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第15話「使徒エルウッド・ヴァレンタイン」

町の繁華街の隅にある、人通りも少ない寂れたビル通りの一角。

一見、風化し鈍色の鉄骨が剥き出しとなったビル駐車場。

その隠された空間に"地下施設への秘密のエレベーター"がある


通じる場所は、アゾスの日本における拠点の一つ、新宿地下デウス-エクス-マキナ開発区域


一階の駐車場は静まり返っていた。

警備員たちは、その周囲に散らばるように配置され、日常的な退屈さの中で淡々と任務をこなしていた。


何も無い一日が始まり、何も無い一日が終わる。

昨日と変わらぬルーティーンで巡回を終えた警備員が二人、駐車場雑談をしていた。


「退屈だよなあ」


「文句言うなよ。毎日突っ立って歩き回ってるだけでそれなりに良い給料貰えるんだ」


「俺はこんな退屈なのはごめんだな。もっとやりがいある仕事でも探しに行こうかねえ」



軽口をたたきあう。しかし



駐車場のゲートが突如として衝撃音とともに歪み、金属音が響き渡る。




「なっ、なんだ…!?止まれ!!止まれ!!」


警備員が叫ぶも、ゲートを破壊しながら黒塗りの大型トラックが猛スピードで侵入してきた。


鉄屑が飛び散り、床を削るタイヤの痕と共にトラックが停車する。


運転席から降り立った二人組は、ゾハール人の男女。


青年は神父服の上から赤いマントを羽織り、白銀の髪の毛が目を隠す程に伸びた異様な雰囲気を纏う青年だった。にやにやと笑い、猫背でポケットに手を突っ込みながら挑発的な態度をとる。


少女はジーンズ姿にへそが見えるタンクトップ、その上からジャケットを羽織る現代風の服装をしており、肩の長さまで切りそろえられた金の髪をもつ端正な顔をしていた。


少女は一歩引いた後ろで青年の様子を見ている様だったが、その両目は開いておらず、青年のいる方角だけに首を向けていた。



「どーもどーもこんにちわぁ~」



警備員の一人が息を呑む。


「ゾハール人…!?」


特徴的な長い耳が彼らがゾハール人だとすぐに解らせる。


ゾハール大陸の外にやってくるゾハール人は少ない。使徒の脅威にさらされた土地を出ると、代償に失われるのが、魔法障壁。大気に魔力が含まれてない場所では体調も悪くなる。魔導を活性化させるデウスの魔力が欠乏する事で、体質が外の世界に順応できないからだ。


この国にいるゾハール人は、例の実験体に連れ添う子供が一人。それ以外はいない筈だった。




ゾハール人の青年はニヤニヤしながら一歩前に出ると。すうーっと息を吸い、先ほどの様子とは変わり、真剣な面持ちで集中し、静かに詠唱を始める。周囲に異様な気配が漂う。


駐車場に止められた車の窓にヒビが入り、大気が震え始める。

真っ白な髪の毛が目まで隠しておりその表情は伺い知れない。




『世界に満ちる魔の奔流、我が魔導と交わりて、デウスの名の元に顕現せよ』





詠唱と同時に、足元に血の様に真っ赤な魔法陣が一瞬にして広がる。


馬鹿な。ゾハールの外で、魔法だと!?




ゾハール人の青年は驚愕し身構える警備員に向け手を翳す。魔導が収束し、衝撃と共に魔法が炸裂する。




『breath of fire(竜の吐息)』




炸裂・・・することは無く、何も起きなかった。



魔法陣から光は消え霧散し、手からはマッチ棒で出した火の様な残滓がボフっと一瞬だけ発動。


「・・・・・・」


皆が黙る。




だが




ジャキっという音と共に、袖から、【銃が飛び出す】

青年は、耳まで届きそうな程歪められたニヤついた口で、もう一度言い放つ



『breath!! of!!! fire(竜の吐息)!!!!』




ドンドン!!!!


と2発の銃声。



警備員の一人は額に弾を受けその衝撃で後ろに吹き飛びアスファルトに叩きつけられ、声を出す間もなくそのまま絶命した。


もう一人の警備員は膝に弾が命中する。


「ぐぁあぁああ!!!・・・あ・・・ああああ!!!!!」


そのまま床に倒れこみ、あまりの痛みに悶絶する。


「く・・・ひひっ」


「ぷっ」


その様子を見ていた少女が口に手を当て、くすりと笑った。


「ひひ・・・はっは・・!!!!


あーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっは!!!!!!はははははは!!!!!!!!」


「魔法‼!!!出ねぇーーー!!!!!魔法使えないよおおお!!!!あっはっはっはっは!!!!!」



「エルウッド。あまり笑わせないでください」



「あぐ・・・が・・・あ・・何で…銃なんて・・・」


魔導士が・・・【銃を?】



「あーー~ーん??」


ズドン もう一発。警備員のもう一つの膝に弾を撃ちこむ



「ぎゃあぁあアア!!!!!」


「こんな!!!汚くて!!!くっせぇ場所で!!!魔力のカスもない!!!場所で!!!」


ズドン ズドンと言葉の区切りと同時に。エルウッドは警備員に弾を撃ちこむ


「使える訳ねぇだろお?!!薄汚い!!!【ラムズ】の分際で!!!口をきくな!!!!いいから!!黙ってろよおおお!!!!」


何発も何発も撃ちこむ。弾がなくなり、カチカチと何度もトリガーを引く手がゆっくりと止まる


「おい聞いてんのか?なぁ!」


「エルウッド。もう死んでますよ」


「・・・あほんとだ。相変わらずもろすぎね?ラムズちゃんよお」



「我々も人の事は言えませんよ。魔法障壁の力がほとんど働いていません」


「今の我らは滅ぼされる可能性があります」


「対魔導士3課の連中の多くは現在ゾハール大陸に」


「【心臓】の位置はもうすぐそこに」


地下をちょんちょんと指さす少女。


「おそらく今が、【最初で最後の好機(チャンス)】になります。失敗は許されません」



「ま、なんとかなるんじゃね。」


エルウッドがパチンと指を鳴らす



トラックの後方扉が開き、銃器で武装した傭兵たちが一糸乱れぬ隊列で現れ、彼らの前で陣を組む。


「ラムズ(人間)を殺すには、ラムズ(人間)を使うのが一番」


傭兵達は隠されたエレベーターへと進軍を開始する。


傭兵達はただ一言、それぞれが口にする。




「神の御心のままに」



その様子をニヤついた顔で見ていたエルウッドは傭兵に交じってスキップしながら、時には踊る様なステップを踏みながら前へと進む。



「はいはい行くよ行きますよ? ・・・クヒヒ!クッサイの我慢してようやくここまで来たんだ。」




「おお?近い近い近い!!近い!!!ビンッビン感じるわ!コーネリア!!感じるか!?なぁ!?」


エルウッドの気持ちの昂ぶりに連動する様に、彼の頭上の何もない場所から、小さな発光する輪が出現する


まるで天使の輪の様だが、赤く、そして静電気の様なものが全体から断続的に発生しており、とても

神に仕える天使とは到底思えない異質さを放っていた。


【天使の輪】は赤く発光しながらゆっくりと頭上で回転する


「いるんだろ?なぁいるんだろ!?」


     


     「デウス!!!」 




緑色の瞳の奥に光る赤い瞳孔が、強く発光する。



------------------------------------------------------



ドクンドクンと脈動する。心臓が、大きく跳ねた。



エリィは言い知れない何かを感じ取り、背後へ振り返る。



「・・・誰?」



懐かしい、誰かが



私を、呼んでいる


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