Episode 5〜旅立ちの朝〜
ご覧いただきありがとうございます!!
今回は「冒険の幕開け」のお話を。
ではでは、ごゆるりと。
朝食をとりながら、ある衝撃的なことを知る。
「お前も母さんから聞いたんだってな」
実は、ウィル兄さんもすでに伝承を聞いていたのだ。王都で文献を調べていた時に、エイカシアについての記述を見たかららしい。
〈文献の一部〉
エイカシアの名を冠する者。
王と手を取り世界を厄災から導き、この地に安寧をもたらすだろう。
古い言葉で書かれていたので、ほんの一部しか読み解けなかったそうだ。
「世界にとって、この村ってなんなんだろうな」
ウィル兄さんも、王都へ行ったことで、何か思うことがあるのかもしれない。
「その事なんだけど……」
(ファウステルさんに会ったことを伝えた方がいいのかな……)
「……お前には何かが見えているんだろ? “あの日”だって、何かを感じ取っていたんじゃないか?」
ウィル兄さんは、いつも優しく僕を見守ってくれていた。
「お前も一度王立図書館を訪れて、文献を見てくればいい。俺とは違う何かを見つけることができるはずだ。それに、これからを担う者としての経験を積む為に、王都へ旅をするのもいいだろ?」
「私からも一つ。ルクノウ、一度世界を見てきなさい。あなたとエイカシアの繋がりも何かわかるかもしれません」
離れたところで僕たちの会話を聞いていた母が、村長として語りかける。二人はまるでこうなることが最初から分かっていたかのようだった。
何も言わずに背中を叩く兄に、「行ってこい」と言われた気がして、僕は強くうなずいた。
「ルーは兄ちゃんの弟だろ? お前にならなんだってできるさ」
その言葉に背中を押されるように、静かに旅立ちを受け入れた。
まだ薄く霧がかるも、淡く照らされた太陽の光に包まれる。今度は――二人にに見送られながら。
「寂しくなりますね。ルー、体には気をつけるのですよ」
「うん……ちゃんと手紙も出すよ」
「兄ちゃんの後ろをついて歩いてただけのちびっこが……立派になったよ、ルー」
小さな頃から慕ってきたウィル兄さんを見ていると、不思議と奮い立つように涙が溢れる。
「おいおい泣くなよ。別にお別れって訳じゃないんだからな? いつでも帰ってこいよ」
母は、僕とウィル兄さんのやり取りを優しく見守っていた。その顔を見て、勇気をもらえた気がした。
「うん……じゃあ、いってきます」
世界を看取るだなんて、そんな大それたことはできないけれど、こんな僕にでも、できることはあるのかもしれない。
村に背を向け、ゆっくりと歩き出す。
足元の草を踏むたびに、朝露がぱちりと弾ける。ふと、足取りが重くなった気がして、足元に目をやる。
すると、朝露が弾けたまま止まっていた。
『やっと会えたわね。私の子孫!』
目の前には、僕と同じく栗色の髪をした少女の姿があった。
(この声は……)
「オルガさん……でしたっけ?」
『そうよ! 私はオルガ。ちょっと“特別”だから子供の姿だけど、気にしないでね』
「はあ……それでどうされたんですか?」
『なんか落ち着いてるわね……まあいいわ。私直々に“円卓の七賢人”を紹介してあげるわ』
「“円卓の七賢人”?」
パチン、とオルガさんの指が鳴る。その音に気を取られていると、いつのまにか視界が闇に呑まれていた。音も匂いも、風さえも消える。
まるで世界そのものが息を潜めたような静寂の中に、一つの円卓が浮かび上がる。
七つの椅子に、六つの影。
オルガさんは僕の目の前から歩き出し、空席の椅子に腰掛ける。これで七つの影がそろった。
そして、その影が見つめる先に、僕は立っていた。
――世界の綻びを紡ぐ旅が、静かに始まりを告げたのである。
ここまでご覧いただきありがとうございます!!
次回は「初めて出会う“綻び”」のお話を。
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