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廻り返る(めぐりかえる) ~ある魔術師と夜空の魔法陣~  作者: ばななこーひー


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第3話:輝く琥珀と、想いの魔法陣

難産でした。連休中に更新するはずだったのに…

 手のひらが、熱かった。 それは火傷のような物理的な痛みであると同時に、凍てついた魂に注がれた熱湯のような、衝撃的な感覚だった。


「……なんだ?」


 王城の廊下。午後八時。アルド・グランバルドは、自身の右手を、そこに握りしめられた「暁の琥珀」を凝視していた。 琥珀は、まるで心臓のように脈動していた。淡い金色の輝きが、呼吸に合わせて明滅している。そして、先ほど確かに聞こえた声。幻聴ではない。数千回のループの中で、自身の脳が生み出した妄想でもない。 あれは、間違いなく外部からの干渉だった。


『……もし、もし……』


 再び、ノイズ混じりの音が脳内に直接響く。 女性の声だ。水底から泡が浮かび上がるような、頼りなく、しかし必死な響き。


「……ッ!」


 アルドは弾かれたように顔を上げた。周囲を行き交う衛兵や給仕たちはアルドの不思議な行動に不審な視線を向けてくるが、構ってはいられない。アルドにとってこの声は、無限に続く灰色の牢獄に差し込んだ、唯一の色彩だった。


(ここじゃ駄目だ)


 雑音が多すぎる。この蜘蛛の糸よりも細い繋がりを、逃すわけにはいかない。アルドは自室に向けて走り出した。廊下を駆ける最中も、琥珀を握る手には力を込め続けた。少しでも緩めれば、この温もりが消えてしまうのではないかという恐怖があった。


──バタン


 自室に飛び込み、扉を背にして荒い息を吐く。静寂。窓の外の花火の音だけが、遠雷のように響いている。アルドは震える手で琥珀を覗き込むように顔へ近づけた。何を話すべきか。どう問いかけるべきか。数千回のループで錆びついた言語中枢を、必死に回転させる。


「……おい」


 喉から出たのは、酷く掠れた、不躾な一言だった。だが、琥珀は応えた。


『──ああ、繋がった……!聞こえますか?私の声が』


 熱が強くなる。相手の感情の高ぶりが、魔力の波となって伝わってくるようだ。


「聞こえている。……あんたは、誰だ?」


 警戒と、縋るような期待。相反する感情を押し殺し、アルドは問いかけた。一瞬の沈黙があった。ノイズの向こうで、相手が息を呑む気配がした。


『私は……リア。リアと申します。あなたの治療を担当している者です』


 聞き覚えのない名だ。だが、治療担当ということは、魔術師団か、あるいは治癒師協会の人間か。アルドの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。治癒師マリアンヌ。王家筆頭治癒師であり、セシリア王女の教育係も務めた熟練の女性。彼女には娘がおり、その娘も治癒師として最近王城に上がったという噂を耳にしたことがある。確か、愛称が「小リア」だったか。魔力伝達による念話は、伝送効率の関係で音声データが劣化しやすい。声質が少しぼやけて聞こえるのはそのせいだろう。


「……マリアンヌ殿の娘御か?」


『え……ええ、まあ、そのようなものです』


 曖昧な返答。だが、アルドはそれを肯定と受け取った。初対面の男に不躾に聞かれるのは不快だったかもしれない。動揺して当然だ。


「そうか。俺はアルド。アルド・グランバルドだ。……いや、治療担当なら知っているか」


『はい、存じております。アルド様』


 自分の名前を呼ばれる。ただそれだけのことが、今のアルドには涙が出るほどに新鮮だった。世界は、まだ俺を忘れていなかった。安堵で膝が崩れ落ちそうになるのを堪え、アルドは机の椅子に座り込んだ。聞きたいことは山ほどある。だが、まずは現状の確認だ。


「単刀直入に聞く。どうやって繋がった?この『暁の琥珀』は受信専用の魔導具じゃない。外部からの干渉を受け付けるような回路は組み込まれていないはずだ」


 魔導具の構造を知り尽くしているアルドにとって、この現象は奇跡に近い。


『それは……あなたが、持っていたからです』


「俺が?」


『あなたの研究ノート……そこに描かれていた、魔法陣です。名前のない、とても複雑で……綺麗な魔法陣』


 研究ノート。名前のない魔法陣。アルドの記憶が数千回のループを遡り、かつての「現実」へとアクセスする。


(あれか……!)


 魔法陣意匠論の実験作。美しさだけを追求し、論理的な効果など期待せずに描いた幾何学模様。同僚に見られ、「お絵かき」と笑われたアレだ。ガルディウスには「貴族の道楽」と切り捨てられた、無意味な図形。失敗作だと思い込み、名前さえ付けずに放置していたあの魔法陣が、繋がったというのか?


「まさか……あれが起動したのか?」


『はい。とても美しい光でした。吸い込まれるような……』


 リアの声には、偽りのない称賛の色があった。胸の奥が熱くなる。自分の理論は、自分の美学は、間違っていなかった。無意味だと嘲笑されたものが、今、世界を繋ぐ唯一の架け橋となっている。皮肉だが、これ以上の証明はない。


「……そうか。あれは、無駄じゃなかったんだな」


 アルドは噛みしめるように呟いた。だが、感傷に浸っている時間はない。この通信がいつ途切れるかも分からないのだ。


「リア、教えてくれ。そっちは今、どうなっている?」


 アルドの感覚では、もう数年は経過している。だが、外の世界ではどうなのか。


『……今日は、王国祭の三日目です』


「三日目……だって?」


 アルドは絶句した。 王国祭は七日間続く。初日の夜に事故が起きた。つまり、現実世界ではたったの二日しか経っていないということか?


「嘘だろう……?俺はここで、何千回も……」


 愕然とするアルドの言葉に、リアも驚くように問いかけた


『何千回?どういうことですか?そちらでは何が起こっているのですか?』


 アルドが上手く説明できずにいると、先に動揺から立ち直ったらしいリアが一息入れると話し始めた。


『アルド様。こちらの状況を、掻い摘んで説明いたします。どうか、落ち着いて聞いてください』


 リアの言葉が、冷たい水のようにアルドの混乱を鎮めていく。アルドは琥珀を耳に押し当て、その向こう側にある「現実」の物語を聞き逃すまいと耳を傾けた。



──────────────



 グランツェル王城、東棟。


 第一王女の私室には、主の感情を反映するように、重苦しい空気が沈殿していた。


 その空気を支配する人物、セシリア・フォン・グランツェルは、豪奢な執務机に肘をつき、深いため息をついた。窓から差し込む光が、絹のように滑らかな金髪を照らし、机の書類に影を落とす。誰もが見惚れる完璧な美貌と、空の青を溶かしたような碧眼は、王家の血筋を何よりも雄弁に物語っていた。窓の外からは、今日も楽しげな祭りの音楽が聞こえてくる。だが、今の彼女にとってそれは、頭痛を誘発する騒音でしかなかった。


「……縁談、縁談、また縁談。この国の貴族……いえ、隣国からもいらしていましたね。皆さん祭りを楽しむことより、私の隣を歩く権利を争うことの方が余程楽しいようですわね」


 机の上に積み上げられたのは、王国祭の間に届けられた釣書や、舞踏会への招待状の山だ。王位継承権第三位。聞こえはいいが、実質的には外交の道具として期待される立場。セシリア自身、それを理解し、王族としての義務を果たそうとは思っている。だが、心のどこかで常に感じていたのは、埋めようのない空虚感だ。


 誰も、「セシリア」を見てはいない。見ているのは「王女」という記号とその美貌、そしてその背後にある権力だけ。彼女はただ美しいだけではない。王立魔術学院では、かのアルド・グランバルドに次ぐ次席の成績で卒業したほどの才媛でもあるが、恐らくそれは考慮に値しないのであろう。一部の貴族はむしろ彼女の知性を邪魔なものとすら考えているようだ。


 そんな日常に、小さな、しかし無視できない亀裂が入ったのは、昨日のことだった。王国祭二日目の朝。齎された報告は、「王宮魔術師アルド・グランバルド、地下点検中に意識不明」というものだった。最初は、耳を疑った。あのアルドが?学院時代、誰よりも魔法陣に真摯で、そして誰よりも偏屈だったあの男が?過去に事故など起きたことのない装置の点検で?


──アルド・グランバルド。彼だけは、セシリアを「王女」として特別扱いしなかった。彼が熱心に読んでいた古書の記述について尋ねると、彼は相手が王女であることなどお構いなしに、その理論の欠陥と自身の考察を、早口でまくし立てたのだ。呆気にとられ、そして最後に笑ってしまった。心地よかったのだ。打算も敬意もなく、ただ純粋な知的好奇心だけで対話ができる相手。彼が追求する「魔法陣意匠論」は、確かに突飛だった。だが、彼が描く魔法陣には、言葉にできない美しさがあった。機能美という言葉では片付けられない、もっと根源的な、魂を揺さぶる何か。それを「オカルト」と笑う周囲の感性の方を、セシリアは疑ったものだ。


 そのアルドだが、事故の原因は不明。時空安定装置には異常なし。アルドも肉体にも外傷はなく、すぐに目を覚ますだろうとの診断。


『命に別状はない。王国祭の進行にも影響はない』


 父王も、魔術師団長のガルディウスも、そう判断した。一人の魔術師が倒れた程度で、国家の威信をかけた祝祭を止めるわけにはいかない。それは王族として正しい判断だ。セシリアも診断結果に安堵し、その日の公務をこなした。


 しかし、それから二日が経過してもアルドが目覚めることはなかった。


「……マリアンヌ、それで再診察の結果は?」


 マリアンヌは困惑した表情で、報告書を差し出した。


「……不可解です、姫様。肉体は健康そのもの。魔力回路にも損傷はありません。ですが……『魂』が見当たらないのです」


 セシリアの碧眼が鋭く細められた。


「魂が、ない?」


「はい。肉体という器だけが残り、中身がどこか別の場所へ乖離してしまったような……そのような状態です。ガルディウス様も『時空魔術的な要因による魂の迷子かもしれん』と首をかしげておられました」


(これはただの事故ではない。もっと深刻で、魔術的な何かが起きている)


「……わかりました。下がりなさい。ああ、それと、私はこれからしばらくの間、気分が優れないので、招待はすべてお断りしてください。」


 マリアンヌを下がらせ、控える侍女たちにそう告げると、セシリアは即座に立ち上がった。縁談の書類も、舞踏会の招待状も、もはや目に入らなかった。セシリアはドレスから動きやすい服に着替え、部屋を出た。まず向かうのは地下室──時空安定装置を調査しようと思ったが、ガルディウスの報告の通り、痕跡らしきものは何も見つけられず、空振りに終わった。


(何か……何か、彼に繋がるものがないでしょうか……)


 セシリアは地下室での調査を諦め、魔術師塔のアルドの研究室へと向かう。研究室の扉は調査が入ったのか、アルドがすぐ戻るつもりで開けっ放しにしていたのかは分からないが、鍵はかかっていなかった。


「失礼しますわね……」


 セシリアは呟くと研究室の扉を開いた。部屋はアルドの性格を現すかのように、整理整頓されているが、机の周辺のみ書きかけの論文や計算式らしきものが散乱している。すべてを読んでいる時間はない。セシリアは机周辺に散らばっている、アルド自身が書いたであろう論文やレポートに焦点を絞り一つ一つ読み進めた。


「これは……」


 研究ノートらしいそれを読んでいたセシリアの手が止まる、そこには見たこともない魔法陣が描かれていた。効能書きも、術式名もない。ただ、幾重にも重なる円と、複雑に絡み合う幾何学模様。それはまるで、夜空の星々を線で結んだ星座のように、静謐で、圧倒的に美しかった。


(なんて、綺麗な……)


 セシリアは、ノートを一度最後まで読むと再度その魔法陣が描かれたページを開き眺める。魔法陣が描かれた次のページのみ不自然に白紙となっており、その存在感を高めていた。しかし、この魔方陣の効果が分からない。セシリアとて魔術師学院を好成績で卒業し、魔術師の素養は十分にあるが、その彼女が知る魔法陣の理論には存在せず、むしろ王族として培われた芸術性ばかりが目につくのだ。


(しかし……これは……)


 ただの絵ではない。そう直感が告げていた。気づけば、彼女は自身の魔力を指先に集め、その文様をなぞっていた。


──カッ──


 紙面から溢れ出した光が、部屋を、そしてセシリアの視界を白く染めた。同時に、頭の中に響いたのだ。


『……おい』


 聞き覚えのある、しかしひどく疲労した、不愛想な声。


「……っ!」


 繋がった。理屈は分からない。音声もノイズが多く、はっきりとは聞き取れないがセシリアは相手がアルドであると確信した。彼は生きている。この魔法陣の向こう側に、確かに存在している。


『……あんたは、誰だ?』


 問われて、セシリアは一瞬言葉に詰まった。名乗るべきか?いや、相手が王女と知ればアルドは余計な気を使ってしまうだろう。それに、私を王女と知らなかった頃のアルドとの会話のようで、現在のような畏まった言葉を使われるよりも心地よい。


(私を王女と知らなかった頃の、あの心地よい対話をもう一度)


という、王女らしからぬ小さな感傷が、彼女に『リア』と名乗らせた。


『私は……リア。リアと申します。あなたの治療を担当している者です』


 咄嗟に出たのは、幼い頃の愛称だった。嘘ではない。彼の意識を取り戻そうとしているのだから、広義の意味では治療だ。彼はそれを、マリアンヌの娘だと勘違いしたようだ。学院や王城内でお互い声を交わしたこともあるのに、自分だけが気づいていることに少し不満は感じるが、逆に好都合だった。訂正せず、そのまま話を進めることにした。


 セシリアは、現実で起きていることを淡々と伝えた。彼が倒れてから二日が経過したこと。そして、彼の肉体はまるで抜け殻のように眠り続けていること。机の上に広げた研究ノート。その上で淡く輝く魔法陣を見つめながら、セシリアは語りかけた。



──────────────



「……以上が、こちらの状況です。アルド様、あなたは今、どこにいらっしゃるのですか?」


 アルドは、リアの話を聞き終え、天井を仰いだ。


「……なるほどな」


 理解はできないが、状況は整理できた。自分は現実世界では昏睡状態にある。そして精神、もしくは魂だけが、事故の瞬間に発生した時空の歪みに飲み込まれ、この「廻り返り」という閉鎖空間に閉じ込められた。時間の流れや魔法陣と琥珀の関係性について、研究者としての疑問は残るが、一旦置いておくことにする。


「俺は……『廻り返り』を繰り返している」


『……めぐり、かえり……ですか?』


「ああ。午後八時から深夜零時。この四時間が、永遠に繰り返されるんだ」


 アルドは自身に起きている現象を掻い摘んで説明した。何をしても零時になるとすべてがリセットされてしまうこと。ただ、唯一自身の記憶だけが引き継がれていること。


『なるほど、それで巡り返り、というわけですか。ふふっ……少し、正直すぎませんか、その名前』


ノイズの向こうで、リアが小さく笑う気配がした。からかうような、それでいて慈しむような響きに、アルドは思わず眉をひそめる。


「……何か問題でも?現象を的確に表した、論理的な名称だと思うが」


『いえ、失礼いたしました。あなたらしい、と思いまして……それで、その『廻り返り』の中で、一体何が?』


 あなたらしい、という言葉にやや引っかかりを覚えるも、アルドは核心に触れていく。


「俺はその中で……記録によれば二千五百三十六回目の四時間を過ごしている」


『二千!?一年以上も経過しているのですか……』


一瞬、和やかになったムードから一転、リアの驚愕・絶句するような気配が伝わる。


「信じられないだろう?」


いつもの衛兵や同僚にもこのことを語った事があるが、あからさまに変な顔をされるか、一笑に付されるだけの問いかけ。アルドは言ったことを少し後悔し始めた。またあの気持ちになるのか。


『いえ、信じます。あなたは、たった一人で……そんな長い時間を、戦い続けてこられたのですね』


 間髪を入れず、リアからの応答が来た。


「……っ!」


 アルドは鼻の奥がツンとするのを感じた。そうだ、俺はただ、認めて欲しかったのだ。この果てしない戦いを。誰にも届かないと思っていたこの孤独な戦いを、誰かに知っていて欲しかった。


『あなたはもう、一人ではありません。孤独と戦い続ける必要はもうないのです」


 なんだこの力強さは、治癒師は精神までも癒やすと聞くが、こんなにもカリスマ性を感じるものなのか。アルドは頭の中から霧が晴れていくのを感じた。そして、琥珀を強く握りしめた。


「そうだ、あんたと繋がった。これが唯一の希望だ。リア、あんたの協力があれば、ここから脱出する糸口が見つかるかもしれない」


『はい。私にできることなら、協力いたします。……でも、どうすれば?』


 それが問題だった。原因である時空安定装置は、アルドの力だけではどうにもならなかった。外部からの干渉──リア側からのアプローチも、魔法陣を通じて声を届けるのが精一杯のようだ。もっと根本的な、この世界そのものを書き換えるような強大な力が必要だ。


「少なくとも俺一人の力では理論的に不可能だ。もはや不可思議な力に対抗するには不可思議な力しかないのかもしれないな。神様に願うような」


 研究者としては認めたくないところだが。


『……願いを叶える、ですか……アルド様、時計塔の「時の銅版」のお話はご存じですか?』


「時計塔?ああ、最上階にある巨大な銅版のことか。確か、初代王が設置したとかいう……」


 アルドにとっては、単なる巨大な時計の部品という認識しかなかった。と言うか、誰に聞いても同じような回答であろう。素材や文様が珍しく、観光名所にもなっている。


『それは王家に伝わる……いいえ、今は忘れられた御伽噺、でしょうか』


と、どこか自嘲するように前置きをしてから語り始めた


『伝承によれば、あの銅版には「想い」を刻む力があると言われています。真に強き願いを持って新たな時を刻む者には、その願いを具現化する力が与えられる、と』


「……それは、子供向けの御伽噺だろう?」


『ええ、そうかもしれません。ですが、あの銅版は初代王が「時空魔術」の粋を集めて作ったという説もあります。時空安定装置も彼が遺したものですし、何らかの関連性はあるのでは?』


「なるほど。魔術的な根拠は何もないが……試す価値はありそうだ」


 アルドは立ち上がった。窓の外を見る。花火の光に照らされた、王城の尖塔。その頂にある巨大な時計塔が、夜空に黒いシルエットを描いている。


「まずは調査からだな。だが、他にも問題がある」


『……時間の流れと、この念話がいつまで持続できるのか、ですね』


 リアはかなり聡明なようだ。学院の同窓生にもいたが、話が早くて助かる。


「そうだ。最悪、一回きりという可能性もあるが、実は、そっちと繋がった瞬間に一回巡り戻っている。つまり、何らかの形で時間軸が繋がったと考える方が妥当だ」


 つまり、繋がった瞬間から同じ速度で時間が流れているとアルドは仮説を立てた。こればっかりは試してみないと分からないが自身の中で一番納得のできる形だ。


「いずれにしても、零時にならなければ分からん。銅板の調査を始めようと思う」


『わかりました。こちらでも王城の文献の調査やガルディウス…様や伝説に詳しそうな方に聞き込みをしてまいります』


「よし、では一度、巡り返りの直前……二三時半になったらもう一度呼びかけて欲しい。手間をかけるがよろしく頼む」


『わかりました。現在は専属でアルド様の担当をしておりますので、お気になさらないでください。それではまた後ほど』


──ザザッ──


 ノイズと共に通信が切れる。アルドは一瞬不安を感じるも、今は迷っても仕方がないと思い直した。動くべき目標ができた。それだけで、死にかけていた魂に火が灯るのを感じた。アルドは立ち上がり、伸びをすると、以前の研究者の顔つきに戻り、部屋から駆け出した。


──俺は微かな、確かな希望を手に入れた


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