Episode 7〜夢の導き〜
ご覧いただきありがとうございます!!
今回は「新たな出会い」のお話を。
ではでは、ごゆるりと。
――今日も王都への道のりを歩く。
「よし、今日はこの辺りで休もう」
木に寄りかかり腰を下ろす。いくら森の視察をしていた身とはいえ、慣れない旅に、数日の疲労が重なり、日に日に足取りは重くなっていた。
手頃な枝木を集め、火をくべる。火おこしはもう手慣れたものだ。
「この辺りに凶暴な野生動物がいなくてよかった」
カナン村から王都への道は、比較的安全と聞いていた。実際、狩の経験が浅いルクノウ一人でも、旅を許されるほどである。
例の如く、夕食は干し肉とスープだ。さすがに出発から数日も経てば、村の味が恋しく感じる。
(まあ、干し肉も好きなんだけど)
と、ぶつぶつ言いながら食べ進める。
そろそろ寝ようと思い、火を消そうとしたその時、草をかき分けるような音が聞こえた。
「……野うさぎか?」
火を消す手を止め、音がした方を注視する。
「ん? こんなところで野営している人に会うとはな」
道の脇からふらっと現れたのは、くたびれているが、体躯はしっかりとした男だった。
「よう坊主。こんなところで一人とは勇ましいな」
「……」
突然声をかけられ、警戒してしまう。
「ああ、すまねえ。俺は……ノールっていうんだ。そう警戒しないでくれよ。慣れない森に少しばかり迷ってしまってな。一晩暖をとらせて貰ってもいいか?」
どこか懐かしさを覚える、柔らかい声だった。少し村を恋しく思っていたこともあり、同席することにした。
「先ほどは警戒してすいませんでした。僕はルクノウと言います」
「いやいや、悪いのは突然話しかけた俺だ、警戒するのも無理はない……ルクノウはここによくくるのか?」
「いえ、王都へ向かう途中なんです」
「なるほど、それは道理だ。しかし、この先には……何もないと思ってたんだがな。君のような若者がよく通る道なのか?」
「カナン村という、歩いて6日ほどの場所から来ました」
「……カナン村か……俺は人探しをしていてな。といっても、進むべき方角くらいしかわかっていなくてな」
「え、カナン村を知っているんですか?王都では知られていないとばかり……」
「いや……俺もここへ来る直前に知ったんだ。物知りな奴がいてな。それでよ、そのカナン村ってところに“白い花”は咲いているか?」
「白い花……いえ、村では見たことないですね」
ノールさんの眉間が少し動いたように見えた。
「村“以外”では見たことあるのか?」
少し前のめりになりながら、問いただすように距離を詰めてくる。
「……そっちに2日ほど行ったところで、見かけました。綺麗な鐘の形をした白い花を」
「すまねえ、少し前のめりすぎたな」
所作の端々に、どこか丁寧さが垣間見える。
「ノールさんが探している人は、その花と関係しているんですか?」
「いや……わからねえんだ」
「わからない?」
歯切れの悪い言葉に沈黙が流れる。
「俺には……ジーナっていう妹がいてな」
ノールさんはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと自身の事を話し始めた。
「ジーナが“ユメ”をよく見るんだ」
「眠っている時に見る“夢”ですか?」
「そう、その“夢”だ。もうかれこれ一年くらいになる」
「同じ夢を一年も……」
「その夢で、ジーナは草原に立っているらしい。風が吹いて、草が揺れて、その中にぽつんと一輪の白い花が咲いてるんだと」
「さっき言っていた白い花ですね」
「そう、その花に一人の男が近づいて触れるんだ」
「その男性が、ノールさんの探してる人なんですか?」
「ああ。でもよ、ジーナはそいつの顔も声も知らないらしい。ただ、そいつが花に触れると……花が鳴くんだとよ」
「……鳴く?」
「そう、鐘の音みたいに。小さくて優しい音が草原いっぱいに響く。すると、どこからともなく光が集まってきて、一人二人と精霊が姿を現すんだってよ」
「……精霊ですか?」
「ああ。まるで神話みたいに。そして、男は精霊に背を向けたまま草原を歩き続けるそうだ」
「顔は見えず仕舞いですね」
「そうなんだよ。それでジーナは精霊たちに背中を押されたかと思えば、草原にいたはずが王都の門前にいるんだとよ。で、さっきの精霊が手招きをして道を教えてくれるんだが、そこでいつも目が覚めるらしい」
「なんとも幻想的な夢ですね」
「だろ?でもジーナは俺に言うんだよ。これはただの幻想的な夢じゃない。精霊が手招く方へ進めばあの男に会える。そして何かが変わるってな」
「見つけるって言っても、顔も知らないし、かなり難しくないですか?」
「顔も見えねえ。声もわからねえ。ただ、栗色の髪をした若い旅人だったってことだけ、わかってるんだ……なんかお前みたいだよな」
ノールさんが真面目な顔をして僕を見つめる。
「……でも……旅人って言っても、僕が旅を始めたのはほんの数日前ですし、カナン村の方々は大抵栗色の髪をしていますよ」
「そうか……無謀な願いには変わりねえよな。どうしてもって言って聞かないから仕方なくだ、一度探しに行きさえすればあいつも黙るだろうからな」
「ノールさんは優しいんですね」
「……そんなんじゃねえよ。まあ、お前を見ててふとそう思っただけだ」
「そう言えば、カナン村から王都までは、一方向に辿れば迷わずに着くって聞いていたんですけど、ノールさんは王都からこられてないんですか?」
「いや、王都から来たさ。でもな、カナン村とは別の、“地図にない村”に着いてな。そこで一泊してから歩き始めたんだが、どうも迷ってしまって、方向感覚には自信があったんだが。それでルクノウに出会ったからそういう導きだったのかもな」
「ただの方向音痴なんじゃないですか?」
「ハハハ、言うじゃねーか」
2人で笑い合う。どうも旅で疲れている今の僕には、ノールさんの優しさが身に染みるようだ。
「まあ、明日見に行ってみるといい。そこにいた……あれ? 名前なんだっけな、俺と同じくらいの歳のやつがいたんだよ。そいつに俺のことを話せば良くしてもらえるはずだ」
「それじゃ誰に話しかければいいのかわからないですよ」
「わりぃわりぃ、ど忘れしちまった」
「村はなんて言う名前なんですか?この辺りに村があるなんて……聞いたことなくて」
「村の名前か……そういえば、俺も聞いた覚えがねえな」
「何もわからないじゃないですか」
「ハハハ、まあいいさ。道中にあるはずだから、自分の目で確かめてくるといい」
「ノールさんも、人探しの役に立てるかもしれないから、一度カナン村に行ってみては?僕は村長の息子なので、きっと良くしてもらえると思いますよ」
「仕返しか何かか? ありがたく頂戴しておくよ……ジーナに一度会わせてやりたいな。きっと仲良くなれるさ」
「王都にしばらくは滞在する予定なので、機会があれば会えるかもしれないですね」
僕たちは火を消して眠りについた。
朝日に照らされ目が覚めると、ノールさんは火をくべていた。
「お、起きたかルクノウ」
「おはようございます。もう起きてたんですね」
「まあな。ルクノウが起きたら出ようかと思ってな」
「もう行かれるんですか?」
「何か掴めそうな気がしてるんだ。善は急げって言うだろ?」
「僕も早く王都に行って、カナン村について調べたいです」
「そう言えば、王都に何しに行くのか聞いていなかったな。カナン村について調べるのか?」
「数年前に厄災があって、そのことについて少し。あと、カナン村は王都じゃ知られてないって話だったので、それも気になって」
「確かに……王都では知られていないから、何かあるのかもな。それより、厄災って大丈夫なのか?」
「それについてはもう復興して日常が戻っているので、問題なく停泊できると思いますよ」
「そうか、大変だったんだな」
「なんだか、湿っぽくなっちゃいましたね」
「そんなことないさ。ルクノウの旅の無事を祈ってるぜ」
ノールさんは、木に立てかけていた荷物を背負い込む。もう出発するみたいだ。
「はい、ありがとうございました。一晩だけでしたけど、楽しかったです」
「同じ道を旅するもの同士、きっとまた会えるだろう。その時は……ジーナを紹介させてくれよな」
「楽しみにしていますね」
ノールさんは後ろ姿のまま僕に手を振り、茂みへと消えていった。僕も朝食を済ませた後、王都へ向けて歩き出した。
ここまでご覧いただきありがとうございます!!
次回は「招かれた宴」のお話を。
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