不歓迎の来訪者
『記憶喪失少女は、それでも生きていく』番外編。
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昼の日差しが部屋へ差し込む頃——
——コツ、コツ。
窓から小さな音がした。
そちらへ目を向けると、ジルだった。
昨日、自分の居場所は伝えておいた。
右の翼はまだ痛い。
まだ思うように飛べない。
俺は窓際までゆっくり歩いていった。
窓は閉まっている。
俺はあずかが窓を開け閉めしていた動作を思い出しながら、鍵を外した。
そして、足で少しずつ窓を押し開けていく。
ジルも外側から足で押し、やがて、通れるほどの隙間ができた。
「カイテル、大丈夫か?傷はどうだ」
ジルは俺の右の翼を覗き込んだ。
「うわっ……傷、ひでぇな」
見た目ほど深い傷ではない。
あずかは、ずっと薬を塗って、包帯まで巻いてくれていた。
「まだ痛みはあるが、数日で治るはずだ」
そう答えると、俺はジルへ目を向けた。
「おまえこそ、ここへ来て大丈夫なのか?持ち場は?」
「問題ない。マーティスが代わりに見張ってる。今は俺とマーティスの二人で持ち場を見てるからな」
「そうか。悪いな」
「おまえは酷い目にあったな。人間の姿なら、すぐ治るのに大変だな」
「……あぁ。死ぬところだったが、あずかに助けられた」
「あずか?誰?」
「異界の少女だ。この部屋の持ち主」
「へぇー」
ジルはそう言うと、部屋の中を飛び回った。
そして、本棚の前で足を止めた。
「もしかして、この絵の子?」
翼であずかの絵を指さした。
「そうだ」
「へぇー、可愛い子ね〜」
ジルはそう言うと、再び羽ばたき、あずかのベッドの隣へ置かれていた鳥かごの上へ降り立った。
「この鳥かごは?」
「……」
俺は顔を逸らした。
「穀物、水、ブランコ、止まり木、布、鏡……」
ジルの羽がぷるぷる震え始めた。
「ま、まさか……ふふっ……これ、おまえの寝床?」
「……」
「ハハハハッ!」
ジルはベッドの上で転げ回るように笑った。
「学園でも騎士団でも……ふふっ……大人気のカイテル様が……ふふっ……鳥かごで寝てるとか……ハハハハッ!」
……うっぜぇ。
「あのカイテル様をこんな風に……すげぇ……すげぇ子だな、あずかちゃんは」
ジルの笑いは、しばらく止まらなかった。
……さっさと帰れ。
ジルは散々俺を笑ったあと、
「じゃね〜、カイテル。また来るよ〜。あずかちゃんによろしく〜」
と言って、窓の隙間をすり抜けるように飛んでいった。
……この野郎。
行く前に、窓もちゃんと閉めろ。
結局、俺は一人で窓を閉める羽目になった。
開けたままでは、あずかに怪しまれてしまう。
その日は、ジルやマーティス、ファビアンが、入れ替わりで俺をからかいに来ていた。
「これは、カイテル様の寝室か~。ふふふっ」
マーティスは鳥かごの周りを一周しながら、にやにやしていた。
「帰れ」
——チリン。
俺の殺気など気にもせず、マーティスは足で鳥かごの扉についた鈴を鳴らした。
「カイテル様……可愛すぎ……ふふふっ……」
「失せろ」
マーティスのあと、ファビアンがやってきた。
「ふふふっ……黄色の鳥かご、おまえに似合うじゃないか」
ファビアンは鳥かごを軽く翼でつついた。
「このレースのカーテン、おまえの毛並みにぴったりだな」
……レースのカーテン。
あずかが古い布で作った、手作りのものだった。
鳥かごの上に掛けられている。
……恥ずかしいが、あずかが作ってくれたものだから、文句を言えない。
「あのカイテル様は、完全に飼い鳥だな」
「さっさと記録に戻れ。帰れ」
ファビアンは肩をすくめた。
「わかったわかった。じゃあ、今日の記録が終わったら、また、“飼い鳥カイテル様”を見に来るぞ。あずかちゃんに、“またあとで”って伝えておいてくれ」
「二度と来るな」
……あいつら、本当にあずかを見に来やがった。
太陽が空から消えた頃、あずかは机に向かい、小さな道具から音楽を流しながら宿題をしていた。
そっと窓の外を見ると、庭の木の上に、赤、黒、白の鳥が三匹留まっていた。
俺はそっとため息をついた。
……おまえら、任務に集中しろ。
だが、この時間帯になると、この街から人の気配は消える。
それに、イリアス隊長やジョエル隊長、エレクさん、レオンさんもいる。
門に近づく人間は、ほとんどいない。
この時間帯だけは、あいつらは少し自由に動ける。
……だからといって、この任務は重大任務だぞ。
あいつらは、窓の外で、翼であずかを指さしたり、こそこそ話したり、俺を笑ったりしていた。
……まったく。
あずかが俺の頭を撫でるたび、あいつらはさらに爆笑していた。
……くそ。
でも、あずかの手が心地よくて、離れたくない。
あいつらに笑われても——
俺はそのまま、あずかに頭を撫でられることを選んだ。




