Episode 4〜選ばれし者〜
ご覧いただきありがとうございます!!
今回は「祖先との対話」のお話を。
ではでは、ごゆるりと。
〈伝承〉
世界の調和は四大精霊により保たれていた。
火・水・風・土――これらが世界を満たし、万象は芽吹く。
その時は突如として訪れた。
四大精霊の牙が世界を蝕んだのだ。
されど泡沫は波のように現れて凪となる。
魂の抜け殻だけを残して。
“エイカシア”――綻びに耳を澄まし、静かなる眠りへと導く者。
再び安寧がもたらされたこの世界に、選ばれしものと彼の声が在らんことを。
母に聞かされた伝承と、脳裏に残る言葉が少し重なる。
「この村がこの地にある理由は、“綻びを看取るものを世界へと羽ばたかせるため”なのです」
「綻びを看取るもの……」
「私も聞き伝えられただけで、詳しくはわかりませんが、ルーは……“エイカシア”なのかもしれません。私を含めた村の誰でもなく、あなたが選ばれたのではないのでしょうか」
母は、少し悲しそうな顔をしていた。
その理由は、今の僕にはわからない。
ふと、一つの疑問が浮かんだ。
「でもなんで、世界の綻びの話を、二年前のあの日に教えてくれなかったの?」
「あの時、“世界の綻びが原因かもしれない”と皆には言えなかった。伝承を簡単に風潮することは禁じられているのです」
母曰く、村長ただ1人が脈々と語り継いできたものであり、“真価を発揮するためには伝承に頼らず自然と調和せよ”という制約があるそうだ。しかしその一方で、伝承を信じているものも少なかった。母自身も、神話に近い感覚だった――僕の話を聞くまでは。
「さあ、話はここまでにして、夕飯にしましょうか」
母の発した言葉に反応するように腹の虫が鳴き、朝から何も食べていないことを思い出す。
「難しい話をしてお腹が空いたみたいだ」
母も微笑み、またいつもの日常に戻る。
食事を済ませ、自室に戻って天井を仰ぐ。
「今日はすごく濃い一日だったな……」
一日を振り返るまでもなく、脳裏に残っていた言葉が光を増す。比喩ではなく、本当に光を増して辺りを包み込んだ。
しばらくすると、光が収まった。
「今の光はなんだったんだ?」
辺りを見渡すも、何も変化はない――ように思ったが、一切の音が耳に届かないことに気づく。まるで、時が止まっているみたいに。
「あの祠の時と似ているような……」
(今日は一体どうしちゃったんだ)
自分自身に、何か異変が起きているのかもと疑い始めたその時――
『聞こえておるかな?』
「うわっ!」
静止したような無音の中で、突然発せられたその声に驚いて、ベットから落ちる。
そんなこととは関係なく、空気が陽炎のように揺らいで、人影を形作っていく。
それは、次第に青いローブを纏う、年老いた男の姿をしていた。
「……あなたは……誰ですか?」
体を起こして、落ち着きを取り戻す。
『我が名はファウステル。やっと会えたのお、選ばれし者よ』
ファウステルと名乗る男は、僕に微笑みかける。
「選ばれし者……」
母から聞いた話を思い出す。
『石碑に触れ、伝承を聞いた今のそなたであれば、自身の身に何が起きているのか、分からないわけではないであろう?』
長く蓄えられた白い髭を撫でながら問いかける。
「なぜ……石碑と伝承のことを知っているのですか?」
『我々は、常に世界の綻びを見届けてきた』
「……我々?」
『ああ、そなたの“祖先”といえば早いかの』
「祖先……ということは、歴代の村長のどなたかということですか?」
『いや、もっと前じゃな』
「もっと前?」
(伝承よりも前の時代ってことか?)
「幽霊……なのでしょうか?」
『そうと言えばそうじゃが、違うと言えば違うの。ただ、選ばれし者である子孫のそなたに、一目会っておこうと思ってな』
「いや……そもそもなんで僕が選ばれし者なんですか?兄の方が僕よりよっぽど優秀で……」
『確かにそなたの兄は優秀かもしれんが、そなたは兄にない“素質”を持ち合わせておる』
「素質……」
『ふむ。数年前、世界の綻び……つまりは世界の崩壊の兆しを見たであろう?』
「もしかして……あの森のことですか?」
『そうじゃ。あれば伝承で言うところの、四大精霊の乱れによるもの。まさに“世界の綻びによる牙”というわけじゃ』
「だからって、どうして僕に素質があることになるんですか? 村の人たちだって目の当たりにした厄災ですし」
『そなたはあれを見て、“森の死”を感じたのではないか?』
「……はい」
何かを見透かされているような気がした。
『それが“素質”というものじゃよ。世界の綻びはただ見るものではない。そこから何を選ぶのか……世界からの問いなのじゃ』
「世界なんて……とてもじゃないけど背負えないですよ」
『ホッホッホ。難しく考えずともよい。先の時代にどう紡 ぐかが重要なのじゃ』
「先の時代に……」
『そうじゃ。今も世界のどこかで、綻びは密かに終わりへと向かっておる。それはこの世界に多大なる影響を与えるやもしれんし、一方で、何ももたらさずにひっそりと息を引き取るだけやもしれん』
「尚更、僕ができることなんて……」
『そのためにわしらが居るんじゃよ。綻びを“看取る者”を“導く者”として』
「導く者……もしかしてファウステルさんは、エイカシアという方をご存知ですか?」
『ホッホッホ。エイカシアか、懐かしいのお。それについては……』
『ちょっとおじいちゃん! いつまで喋ってるのよ! 私の出る時間がないじゃない!』
僕たちの会話を遮るように、ファウステルさんの後ろから、幼い女の子の声がした。
『すまんなオルガよ。つい子孫と話せて舞い上がってしまったわい』
「オルガ……さん?」
この跳ねるようにして、ファウステルさんの後ろからこちらを覗く女の子も、僕の祖先なのだろうか。
『“わしら”祖先は、いつもそなたを見守っておるよ』
別れを告げるようにそう呟くと、意識が朦朧としてきた。
「ちょっと……待ってください! 僕は一体……何をすれば……」
『そなたはもう世界に選ばれた身。思うがままに進むと良い。自ずと道は開かれるじゃろう』
再び眩い光に包まれる。
気がつくと、鳥が朝を告げていた。
「夢……なのか?それに、耳鳴りや祠での声って……」
意識が徐々にはっきりするのに比例して、朝食のいい匂いがしてきた。
「ルー! 朝ごはんできてるぞー!」
ウィル兄さんが僕を呼ぶ。僕は余韻を断ち切るように立ち上がった。
ここまでご覧いただきありがとうございます!!
次回は「冒険の幕開け」のお話を。
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