第12話「大好きな人の為に、私は決意する」
ねぇシズ君。創作や、物語の世界って、すごく素敵だと思いませんか?
どれもが、作り物だなんて信じられません
この映画の中の人たちにも、子供の頃の思い出。幸せな記憶。この先の未来がある様な、そんな気がするんです
映画も小説も。彼らはその物語を作った人達の中で、ずっとその先の未来まで生きているんじゃないでしょうか
そして、何年か先、作った人達がいなくなってしまっても
その物語の中で、彼らは生き続けるんです
いいな・・・羨ましいな
たまに彼女が見せる、悲しい顔。
そんな表情をさせたくなくて。
僕が君を守るから
だから、泣かないで。エリィ
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エリィが、魔物?
エリィが、死んだ人間?
何を言っているんだ。こいつは
「・・・出鱈目な事を、言うな」
「事実だ」
「嘘だ」
言葉をかぶせる様に否定する。
「もう一度聞きたいか?彼女は」
「嘘だ!!」
感情が爆発する。しかし
「シズ君」
「黙って、聞いて」
見たことの無い、氷の様な表情で、彼女は僕を窘める。
僕は言葉に詰まり、床を見ながら歯を固く食いしばる事しかできなかった。
「ごめん・・・」
エリィはしばらく目を閉じると、深く息を吸い、そしてゆっくりと目を開く。いつもの表情に戻ったエリィ。
その瞳宿るのは、小さな覚悟。
「シオンさん。お話を続けてください」
彼女は、もう前に進むと決めていた。
「それで、あなた達は私たちに何を求めているんですか?」
「使徒殲滅用のデウス-エクス-マキナ。君の様な魔法を使える兵器を量産する為に兵器開発に協力してもらいたい」
「心配せずとも解体してマキナに組み込む様な真似はしない・・・ただ血を定期的に分けてもらいたい。そして、君自身が使徒の殲滅作戦に参加してもらうことになる。」
「見返りに、シズ・マクレーンをゾハールの故郷に送り返してやる。約束しよう」
「使徒はゾハールの各地で暗躍しているが、教会の中心地は安全だ」
「祖母も今はそこに住んでいる。自分から兵隊に志願でもしない限り、戦いとは無関係に平和に暮らせるだろう」
「何を言って・・!」
「マクレーン。君はまだ子供だ。一刻も早く、家族に元気な顔を見せてやれ」
「・・・私にも息子が、いた。だから解る。お前は家に帰るべきだ」
その言葉は、理屈では否定できないほどの重みを持っている。
言い返したい。全部ひっくり返して、反論してやりたい。でも、喉の奥から何も言葉が出てこない。
そして、エリィは
「・・・わかりました。あなた達に協力します」
どうして。
「何言ってんだよエリィ」
君はこんな事、絶対に望んでいない。
「こんな話、信じる必要ないよ」
エリィは、何も答えない。
「ねぇ」
彼女に語りかけながら、言葉は止まらなかった。
「君が僕をゾハールまで連れて行ってくれるんだろ」
「心配しないでって。もう大丈夫だって。そう言ってくれたじゃないか」
その記憶にすがるように、目を見開いてエリィに感情をぶつける。
「一緒にやりたい事を見つけようって!!一緒に考えてくれるって!」
「ずっと傍にいてくれるって!!!言ったじゃないか!!!」
「・・・何があっても僕が守るってそう言ったのに!!どうして!!!どうしてなんだよエリィ!!!」
最後の言葉は、泣き出しそうな声に変わっていた。心の奥に溜まったものが溢れて、抑えが効かない。
「シズ君」
どこまでも優しく静かな声だった。
そっとしゃがみ込んで、彼女は僕の視線に目を合わせる。
彼女の指先が、頬に触れた。その手はあたたかくて、でも、どこか遠くに行ってしまいそうで。
僕の目は、彼女から逸らせない。エリィの瞳が僕を見つめる。ただ、真っすぐに
「私が生まれた場所は、地下にある小さな村でした。」
彼女は記憶を辿るように語り始める。
広い海。静かな森。大きな図書館。綺麗な夜空。
その全ては作られた幻想だった。
その空間に満たされていたのは、強い殺意と絶望。
「私はその場所で自分が誰なのかも解らず、ただ目の前の人達を必死に助けて。それが、それだけが、私にとっての全てだったんです」
「それしか無かったから」
「でも。でもね」
「シズ君と出会えた。」
「あなたが私にくれたんです。生きる理由も」
「誰かを、好きになるという、この想いも」
一瞬、空気が止まった。
彼女の唇が、僕の額に触れる。
ほんの一瞬。
それでも、永遠に焼きつくような想いの強さが、そこに残った。
「私はシズ君を守りたい。シズ君が生きる世界を。この手で守るんです」
「最初は怖かった。苦しかった。ここに来る勇気なんて、少し前の私だったら、無かったんです。きっと」
「でも、あなたが平和に過ごす世界を守れるなら私はもう、何も怖くない」
過去の自分に別れを告げるように、彼女はゆっくりと立ち上がる。
「シズ君は家族の元に、帰って」
「何も心配ないから。私があなたの幸せを守るから」
「だから。ね」
そして、最後に微笑んで。
「ここでお別れです」
その言葉を理解しようとする。
けれど、心が追いつかない。
頭ではわかっていても、胸の奥が拒絶していた。
立ち上がり背を向ける彼女に何も言えず、ただ視線を注ぐ。
背を向けるその姿に、手を伸ばすことさえできなかった。
その背中は、とても遠い
もう、二度と追い付けない程に、遠かった。




