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第01話「残りの人生の、最初の一日」

遥か昔ノベルゲームを作っていたのですが道半ばで挫折し、物語もお蔵入りになりました。


その時に作った設定や大まかなあらすじ、キャラクター達を掘り下げて、小説の形式で公開しようと思い至り執筆を開始しました。処女作なので拙い部分も多いですが、一人でも多くの人の目に留まれば幸いです。よろしくお願いします。

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『ああ。生まれてきてよかったなって。そう思える瞬間が、何度かあったんだ。

私はその為に生きているの。そんな瞬間があなたにもきっといつかやってくる。

映画の受け売りなんですけどね。』


そういって笑う君に出会えた事が、きっとそう。


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夢を見ていた気がする。


静けさの中で、ゆっくりと意識が浮かび上がる。 冷たく閉ざされた世界。目を開けて最初に見えたのは、天井に灯る微かな光。


ぼんやりと視界が滲む。私は半ば液体に沈んでいた。


生きている。


呼吸と心臓の鼓動だけが、自分の存在を確かに示している。


「……ここは?」


声は、喉の奥から微かに漏れた。誰かに問うように疑問を口にする。


まもなく甲高い音が響く。 目の前の壁が左右に割れ、外の空気が一気に流れ込む。冷たく湿った風。微かな塩の匂いが混じっていた。


私は、私を包んでいた殻の縁に手をかけ、ふらつきながら立ち上がる。 素肌に触れる空気はひんやりとしていた。視線を落とすと、何も着ていなかった。


「裸?」


私は一体、何?


壁沿いにはケーブルがいくつも絡まって伸びていた。天井にある小さな照明が続く向こうに、ほんの僅かな光を感じる。私はそこに向かってゆっくりと歩き出した


私は重たい足を引きずるように、一歩、また一歩と前に進む。 風の流れがある。波のような、やさしい音がする。光の方へ歩いていき、ついに外へと出た。


目の前に広がっていたのは、果てしない青空、そして海。 風が吹き抜け、波が寄せては引き、湿った砂が足元を包んだ。


「ここは……」


私はただ、その澄みきった世界に立ち尽くしていた。 自分が何者なのかも、なぜここにいるのかも、まったくわからない。


「誰かいますか?」


自分でも驚くほど落ち着いた声だった。 少しだけ大きく声を張ってみたが、返事はなかった。海はどこまでも広がり、海岸線にも人の気配はない。進む場所は森の中しかなかった。



森へと足を踏み入れる。奇妙な整然さだった。 まるで誰かの手によって、意図的に“道”だけが切り拓かれたような、そんな印象。


立ち止まり、周囲を見渡すが、生き物の気配がない。鳥の声も、虫の羽音も。 ただ風が木々を揺らし、葉がかすかに擦れ合う音だけが響いていた。


裸で歩くのは少し気になるけれど、どうしようもない。 時間の感覚も曖昧なまま、私はただ足を動かし続けた。


どれくらい歩いただろうか。ふと空を仰ぐ。 流れる雲を見つめて、喉の乾きを感じ始めた、そのときだった。最初は小さな振動。瞬く間に大きな地響きへと変わっていく。まるで巨大な物が練り歩いている様な。


「助けて!!!誰か!!!助けてくれ!!!」


叫び声が聞こえた。反射的に振り返ると、若い男女がこちらへ走っていた。 男が叫び、少女はその手を引かれている。もう息も絶え絶えという様子だった。


森林から彼らが飛び出した直後、それは現れた。


木々をなぎ倒し、咆哮の様な、金属がこすれ合う様な歪な音を上げながら。


大きな浅黒い塊が、硬く冷たい脚を地面に突き刺しながら動く。生き物のような形をしているが、血も肉もない。背に張り付いた無数の管が奇妙な音を立て、何かを吐き出している。金属の破片の雨。

轟音と共に飛び出した小さな塊が木々を貫き、破裂し、爆ぜていく。


巨大な蜘蛛のような形をしているが、その脚はしなやかではなく、無機質に地面を踏み潰していく。冷たい黒い殻。鉄の体。それが今、人を殺そうとしている


助けなければ


そう思った。 私はその“蜘蛛”に向かって人差し指をかざし言葉を紡ぐ。


「盾一つ、飛んでゆけ」


瞬間、指の先に光が集まり、人間ほどの大きさの障壁が姿を現した。 それはまっすぐ正面へ放たれ、蜘蛛へ叩きつけられた。


横合いからぶつけられた蜘蛛は、腹部がごっそり抉れ、 内部が爆裂するように破裂し、火花と煙が舞い上がる。


「……え?」


私、今、なにをした?


煙を上げて燃え続ける蜘蛛から視線を外し、追われていた男女の方向に目を向ける。


男女は私を見て、とても驚いた顔をしていた。ああそうか、私は今全裸だった。


どうしよう、何て言えばいいだろう


そんな事を考えていたが、倒れた蜘蛛の内側から何かの燃料が破裂し、周囲に衝撃が走る。


私は再び蜘蛛を見上げる。すると、蜘蛛はまるで血管に血液を流し込む様に、全身に纏わりついた管に赤い光を纏わせ、咆哮をあげた。


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■システム診断開始……

異常発生:メイン魔動炉、

損傷率72% バックアップ魔力供給システム

起動…… ……起動失敗。再試行。


……起動成功、魔力供給率35%に回復。

制御系統、機能低下中――応急処置モードに移行。


戦闘プロトコル:代替アルゴリズムにて再構築開始


実験ヲ 続行しマす 目標 E-001を補足

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沈黙していた巨大な蜘蛛が、再び動き出す。 抉られた頭部から赤い光が漏れ出し、断線した管が火花を散らしながら作動する。 脚を地面へ深く突き刺し、胴体を持ち上げると、無数の管が開き――金属の弾丸が撃ちだされた。


「盾3つ。私たちを守れ」


反射的に指を突き出し、光の盾を展開する。3枚の盾がその場にいる人間皆の前に展開され、弾丸を弾いた。


轟音が響く。衝撃が腕まで伝わり、指先が痺れる。

これが直接当たればきっと死ぬ。


「盾1つ、上から押しつぶせ」


上空に巨大な光の壁が現れ、勢いを乗せて蜘蛛を押しつぶす。 金属が歪み、悲鳴のような軋み音を上げる。しかし、足が地面を抉るように抵抗し、徐々に潰れながらも動きを止めない。


その姿を見ながら、私はそっと手首を下げた。


それに応じるように、盾はさらに強く蜘蛛を押し潰す。


鉄と鉄が歪に軋み合う音、内側で爆発する何らかの動力炉の音が混ざり合い、まるで咆哮の様な音が森全体を激しく振動させた。


脚の先端が私へ向かい、ゆっくりと伸びる。鋭い刃のような先端が迫る。だが


動きが止まる。


金属の目から光が消え、全身から煙が立ち上った。 蜘蛛は完全に沈黙し、ただの残骸となった。私の眼前まで伸びた腕は力なく地面に落ちる。


今度こそ完全に動かなくなったのを確認した私は、再び彼らへと目線だけでなく、全身を向ける。

男は尻もちをついた状態で私を見上げ、少女はその男の背中に隠れ警戒する様に私を見つめていた。


どちらも、言葉を発さない。ただ、息を呑んでいるのがわかる。


その沈黙の中で、男が、ぽつりとつぶやいた。


「エルフ?」


エルフ。 それが、私の名前だろうか。


少なくとも、彼らは私を知っている。それが事実なのか、誤解なのかはわからない。

だが今は、その言葉にすがるしかない。


私は静かに彼らに向かって口を開いた。


「話がしたいです。ここで何が起きてるのか・・・私が、誰なのか」


だが、言葉の前に彼らの視線は別のところに釘付けになっていた。


──私は全裸だった。


あぁ、そうだった。私は服すら着ていない。 ようやく人に会えたというのに、この状態で説明を始めるのはあまりにも厳しい。何か着る物を、借りられないだろうか。そんなことを考えていたとき。 私はふと気づいた。


目の前にいる彼らは、私とは違っていた。


耳が小さい。


それは、何も覚えていないにも関わらず、何故かとても不思議な感じがした。



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