゃと頭を撫でると、女の子も「…すみませんでした」と言ってどこかへ行ってしまった。


俺らを見ていた周囲からは、「ひゅー!やっぱり番の絆はいいねぇ〜!」という拍手が起こったので、さすがに俺の方が気まずかった。




まあ、番と生きていくってこういうことなんだろうな。

いい加減、腹を括るかね。

これが惚れた弱みってやつなんだろうし、ノンドウが喜んでくれるならそれでいいわけだし。


それに番の同棲なら国から補助金出るだろうし、悪くないか。






了

お読みいただきましてありがとうございました!!

(273日目。体調崩して更新遅くなりました、すんません)

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