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1章 最終話「10年後も肩を寄せ合って、君と」


夢を見ていた。何も無い、どこまでも続く真っ白な空間、いくら歩いても、周囲には白い景色がどこまでも続いてる。


何も無い世界で僕は、エリィの事を探し続ける。ここがどこなのか、何が起こってるのか、何も関係ない。

ただ彼女の事が心配だった。


今頃一人で泣いているかもしれない。どこかで傷ついているかもしれない。




「私はシズ君を守りたい。シズ君が生きる世界を。この手で守るんです」



違う。君はただ、この世界の事をもっと知りたがっていただけだ。

あんなに楽しそうに外の世界を歩き回る彼女は、戦う事なんて本当は望んでいない



「最初は怖かった。苦しかった。ここに来る勇気なんて、少し前の私だったら、無かったんです。きっと」



違う。この時だって怖かった筈だ。自分の事を僕に知られるのが怖くて、でももう一人ではどうしようも無くて、それでただ僕の為に自分を殺していた。だって、君の手は震えていたから



「でも、あなたが平和に過ごす世界を守れるなら私はもう、何も怖くない」



違う。絶対に違う



だって君は、あの時、泣いていたんだから。






ふと、視界の端に扉が現れる。 白い空間の中にぽつんと立つ、木製の扉。

僕はゆっくりと近づき、ノブに手をかける。

指先が冷たい金属に触れた瞬間、周囲の空気が変わっていくのを感じた。


ギィ……と音を立てて扉が開く。


カランカラン、とドアについているベルが鳴る。

中は落ち着いた雰囲気の小さな喫茶店だった。


コーヒー豆の香ばしい匂いが鼻をくすぐり、窓辺からは暖かな陽ざしが差し込んでいる。

一歩踏みしめる度に床板が軋む音が妙に心地よかった。



カウンターの向こうから、一人の女性が現れる。



「あらあら、いらっしゃい」



その女性は、僕の大事な人に、とても良く似ていた


「・・・・エリィ・・・?」


目元も、声も、仕草も。その身にまとう空気も、全てエリィと同じ。

だが彼女の長い髪は白金ではなく黒、耳の形もゾハールの民ではない。


「この場所に来たのは、あなたが初めてです。お客さん第一号ですね」


微笑みながらエリィに似た女性は手で小さくガッツポーズを作る。長い髪をうなじでまとめ、楽しそうに体を揺らしながらエプロンのひもを結びなおす


「座ってください。今コーヒーを出しますね」


僕は促されるまま席に着く。

椅子の木の感触が背中に心地よく、窓の外の景色はどこか小さな町の一角を思わせる素朴な場所だった。


店内に流れる静かな音楽と、容器が触れ合う微かな音が空間を満たす。 僕はぼんやりと外を眺める。 なんだか少し眠くなってきた。


「はい。どうぞ。」


目の前に出されたのは真っ黒なコーヒー。

湯気が立ち上り、香りが鼻腔をくすぐる。

僕はカップを手に取り、ゆっくりと喉へ流し込む


「苦い・・・」


「でも・・・美味しいな。すごく、良い香りがする」


彼女は頷きながら、カウンターの端に肘をついてこちらを見つめる。


「ふふ。でしょう?私もブラックが好きなんです。ほっとするし、何だか落ち着くんです」


彼女は目を輝かせながら、僕へ訪ねる



「あなたのお名前は?」



「・・・シズ。僕はシズ・マクレーン・・・貴方は?」



彼女は軽く微笑み、胸元に手を添えて答えた。



「私は七海。赤屍七海って言います。よろしくね、シズ君」



「人を探していたんだ・・・あなたに、よく似た人を」


「彼女は今もどこかで泣いているかもしれない。どこかで傷ついてるかもしれない・・・だから早く見つけてあげないと」


「その人の事が、とても大事なんですね」


僕は頷き、視線を落とす。


「うん。僕よりもずっと強くて、いつも助けてくれて。いつも笑顔で」


「でも、なんだか危なっかしい所もあるんだ。僕がついててあげないと」


七海はふふっと笑い、カウンター越しに手を差し出すような仕草をする。


「シズ君は優しい子ですね。じゃあ。早く見つけてあげないと」



コーヒーを飲み終えた僕は、七海と一緒に喫茶店の外に出る。 扉を開けると、そこは先ほどまでの真っ白な空間ではなく、暖かな陽気につつまれた小さな商店の一画だった。


七海は指先で道を指し示す。



「この道を真っすぐに進んでください。きっと、あなたの探してる人がいる筈です」



「七海さんは?ここにずっといるの?」


彼女は微笑みながら、店の扉に手を添える。


「私はここから出ていけないんです」


「シズ君。絵梨を・・エリィの傍にいてあげてね」


「私はあの子に幸せになってほしいの・・・その為に、貴方がいてあげないと」


僕は彼女の眼を真っすぐに見上げ、彼女の袖を手で引く。


「・・・また会える?」


七海は困ったような笑顔で肩をすくめ、少しだけ首を傾ける。


「あはは・・どうでしょうね。でも」


「いつまでも、元気で。幸せで、穏やかである様に。私は願っています」


「ありがとう。七海さん。じゃあ僕。行くよ」


僕はゆっくりと示された道を走る。エリィの事を考えながら、彼女の声を探しながら。


途中で一度振り返る。七海の姿はそこには無かったが、暖かな光だけがその場を包み込む。



僕は走った。走り続けた。



大切な人の事を、想い、考えながら。彼女の名前を呼びながら




僕は走り続けた





-----------------------------------------------------------------





目を開けると、目の前には見知った天井があった。


エリィと一緒に住んでいた、あのアパートの天井だ。

朝の陽ざしが窓から差し込み、外からは鳥の鳴く声が聞こえる。


窓のカーテンが風に揺れ、光が部屋の中をゆっくりと移動していく。



僕は僅かに目を細め、天井へと自分の手を伸ばす



「生きてる・・・?」


喉の奥から漏れた声は、かすれていた。


あの巨人に乗り込んでからの記憶は曖昧だが、僕は使徒を殺した。

その感触がまだ感覚として残っている。

その後自分が壊れていく感覚も、全て覚えている。

僕の全身には包帯がいたるところに巻かれてまるでミイラ男みたいになっていた。


腕も、胸も、足も、動かすたびに軋んだ。


上体を軽く起こそうとするが、全身に激痛が走ってうまく動けない。


ふと、目にかかる髪の毛に違和感を覚える。 指先でそっと触れると、柔らかく、しかし色が違う。


「うわ・・・なんだこれ・・・」


僕の髪は色素が完全に抜け落ちた様に真っ白になっていた。

これは元に戻るのだろうか?まるで一気に老けたみたいな妙な感覚だ。


視線を動かす。


顔を横に向けると、そこには──



「すぅ・・・すぅ・・・」



顔を横に向けると、僕の手を握り、ベッドに上半身を預けて眠るエリィの姿があった。

彼女の髪が頬にかかり、呼吸に合わせてわずかに揺れている。


先ほどまで泣いていたのか、目元に涙の跡がある。僕はそっとエリィの手をほどき、彼女の涙をぬぐう。



良かった。怪我もあまりなさそうだ。



「ん・・・」


エリィの眼が開き、僕と目が合う。

一瞬、時が止まったような沈黙。



「・・・シズ君?・・・シズ君!!!!」



エリィの眼が見開かれ、またたくさんの涙が溢れてくる。そして、僕の体に思いっきり抱き着いてきた


「シズ君!!!目覚めたんですね!!良かった・・・本当に・・・!!」


「いったあああああ!!!痛い痛い!痛い!エリィ揺らさないで!!まだ超痛いから!死ぬ!死んじゃう!」


僕は身をよじるが、痛みで動けず、顔をしかめる。


「あ・・!ごめんなさい!!!」


バッと慌ててエリィは離れる。両手を軽く上げてもうしません、というジェスチャ彼女の頬は赤く染まり、目元にはまだ涙が残っている。



僕は大きくため息をつき、彼女に向けて改めて微笑む。


「・・・エリィが助けてくれたの?」


エリィは俯き、指先を膝の上で絡めながら静かに語る。


「・・・自分でも、何が起こったのかは解りません。シズ君を助けなきゃって」


「絶対に死なせたくない」


「一緒にいたい。傍にいてほしい・・・って」


「そう・・願ったんです・・・」


話ながら、エリィはすぐに涙声になってしまった。


エリィは僕の手をそっと優しく握り、指を絡める。


「生きてる・・・シズ君が・・・生き・・てる・・・」



涙は溢れ、止まらない。

僕は彼女の手を握り返し、ゆっくりと頷く。




「・・エリィ。話そうよ。これからの事、ゆっくり話そう。」



「エリィが泣かなくてもいいようにさ」



「一緒にいよう。ずっと」



彼女は涙を拭い、満面の笑みで頷いた。




「はい」



僕の事をたくさん話そう。彼女の事をたくさん聞こう。もっと知るために。


時間はたくさんあるのだから




-------------------------------------------------------------------------



石造りの床に、振動が周期的に伝わっている。

壁面の巨大な歯車がゆっくりと回転し、天井から吊るされた振り子が重々しく空気を切る。


アゾス地下区画最下層、時計塔エリア。


コーネリアと、もう一人の男が立っていた。


「赤屍恭介。何も言わずに行ってもよいのですか?」


「貴方は彼女の【親】なのでしょう。」


「・・・僕からも、恐らく彼女からも話す事は何も無い。今はまだ」


「僕は・・・僕のしたことを後悔していない。だが」


「【親としての責任】は果たさねば駄目らしい」


「・・・君たちの計画に力を貸そう」


「それがあなたに残された道であるならば。我々教会はあなたを支援します」


「さぁ行きましょう。」


「エルウッドを家に送ってあげなければ」


コーネリアは頷き、手に持つ赤い結晶体を胸元に抱える。

それはかつて、使徒エルウッド・ヴァレンタインだった物。


結晶体の反射が周囲に僅かな光を照らす。 その光が、振り子の影と交差しながら床に揺れる。

コーネリアは振り返り、その視線の遥か先の先、ずっと遠くにいる彼女に対して、届かない挨拶を送る。


「さようなら、エリィ()様―デウスの化身よ。また会いにいきます。」


「近い内に、必ず」




二人はゲートを潜る。

振り子の音が遠ざかり、歯車の回転が静かに加速していく。





神と魔法の地、ゾハール大陸へ。





書いてる途中で設定が変わった部分が結構あります。その矛盾点や、ここもっとこうしたいなって部分を加筆修正して全体の構成の見直しをしばらくやろうと思います。


拙い小説ですが、2度目の区切りまでたどり着けました。最新話を読んでくれてる人がいる事は、とても励みになりました。ここまで読んで頂いた方、本当にありがとうございます。


追記 10月までに再開して書いていきます。よろしくお願いします


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