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第10話「新宿地下 D.E.M(デウス-エクス-マキナ)開発区域」

連絡を待って3日目の朝。僕たちが持つ端末に一通のメールが届く


端末に表示された地図の座標には、灰色のビルが静かに佇んでいた。


その前に一人の女性が立っている。黒いスーツの上に長めのコートを羽織り、首筋からうなじにかけて長い髪をまとめている。年齢はおそらく、20代後半程だろうか。

その横顔には一本、深く走る古傷があり、目元を硬く縁取っていた。


「やあ」


彼女が短く声を発すると、エリィとシズが立ち止まった。


「こんにちは」


エリィが静かに返すと、彼女は感情の起伏を見せずに続ける。


「異世界環境統制機構アゾス。対魔導士3課。班長のシオンだ。よろしく頼む。」


「私たちの拠点に案内する。付いてこい」


僕は一歩前に出て彼女を睨みつけた。


「・・・また僕達を実験体にでもするつもり?」


シオンはその言葉に眉ひとつ動かさず、わずかに首を傾けて言った。


「普通に話をしよう、と言った筈だが。ああ、君はあの時寝ていたのかな」


「じゃあここでしろよ。」


シオンは一瞬視線を僕に向けたあと、背を向けて歩き出す。


「我々の事を知ってもらう為には必要な事だ。」


「もう知ってるよ。クソ野郎共だ」


「シズ君。」


エリィの声が僕の怒気を和らげようとするように響いた。


「・・・あなたを信用します。連れて行ってください。でも」


彼女は女性の背に向けて、はっきりと告げる。


「シズ君に何かあったら、私はあなた達を許さない。」


「それは僕も…んぐ!?」


エリィが無言で僕の口に手をかざす。


「それで構わない」


シオンの足は止まることなく、静かに駐車場へと向かっていく。



ビルの駐車場は無機質な沈黙に包まれていた。正面を歩くシオンが歩く度、コートの裾がわずかに揺れ、長い髪が凛として後ろに流れていた。


彼女は何も言わず、エレベーターの前に立ち、端末をかざす。認証音が一度短く鳴り、重厚な扉が左右に開いた。


「乗れ」


短く促され、僕は一瞬、エリィの顔を見る。僕の視線に気付いた彼女は唇を引き結び、小さく頷いた。


三人が乗り込むと、エレベーターは静かに下降を始める。 壁面には何の表記もない。何階層降りているのかも分からない。密室の中、沈黙が重く空気を支配していた。


「エリィ。本当に行くの?」


シズが小声で問いかける。エリィは彼の手をそっと握り、目を見て言った。


「大丈夫です」


しばらくの沈黙。それを破ったのはエリィの問いかけだった。


「あの。・・・冬華と、恭介は、いるんですか?」


その名に反応を見せることなく、シオンは淡々と答える。


「赤屍恭介は現在拘留中。上島冬華は保護観察中で現在職務にはついていない。」


「上島には会えるぞ。会いたいか?」


エリィはすぐには言葉を返せず、うつむいた。


「・・・解りません」


シオンはそれ以上追及することなく、ただ一言返した。


「そうか」


やがてエレベーターが止まり、扉が静かに開く。 そこには無機質な廊下が伸びていた。

壁は淡い白で、蛍光灯の光が影すら焼き消している。 ドアがひとつずつ等間隔に並び、

空気は管理された冷気に包まれていた。


エリィの足が止まり、視線がある扉に吸い寄せられた。


「あれは…魔物…ですか」


ガラス越しの部屋には、機械と有機体が融合したような影が眠っていた。 管に繋がれたそれは、鼓動するように全身を流れる様な赤い光を放っている。


「この国の人々は技術水準が高い。主にマキナの兵装、開発用の設備を間借りさせてもらっている」


シズがその説明に反発するように言う。


「この化け物を使ってゾハールと戦争でもしようってのか?」


視線を逸らさずに続ける。


「お前達が使うあの機械からは、魔導の流れを感じる。お前たち、僕達(ゾハール人)を【材料】にアレを作ってるんだろ」


言ってやりたい事が、たくさんある


「僕も、エリィが助けてくれなかったら、最後はああなってたかもしれない」


「エリィにも酷いことをしたって聞いた!!」


言葉にして、傷つき倒れた彼女の姿がフラッシュバックし、怒りが臨界に達する。


「今更、なんの話をしようっていうんだ!!侵略者!!」


僕の魔導が高鳴り、足元から衝撃が広がる様に、全身から火の残滓があふれ出る。

手の平に炎が収束し、槍を顕現しようする。その瞬間


「シズ君!!!」


エリィが駆け寄り、背後から僕を抱きしめた。


「シズ君。お願いだから」


彼女を焼いてしまわない様に、僕はすぐに魔法を解除した。

僕の体からあふれた魔導の残滓が空気に溶ける。


「・・・ごめん」


エリィが不安そうな顔をしている。

クソ。そんなつもり無かったのに・・・

あの夜、傷つけられたエリィの事を思い出すとどうしても、抑えられなかった。


僕の一連の動きに一切動じず、僕達を冷ややかな視線で見ていたシオンがつぶやいた。


「何を言っている?」


数秒の沈黙。そのあと、彼女は目元の傷に指先で触れながら、静かに告げた。


「侵略してきたのは、【貴様らの方だ】」


シオンは語る。この世界の真実を。


次回。明日の朝8時に投稿します。次の話はちょっと長めになっています、すいません。

よろしくお願いします<(_ _)>

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