第01話「対魔導3課VS使徒マリア・ベル」
広がる廃墟はまるで猛獣に食い荒らされた動物の死骸の様な無残な姿を晒していた。
折れた鉄骨が空へ向かっていくつも突き立ち、建物の壁や地面にはいくつもの黒く乾いた血だまりがベッタリと張り付いている。瓦礫の隙間から見えるのは、無数の人々の死体、残骸。
そして――
その地獄の中心、曇天の空を背景に、二人の“天使”が浮かんでいた。
「逃げろ!!殺されるぞ!」
「早く!早く!」「助けて!」
「嫌だ!!死にたくない!」 「嫌!嫌あああああ!!!!」
地上の叫びは、天使達に届くことなく空へと溶けていく。
空に浮かぶ天使達は笑っていた。無邪気に何かを話し、談笑している様だ。
天使の一人が、ひょい。と何かを投げる様に手を動かす。
逃げ惑う人々、その一角の人間がまるで上から叩き潰された蠅の様に潰れ、血をまき散らす
「あはは!!!あははははは!!!!何でこんな簡単に死んじゃうの?人間って脆いのね」
「笑ったら駄目よマリア姉様。彼らだって尊い命には変わらないもの。もっと優しく殺してあげないと可哀想だわ」
「あらそう?じゃあ・・・・ゆっくり体を優しくちぎってあげましょう。ベル。それならいいかしら?」
指された男の体が宙へ浮かび、まるで見えない糸で吊られた操り人形のように震えたかと思うと――
ゆっくり、じっくり
皮膚が裂け、筋肉が糸を引き、骨が音を立てて折れた。
そして悲鳴と共に肉体は引き裂かれ、赤い雨となって瓦礫の上に降り注ぐ。
逃げ惑う人々の足音が震え、絶望が街を覆い尽くしていく。
いまだ逃げ惑う人々に絶望が拡散していく。
------------------------------------------------------------------------------
その様子を廃墟のビルの屋上から観察する人物が一人。
「使徒マリア・ベル。共に目視で確認」
静かに報告する青年の声は、周囲の惨劇とは対照的に落ち着いている。
だが、握る無線機の指だけが僅かに震えていた。
「・・・ゾハール教会の管轄の外は相変わらずですね」
ゾハール教会だけで全ての地域を保護できてる訳もなく、大陸の西側では毎日の様に死者が出ている。
人々が日夜、使徒の存在に脅かされる地獄の様な世界だ。
「教会が難民を少しは受け入れてあげれば、俺たちの仕事も少しは減ると思うんですけど」
『あちら側にはあちら側の事情があるのだろう。作戦に集中しろ』
『デウス-エクス-マキナ起動準備』
「ゾハール神聖騎士団との連携はどうなりましたか?」
『我々が取りこぼした時に後方待機中の騎士団が追撃を行う。先陣は譲るとの事だ』
「犠牲者を出したくないからまずはラムズからって事ですか?相変わらずですね。あの人達」
『昨夜このエリアの騎士団の駐屯地は使徒マリア・ベルによって壊滅している。正直な所出せる戦力自体、ほとんど無いのだろう』
『だから我々がここにいる』
「俺達よりも強い人達、いくらでもいますよね?首都だけじゃなくてここ(西大陸)に配備すればいいと思うんですけど・・・・」
『文句を言うな。まずは作戦を成功させ、やつらに致命傷を与える事に集中しろ』
「シオン班長、もしかしなくても、自分が一番槍ですか?」
『愁夜。先手を任せる』
「・・・はい。了解しました」
廃墟の屋上から天使を観察してた、愁夜と呼ばれた青年は無線を切る。
白シャツに黒いズボン。ショルダーホルスターを身に着け、脇には2丁の銃を装備している。
癖毛が残る白金の髪。前髪を軽くピンで固定し、視界を確保していた。
細く、長い手足を持ち、身長は180㎝程。背は高いが非常に痩せており、どこか脆い印象を持たせる。
「・・・・冬華さんに会いたいなぁ」
背中に担ぐアタッシュケースについているボタンを押し、床に投げ捨てると、金具が弾け、中から巨大なライフルが飛び出した。愁夜はそれを手で掴むと、300M程先の上空で今も尚談笑している二人の天使へと照準を合わせる
「そうだ、今夜連絡してみようかな」
まるでこれからデートの予定を立てるかの様に愁夜は独り言を囁く
「──生きて帰れたら」
「対魔導3課作戦開始」
----------------------------------------------------------------------------------
〈魔動機主電源〉……接続完了。
〈血液循環路〉……流量安定、圧力規定値到達。
〈霊素変換炉〉……出力臨界、効率92.4%。
〈魔法障壁中和モジュール〉……対象フィールド崩壊率計測中……同期完了。
〈弾体装填〉……ロック確認、封印解除。
――デウス-エクス-マキナver.RELIC
システムオンライン。 荷電粒子砲 発射
着弾まで 残り1秒
----------------------------------------------------------------------------------
バキン!バキン!といくつもの見えない壁が破壊される音が辺りに響き、一体の使徒の腹部を光を纏う弾丸が貫く。
「あら?」
間の抜けた声と共に、その体は内側から破裂した。
紅い霧が空中で散り、上半身が霧散する。
「あら姉様、上半身が無くなってますわ」
そのまま残された下半身がほんの少し上空を歩く様にフラフラと動いた後、地上へと落下する
同時に、輪の下から新しい体が産み落とされる様に現れる
「すっごく痛いわ・・・誰かしら」
使徒二人の視線が遠く離れた廃墟の屋上にいる愁夜を捉えた。
「魔法障壁壊したのになんで生きてんの?」
疑問をぼやきつつも、愁夜は2撃目を発射。使徒達はそれを躱すと、羽を羽ばたかせ、更に上空へと舞い上がった。
2体の使徒が灰ビルへと手を翳し、同時に天使の輪が赤く発光し、紫電が走る。
「ラムズは」「人間は」
2人の言葉が重なる
「「消えてしまいなさい」」
同時に、廃ビルの屋上は、まるで見えない隕石が落ちたかのように、押しつぶされて爆散した。
「重力操作魔法かな」
事前に攻撃を感知した愁夜はビルから飛び降り、それを回避していた。
空の中で体勢を整えながら顎に手を添え思考する。間違いなく魔法障壁は砕き、体を拭き飛ばした
にも拘わらず、輪からあの使途は再生した。魔法では無い。恐らくあの使徒の体質か。
「こんにちは」「こんばんは」「ごきげんよう」「調子はいかが?」
ビルから落下する愁夜に追従する様に二人の天使が左右に現れ、手を翳す。
愁夜は腕に抱えた大型ライフルを投げ捨て、ショルダーホルスターから銃を素早く引き抜き、左右の使徒に同時に発砲する。
片方の使徒はそれを避け、片方は撃たれても構わず突撃する。
頭、心臓を一瞬で打ち抜かれ、大きな穴が穿たれるがそれでも動きは止まらなかった。
天使の腕が上から振り下ろされる。
同時に、愁夜の体に巨大な衝撃が叩きつけられた。
視界が白く弾け、壁、窓、空気の圧が一瞬で混線し、
次の瞬間、愁夜は別のビルの壁へ激突していた。
「げほ」
口から溢れる血が顎を伝う。強化スーツがなければ即死だった。
愁夜の正面に使徒マリア・ベルがフワフワと漂う様に現れる。
「あらあらこのラムズまだ生きてるわ」
「姉様どうしましょう?どうやって殺してやろうかしら」
「両腕と両足を1本ずつ優しくちぎってあげましょう。最後は首をねじ切る瞬間の苦痛に歪んだ顔を見ながら血を頂きましょう」
「あはは!面白そう、姉様冴えてますわ」
愁夜は震える右腕で銃を構える
「・・・はぁ・・・害虫風情がよく喋る」
「人間様をあまり舐めないでほしいなあ」
「あらあら。まだ無駄な抵抗をする気みたい」「なにをやっても無駄。私達にあなたの玩具は通じないわ」
ケラケラと笑いながら、天使達は嘲笑う様に愁夜へと近づき、銃をわざと額に充てさせる
「どうぞ撃ってごらんなさい」「同時に腕を引き裂いてあげるわ」
死刑宣告を受けながらも愁夜は無線機へと淡々と言葉を投げかけた
「シオン班長。見てましたよね?タイミング合わせてもらえますか?」
『了解』
愁夜の銃が使徒マリアの額を撃つ
同時に――
何も無い空間から突如、日本刀を構えた女性が現れる。
空中から落下しながら現れたその女性は、愁夜が使徒マリアの頭を撃つ瞬間とほぼ同時に
使徒ベルへと切り込み、一閃で首を跳ね飛ばした。
「あら」「あ・・・」
マリアは撃たれた衝撃でそのまま後ろに倒れる様に地面に落下。
首を飛ばされたベルは、その首を手で受け止めようとして宙を掴む。
同時に大量の血液を首から噴水の様に吹き出しながら地面へと落ちていく
その場に残された2体の天使の輪にビシ!!!とヒビが入り
そのまま砕け散る。
「お互いの魔力でお互いに不死性を与えていた。そういう事だろ?」
日本刀の女性は斬った勢いをそのままそのまま愁夜がめり込んだ壁の傍らに日本刀を突き刺し
そのままぐるっと回転する様に跳躍し、刀の上に静かに降り立つ。
「作戦成功」
シオン班長の作戦終了の合図で一気に体の力が抜ける
「はぁ・・・・」
愁夜は壁にもたれ、空を仰ぎながら安堵の息を漏らした。
「──生きてたぁ」




