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第13話「シズと上島冬華」



ここで、お別れです。



言葉の余韻が抜けず、体に何も力が入らない。

まるで魂が抜けてしまった様に


ベッドに寝転がり天井を見つめてもうどれくらい時間が経ったか解らない



その後、エリィはシオンと共に別の場所へと消えていき、 僕は就寝用の部屋へと案内された。

まるで投獄されるように、無言のまま押し込められたが、文句を言う気にもならなかった。


ベッドと机しかない、簡素な部屋。 エリィと過ごしたあのアパートとは違って、ここには何もない。


ソファーも。映画も。コンビニで買ったお菓子も。 窓から差し込む、あの暖かい日差しも。


エリィも—— 彼女の声も、笑顔も。何も。




何もしたくなかった。 何も考えたくなかった。



瞼の裏に浮かぶのは、彼女の最後の言葉と、あの小さな温もり。 思い出すたびに、胸の奥がじくじくと痛む。


「ここでお別れです、か」


彼女の言葉を反芻し、その意味を考える。

寝返りを打ち、猫の様に丸まり、僕はシーツをギュッと握りしめた。


「何だよ・・・それ・・・・」




コンコン。



軽く、遠慮がちにノックの音が響いた。



身体が反射的に跳ね起きる。


心臓が早鐘を打つ。


もしや、エリィ?


期待と焦りが交錯し、僕は扉を勢いよく開け放った。


「エリィ!!!」


だがそこにいたのは、知らない少女だった。


「こ、こんにちは~」


少女は驚いたように一歩後ずさり、バランスを崩しそうになりながらも微笑んだ。

うなじで長い髪をまとめた黒髪の女性。シンプルな服装の上から腕を捲った白衣を着こんでいる。僕よりも年上だが、そこまで離れていない様に見える。


どこかで会った様な。知ってる様な・・・妙な既視感があった。


「・・・ご飯、持っていく様に言われたんだ。シオンに」


サンドイッチと牛乳パックを乗せられた手を彼女はぶらぶらと揺らす。


「・・。ありがとう。いいよそこに置いといて。」


彼女は俯きながら髪の束を軽く引っ張ったり、口元に手を添えて戸惑っていた。

その目はちらりと僕の方を見るが、すぐに逸らす。


「あーーー・・・うん。それで、なんだけどさ・・・」


なんとも歯切れが悪い表情で彼女は口ごもる


「シズ君。だよね」


「君は?」


「・・・冬華っていえば、解る?」



「君が、冬華?僕達を逃がしてくれたっていう」


「うん。その冬華」


彼女は姿勢を正し、胸元に手を当てながらゆっくりと名乗った。


「改めまして・・アゾス技術開発部第2班。自立起動型デウス-エクス-マキナ開発設計担当。上島冬華です」


「あなた達を傷つけたマキナを作ったのも、私」


自嘲気味に彼女は小さく笑う。


「・・・あの魔物は、使徒と戦う為に?」


「・・・うん。あ、でも安心して。マキナは、あなた達を実験材料にして作ったりなんかしてないから」


「使徒との戦争で死んだ兵士。ドナー登録してくれた人。使徒との戦いに協力してくれてる、ゾハールの皆が献血で分けてくれた血液。その魔導を私たちは大事に使わさせてもらってる」


冬華は言葉を柔らかく区切りながら、そっと目線を落とした。


「君とエリィがあの村でされていた実験は、私の家族のせい。そして、それを見て何もしなかった私の罪なんだ」


「ずっとずっと、謝りたかったの」


「本当に、ごめんなさい」


彼女は言葉を絞り出すように、僕の目を見て言った。


「・・・エリィが色々と話してくれたよ。君がいなかったら、僕もエリィもあの地下で死んでたって」


「だからありがとう。冬華さん」


少しだけ驚いた表情をした冬華は、その後完全に緊張の色が無くなり、穏やかに笑う。


「君はお人よしだね。」


くすっと笑いながら、軽く駆け寄り、勢いよくベッドの上にボフっと座り込んだ。

その笑顔に、ふとエリィの面影が重なった。


そうか。似ているんだ、彼女は——


「ねぇ。エリィの事、聞いてもいいかな」


冬華は足を組み、少し身体をこちらに向けながら問いかけてくる。


「外で何をしていたのか。君と一緒に、どんな日々を過ごしていたのか・・・ねぇ。あの子、どんな感じだった?」


「うん。僕でよければ」


この場所に来て表情の力を緩めたのは初めてかもしれない。

無気力だった心に、少しだけ元気が湧いてくる。


僕は彼女と話す。


ゆっくりと語る。僕と、エリィの、経った数か月の出来事を。


かけがえのない、思い出を。


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