親友は今日も死んでいる
最近、親友の遠藤が俺の目の前でよく死ぬ。
冗談や比喩ではない。文字通り、命を落とすのだ。
最初は通学路だった。信号を無視して突っ込んできたトラックにはねられ、遠藤は宙を舞った。
「えんどぉぉぉーっ!!」
俺は絶叫し、血だまりの中で動かない親友に取りすがって泣き叫んだ。
その数日後は、昼休みだった。購買で買ったパンを早食いし、突然喉に詰まらせて白目を剥いたのだ。
「えんどーっ!」
背中を叩く俺の腕の中で、彼は静かに事切れた。
さらにその翌週。授業中、気持ちよさそうに居眠りしていると思ったら、そのまま心肺停止していた。
「おい、授業終わったぞ。起きろって……遠藤?」
揺さぶった彼の体は、すでに冷たかった。
死んだその日は、救急車やら警察やらで当然のごとく学校中が大騒ぎになる。
だが、次の日の朝には何事もなかったかのように、遠藤は教室のドアを開けて登校してくるのだ。しかも、昨日遠藤が死んだことを、俺以外の誰も覚えていない。クラスメイトも、教師も、遠藤の両親も…。
そんな奇妙な日々が続いていたある日の昼休み。
いつもは能天気な遠藤が、ひどく真剣な顔で俺の席にやってきた。
「飯田、ちょっといいか。大事な話がある」
「……わかった」
俺は静かに頷き、立ち上がった。
人気の少ない屋上。
風が吹き抜ける中、フェンスに寄りかかった遠藤が、探るような視線を俺に向けて口を開いた。
「飯田……俺が死んだこと、お前は覚えてるだろ?」
「……あぁ。俺の勘違いじゃなかったんだな」
俺が答えると、遠藤はホッとしたように息を吐いた。
「最初は夢だと思ってた。でも何回死んでも、次の日になると部屋のベッドで目が覚めるんだ…。」
「そうか……。トラックに轢かれたり喉に詰まらせたり、しんどくないか?」
「それが不思議と、意識がフッと途切れて気付いたら自分の部屋のベッドにいるから大丈夫なんだ。俺…『死んでも次の日には何事もなかったように生き返る』能力に目覚めたのかもしれない…」
痛みや苦しみは引き継がれないらしい。とはいえ、不可解すぎる現象だ。
「何か条件とかはあるのか?」
「わからん。ただ、一つだけ共通点がある。俺が死ぬ時はいつも、飯田がいるんだ」
その言葉を聞いて、俺の脳裏にひとつの恐ろしい仮説が閃いた。
俺にしか記憶が残っていないこと。そして、俺の目の前でしか彼が死なないこと。
「……なぁ、遠藤」
「ん?」
「遠藤が『死んでも次の日には何事もなかったように生き返る』能力に目覚めたんじゃなくて……」
俺はゴクリと唾を飲み込み、その仮説を口にした。
「俺が、『死んだ遠藤を次の日には何事もなかったかのように生き返らせる』能力に目覚めたんじゃないか……?」
屋上に、冷たい沈黙が落ちた。
遠藤の顔からスッと血の気が引いていくのがわかった。もし俺の仮説が正しければ、俺が遠藤を見捨てた瞬間、彼は本当に「死ぬ」ことになる。
「……何それ……怖い……!」
「……」
少しの間の後、遠藤がすがるような、ひどく怯えた目で俺を見た。
「飯田……俺達、ずっと親友だよな……?」
「……あぁ」
俺が頷いた瞬間、遠藤は半泣きで俺にすがりついてきた。
「頼む飯田! 今日からお前ん家に住む! トイレも一緒に行ってくれ!」
「お断りだ。せめて自分の身くらい自分で守れ。あとパンの早食いと歩きスマホはやめろ」
「命がかかってるんだぞ! 冷たいこと言うなよぉぉぉ!」
どちらが能力に目覚めたのか。
それを証明するには『遠藤が一人の時に死んでみる』しかないわけだが……当然、そんな命がけのギャンブルができるわけもない。
鼻水を垂らしながら抱きついてくる遠藤をひっぺがし、俺は深くため息をついた。
結局、真相は闇の中だ。ただひとつ確かなのは、俺はこれからもこの手のかかる親友から目を離せないということだけ。
「あ、飯田! 見てくれ、あそこにスズメバチの巣が……!」
「おい、やめろバカ! 近づくんじゃない!」
「わぁー!!」
「えんどぉぉぉーっ!!」
親友は、今日もよく死ぬ。
俺は冷静に救急車を呼んだ。




