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第18話「使徒殲滅戦②」

格納庫で二つの影が激しく動く。


シズは炎の槍を顕現し足元から噴き上がる火柱を踏みしめながら突進する。

槍を振るうたび、空気が焼け、軌道に沿って赤い残光が残しつつ、エルウッドの周囲に火の円を描く。


シズは何度も何度もエルウッドへと攻撃を叩きこむ。


だが、エルウッドはそのすべてを紙一重で躱す。 重心を崩さず、上体をしならせ

足を滑らせるように動かす。 炎が掠めるたびに、彼の周囲の空気が歪むが、魔法障壁がそれを弾き返す。 シズの体から噴き出る火でさえ、彼の皮膚に一つの焦げ跡すら残せない。


魔法障壁が弱った状態で、この出力。


化け物。しかし逃げる訳にはいかない!!



「う・・・シズ君・・逃げ・・・て・・・」


駄目だ。ここで逃げたら冬華は確実に死ぬ。だったら僕が少しでも時間を稼ぎ、救援を待つ!



シズは息を荒げながら、槍を逆手に持ち替え、低い姿勢から跳びかかる。

だがその瞬間、エルウッドの手がシズの首を掴み上げる。 空中で体が止まり、炎が散る。


「あぐ!!!」


「はっはーーー!!!!とろいとろい!!当たればちょっとは痛そうだけどなぁ!てめぇの魔法もくっさい空気のせいで完全な力は出せねぇみたいだなぁオイ!」


エルウッドの顔がシズの目前に迫る。 口元が裂け、歯が剥き出しになる。


「何でもいいけどさぁ!!!俺、お前の血が!!!!」


異様に尖った爪、指先に力が集中し、血管が浮き出た手を大きく振り上げて構える。


「すっごくほっしい・・・な!!!!って!!!!」


その手をシズの顔面を刺しつらぬく勢いで叩きつけた。



だが



「あ・・・?」




肘から先が切断され、無くなる。その様子を3秒程あっけにとられた表情でエルウッドは見ていた。





「・・・なんだぁ!!!?!!」




床の下部が波打ち、空間がバチバチと音を鳴らしながら歪み、エルウッドの真下から屈んだ状態で刀を構えたシオンが現れた。彼女の持つ刀仕込み杖の力。


魔動機のエネルギーにより通常の何倍にも高められた光学迷彩がエルウッドの視界を麻痺させていた。


シオンは刀を構え赤く光る刀身を走らせる。


デウス-エクス-マキナ。アンチ魔法システム。そのエネルギーはあらゆる魔法障壁を打ち砕く。



「死ね」



踏み込みと同時に斬撃を放つ。

エルウッドの残された手足が全て両断される。


一瞬浮き上がった胴体をシオンは蹴り飛ばし、エルウッドは血をまき散らしながら地面に叩きつけられた。



「ギャアアあア!!!いってぇぇえ・・・・ええ!クソ!クソガアア!!!」


エルウッドの叫びが格納庫に響く。そしてシオンが後方に叫ぶ


「エリィ!!!!やれ!!!!」


エルウッドの上部に巨大な光の盾が現れ、そのまま勢いをつけて叩き潰す。


床を抉り飛ばす程の衝撃。グシャア!!!という音と共にエルウッドは肉塊へと変わった


「・・・・っはぁ・・・」


エリィが構えた手を下げ、肩を落とす。 床に散った光の粒が、ゆっくりと消えていく。


シオンは刀の血を布でふき取り、を杖に収める。


「紅蓮の魔導士、エルウッド・バレンタイン、一瞬だが直接姿を見たのは初めてだな」


「魔法も障壁もほとんど機能していなかった筈だ。」


ゾハール大陸内での使徒との交戦経験があるシオンだが、ここまで手ごたえが無い障壁を砕いたのは初めてだった。これ程弱ってしまうのであれば、奴らが大陸に引きこもる理由も頷ける。だからこそ──


「───自殺行為だ。まぬけが」


肉塊に言葉を吐きつけ、、シオンは冬華へと駆け寄る。



シオンは冬華へと駆け寄る。


「・・・無事か?」


冬華はうなずき、壁に背を預ける。 その周囲には、破片と血痕が広がっていた。


「シオンさん・・ごめん・・・皆が・・・」


「いや。いい。それよりも、敵は?これで全員では無い筈だ」


「解らないほとんどの奴はここにいたみたいだけど、もう一人、女の子がいた。・・・あいつも多分使徒だ。」




シオンと冬華が会話するすぐ横で、エリィとシズが再び対面する。




「エリィ。その・・・」


「・・・・・・」


シズが言葉を探すように口を開く。

エリィは視線を逸らし、無言のまま立ち尽くす。


その時、シオンが不意に口にする。


「おかしい」


「こんな状態なのに・・・何故【結晶化】しない」


その言葉とほぼ同時に


ドンドンドン!!


数発の銃声


シオンの腹部、肩、腕にいくつもの銃弾が突き刺さる。




「・・が・・・!!」


シオンの身体が後方へ吹き飛び、床に叩きつけられる。

杖が手から離れ、カランと音を立てて転がる。


「シオンさん!!」


床に転がる肉塊の中から、まだ動く「手」があった。 その手が拳銃を握り、引き金を引いていた。


銃口から煙が立ち上り、薬莢が床に跳ねる。 エルウッドの腕は、神経も筋肉もないはずなのに、確かに動いていた。そして、


次の瞬間、空間に赤い天使の輪が現れ、激しく発光する。まるで逆再生する様にエルウッドの手足と血が集まり、エルウッドは服も含めて完全に自分の姿を取り戻した


「馬鹿・・な・・・」


完全に潰されても死なない使徒等、聞いたことが無い。 



こいつは何だ?



「クヒ」


「ヒヒヒ!!!ヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!!ははははは!!!」


エルウッドは自分の顔を鷲掴みにし、上体を大きく仰け反らせ狂った様に笑い飛ばした


天使の輪が、一段と強く発光し、エルウッドは髪の毛をそのまま上に撫でつける。そしてその目でエリィを捉えた。



「見ぃつけたぁあああああ!」


床を踏み砕き、凄まじい勢いでエリィへと突撃するエルウッド


「この・・野郎!!!」


シズが槍を顕現し、エルウッドの前へと立ちはだかる、そのまま槍を穿つが、エルウッドはそれを避け、シズの胴体を抉る勢いで蹴り飛ばした。


「邪魔だぁ!!!」


あばらから、ゴキィ!と骨が砕ける音が響く。


「げほ・・!!!」


シズはそのままの勢いで地面を激しく転がり悶絶した。なおもエルウッドの突進は止まらない


「シズ君!!!!」


エリィは一瞬シズの元へ駆け寄ろうと足を動かすが、目の前の悪意がそれを許さない


「・・・っ・・・アイギス!!!」


盾がエリィの前に展開される。しかし構わずエルウッドは盾に向かって突撃し、障壁へと【しがみついた】


「アイギスの盾!?間違いない!それだ!!!その匂い!!感じるんだ!!!お前だな!?お前が持ってるな!!【デウスの心臓】を!!!」


盾の表面に、彼の呼気が白く曇る。 天使の輪がさらに強く発光し、エルウッドの瞳孔が細く収束する。


「お前の心臓を!!!よぉこぉせえぇええええええ!!!!!」


吠える。同時に天使の輪に強い電流の様なプラズマがバリバリと音を立て、その衝撃に周囲に散らばる瓦礫が吹き飛んだ


エリィはその圧力と狂気に気おされ、一歩足を下げる。今までにない感覚が足の先から全身へと伝わり、手が震えた


「こ・・・来ないで!!!!」


エリィの魔力が爆発的に放出され、障壁が膨張する。

エルウッドがしがみついたまま、障壁ごと吹き飛ばされる。

彼の身体は空中で回転しながら背中から壁へと激突する。


——ドガァン!!!


壁面が陥没し、粉塵が舞い上がる。 煙が格納庫全体に広がり、視界が一時的に遮られる。


「痛つつつ・・・クヒヒ。でもいいなあ。クッサイ場所でも、こんなに匂うんだ!なぁ!」


「何やってるんですかエルウッド」


声は高所から。 コーネリアが、格納庫の隅に鎮座するデウスエクスマキナの肩に座っていた。 脚を組み、片手で顎を支えながら、冷ややかな視線を向ける。


「コーネリア!お前どこ行って何してた!?俺が一生懸命働いてるのに油売ってんじゃねーよ!鳴かすぞてめぇ!」


「彼女が例の?」


「そーだ見つけた!でも駄目だ!アイギスにゃこんなの使えねえ!」


エルウッドは苛立ちを込めて拳銃を振りかぶり、エリィへと投げつける。

銃は盾に弾かれ、床に転がる。


「コーネリア、そいつの出番だ!こっちに寄越せ!」


コーネリアはエルウッドに大きなケースを投げつけた。空中で回転しながら落ちそのままエルウッドの腕に収まる。


勢いのままケースを開き、彼は中から一振りの剣を取り出す。

それは透き通った青い刀身を持つ美しい剣だった。

剣の周囲に不思議な気配が、熱が挙がった格納庫の空気を瞬間的に冷やす様な感覚を

その場にいる全員が感じとる。



「デウスの遺産。【マルスの剣】だ!!!!」



エルウッドは剣を肩に担ぎ、口元を歪ませる。


「さぁ~行こうか!!!ラウンド2だ!!!」


彼の足元が軋み、床に亀裂が走る。


エルウッドの天使の輪が再び発光し、格納庫の照明が一瞬、赤く染まった。



冬華は肩の出血のせいか、壁にもたれたまま浅く呼吸したまま動けなくなっていた。


シオンは仕込み杖を支えに、震える膝で立ち上がる。

刀を抜き、構えるが、荒い息と揺れる視界が彼女の集中を奪う。

それでも、彼女は唇を震わせながら言葉を絞り出した。


「薄……汚い……使徒……共め……!!!!」


だが、身体はもう限界だった。 彼女の足は動かず、剣は震え、視線は地面に落ちたまま。



そして、シズ。


僕は―― 砕けたあばらの激痛に、ただ地面に伏していることしかできなかった。

首だけを動かし、エリィの姿を探す。


「が……!!ぐぅ……ああ……エリィイ!!!!逃げて!!!!!」


声は掠れ、届いたかどうかもわからない。


だが、エリィは振り返った。彼女は、泣きそうな声で、必死に叫ぶ。



「・・・・駄目!!!!駄目です!それじゃみんなが死んじゃう!!!


「私が、みんなを守る!!だから!」


溢れそうになる涙を堪え、歯をきつく食いしばり、彼女は使徒の前に立ちはだかった


「私は、戦う!!!!!!!」


エリィの魔力が感情と共に爆発する。空気が破裂する様な音と共に、足元に陣が広がる。

周囲に無数のアイギスの盾が現れ、彼女の周囲を激しく回転し、敵を威嚇していた。



僕は、このまま何もできないのか?


このままだと  彼女はきっと傷つく。


あんなに怖がってる彼女に、僕は   何も?


エリィを―


僕が。 彼女を    



             守らないと   







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