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第17話「使徒殲滅戦①」

地下20階。デウス-エクス-マキナ格納庫エリア。




魔動機が未搭載の鋼の巨人が立ち並ぶ強大な格納庫。


その空間は今、血と硝煙の匂いでむせ返っていた。

床には無数の死体が転がり、壁には焼け焦げた痕が残る。

天井の照明は一部が破損し、断続的に明滅している。


「んーーー♪ん♪ん・んーーーん♪」


エルウッドは鼻歌を歌いながら、ステップを踏む。

血だまりを避けるように、倒れた死体の間を軽やかに跳ねて進む。

その足取りはまるで舞踏会のように優雅で、場の惨状とあまりに不釣り合いだった。



「んーーー・・・ん?」


彼は立ち止まり、周囲を見渡す。

そこには、死体の山。生き残りは誰一人として存在しなかった。


「おい!全員殺したらルートが解らねぇだろ!?誰に道案内させんだよぉ!」


苛立ち混じりに叫ぶエルウッドに、傭兵の一人が無表情で答える。


「命令にありませんでしたので」


ドン!!!


エルウッドの銃が火を噴く。 傭兵の頭部に穴が開き、膝から崩れ落ちた。

血が床に広がる様子を他の傭兵たちは微動だにせずただ見ていた。


「あーーー・・・どうすっかなあ・・・迷路みたいに入り組んでっからなぁ」


彼は頭をかきながら、格納庫の奥へと視線を向ける。


その時、コーネリアは片眼を開き、扉の方へと振り返る

鼻先をくすぐるような微かな匂いに、眉を寄せる。



「エルウッド。【同胞】の匂いがします。」


「ん・・・・お仲間か?」


彼は首を傾げながら、ゆっくりと歩き出す。 その足音に呼応するように、頭上の天使の輪が微かに発光し、静電気が空気を震わせた。


----------------------------------------------------------------------



扉が開く。 シズと冬華が足を踏み入れた瞬間、鼻を突く血の匂いが二人を包む。


「なに・・・これ」


冬華の眼にしたもの。それは。


血まみれになって倒れるアゾスの研究員達。


そして銃を持つ、傭兵達


「・・・そん・・な・・・みんな・・みんな!!!!」


冬華が叫ぶ。傭兵の銃が一斉に冬華とシズに狙いを定め、ガチャリと音を鳴らす


だがエルウッドが片手を掲げ、静止を促した。


「おーーーっと!!!!殺すな殺すな殺すなよ?」


ニヤニヤと笑いながら二人を見下す様に言葉を吐き捨てる。


「おいそこのラムズ!こっからもっと下に、あるんだろ!?【心臓】が!!そこまで案内しろや!そーしたら・・命だけは助けてやらん事も無い事もないと―」


シズの眼にした物。それは


赤い天使の輪



使徒



Longinus(ロンギヌス)!!!」



シズの体の魔導に火が付き、一気に爆発する。


体から吹き上がる火の熱の勢いが、一気に格納庫無いの温度を上昇させる。


傭兵達は驚愕し、そのうちの一人が口にする


「魔法!?神の奇跡だと!?何故だ!!!!」


その叫びを皮切りに傭兵達がシズに一斉に機関銃を撃つ。


冬華は素早く伏せ、手元の端末を操作し始める。 その指は震えながらも、正確にキーを叩いていた。


エルウッドは命令を無視した傭兵達を咎める事も無くその様子を怪訝な表情で見ていた。


「あれ?お前って・・・」


エルウッドはポツリと呟く。


シズは


「邪魔だ!!!」


撃たれた銃弾は全て熱で強化した魔法障壁で消し飛ぶ。

手に火が収束し、槍が顕現された。


そのままの勢いでシズはエルウッドをありったけの怒りを込めて睨みつけ、槍を構え飛び掛かる。


「お前らだけは!!絶対に許さない!!!」


穿つ。炎の残滓が火の粉と鳴って舞い、エルウッドに必殺の一撃を打ち込んだ。


エルウッドはその攻撃を上半身だけを器用にのけ反らせ躱し、尚シズを怪訝な表情で見ていた


「ん・・・いや・・違う・・?でも・・・うーん?」


シズは逸れた槍をそのまま地面に突き立て、それを視点にぐるりと方向転換、そしてもう一つの手で槍をまた生成し、エルウッドへと投げつける。


エルウッドは後ろを向いたまま首を横にひねり、その槍も躱す。


「っ・・・!まだだ!!!」


槍を再び顕現しようと手に炎を集めつつ、更に飛び掛かる。だが


次の瞬間エルウッドは、いつの間にかシズの前に唐突に現れ、手のひらをガッシリと掴んだ。

集まりかけた火の粉が周囲に霧散し、火が消える。


「う・・!」


一連の動作が何も見えなかったシズは咄嗟にもう一つの手でエルウッドの顔に拳を打ち込む。だが、その手も掴まれ、両腕を拘束された。


「お?お前やっぱりそうだ」


白く長い髪が、エルウッドの眼を覆っている。

だが、その隙間から覗く瞳が、大きく見開かれ、赤く発光する。


その光が、シズの眼を射抜いた。




「デウスの血が混じってるな?お前」




その視線に込められた圧力に、シズの背筋が凍りつく。


「クヒ」


エルウッドの口が開き、通常の人間よりも牙の様に尖った歯が露わになり、シズの首元へ。だが



「シズ君!!!!魔法障壁を!!!」


その言葉が耳に届く。シズはエルウッドの顔に頭突きをしつつ、腹に蹴りを叩きこみ、距離をとる、同時に熱を纏った魔法障壁を展開


冬華が手元の端末の操作を終え、格納庫で沈黙していた鋼の巨人

デウス-エクス-マキナが動き出す。高速具を弾き飛ばし、その手が動く。


その腕が駆動音と共に振り上がり、銃口が傭兵達に向けられる。


次の瞬間――


ガガガガガガッ!!!


凄まじい音と共に、死の鉄塊が格納庫内を駆け巡る。 銃弾が壁を穿ち、床を抉り飛ばし、傭兵達の肉体を容赦なく貫いていく。


「あぎい!!」  「が!!!」

                 「あああああ!!!!」

  「ギャ!!!!」

           「ぐあああああ!!!」      

「ぐ!!」


断末魔の叫びが、格納庫の鉄骨に反響する。

最後にグレネードが撃ち込まれ、格納庫に爆発の衝撃が広がり空間を激しく揺らす


傭兵達は致死量の弾丸が撃ち込まれ、その場にある死体の数が更新された。

辺りに埃と煙が舞い、視界を覆う


「冬華・・?」


シズは周囲を確認するが、煙が舞い何も見えない。 耳に残るのは、機械の駆動音と、遠くで軋む鉄の音。

次の瞬間、冬華はシズの手を取り、駆け出す


「逃げるよ!!!シズ君!」


「あ・・ちょ!ちょっと待って!!あいつらがまだ!!」


「駄目!あの子達(マキナ)には魔動機が搭載されていないの!外の空気でいくら弱ってても、あいつらは化け物だ!早くシオンに合流しないと!早く逃げ―」



ドン!!!!!



乾いた銃声が響き、冬華の肩を銃弾が貫いた。 彼女は駆け出した勢いのまま、前のめりに転げ、地面へと蹲る


「あ・・・あああああ!!!!」


「冬華!!」


シズが叫ぶ


だが――


煙の向こうから、ゆっくりと歩いてくる影があった。 赤い輪を頭上に浮かべ

白い髪を揺らしながら、エルウッドが姿を現す。


「クヒ!!!ヒヒ・・・ヒ!!!ヒハハ!!!あーーーーーっはっはっははっは!!!!!!!!」


エルウッドの不快な笑い声が空間を満たす。


赤い天使の輪が、静電気を放ちながらゆっくりと回転していた。


彼はシズを見下ろし、歪に口をゆがめる



心臓の前に、おやつが舞い降りた、くっさいくっさいラムズの土地。我慢して来たかいがある。



【デウスの血】



「やっと見つけたぁ・・・・」




-----------------------------------------------------------------------------


―地下50階。




いつの間にか別行動していたコーネリアは一人暗い廊下を進んでいた。

壁に設置された照明は半分以上が消えており、残る光もちらついている。



目を閉じてるにも関わらず彼女の足取りは迷いなく真っすぐに歩を進める。


やがて、廊下の突き当たりにある一枚の扉の前で足を止める。


扉は重厚な金属製で厳重なロックがかけられていた。

だが、コーネリアはそれを一瞥しただけで、何の躊躇もなく手をかざす。


指先が扉に触れると、微かな振動が走る。 そのまま軽く押すだけで、鉄のように分厚い扉が軋む音を立て、内側へと倒れていった。


部屋の隅の椅子に腰をかける男がいた。コーネリアの声が響く。


「こんにちは」


男は動かない。 しばらくの沈黙の後、低く、掠れた声が返ってきた。


「・・・・誰かな」


コーネリアは部屋に一歩踏み出す。



「お久しぶりです赤屍恭介。あなたに会いに来ました」



デウス・エクス・マキナの魔動機開発の元最高責任者。


そして――エリィの生みの親。


彼の【赤い瞳】が、ゆっくりとコーネリアを捉える。



「ご同行を、お願いできますか」



コーネリアの片目が開かれ、恭介を視界に捉える。


緑の瞳の奥で赤い、光彩が淡く発光していた。


恭介は何も見ていない。ここでは無いどこかを見ていた。


その目に映るのは、ここにはいない大切な誰かの姿を。


恭介はずっと探し続けていた


明日も投稿します。よろしくお願いします。

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