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Episode 3〜声なき声〜

ご覧いただきありがとうございます!!


今回は「森の視察中に起きる不思議な出来事」のお話を。


てはでは、ごゆるりと。

────────


 ――物語は再び“今”へと戻る。


「森の復興からもう一年か……この“森の声”にも慣れてしまったな」

 あれから視察で森へと足を踏み入れるたび、耳鳴りがするようになった。耳鳴りとはいっても、“水中で会話している”かのような、圧迫感にも似た遠くで音がする感覚だ。この症状は、自分だけなのだろうか。


 森の視察を進めていると、いつもと同じペースのはずが、今日は少し奥まで来てしまっていた。“あの日”を思い出していたからかもしれない。

「そろそろ帰らないと」

 振り返るために立ち止まったと同時に、これまでにない激しい痛みを伴い、耳鳴りが僕を襲った。

「うぅ……」

 痛みに耐えきれず、思わず声が漏れる。


 次第に視界が歪み、平衡感覚を失うかのように、よろめき倒れた。倒れる瞬間、かすかに誰かの声が聞こえた気がした。


 目が覚めると、洞窟のような場所で横たわっていた。洞窟のように思えたのは、周囲が澄んだように見えていたからだ。松明の光とは違って、ただただ周りが澄んでいるように。

「ここは一体……森の中にこんな場所があるなんて聞いたことなかったけど……」

『――』

『――』

 誰かの話し声が奥から聞こえた気がした。


 耳を澄ますも、声はパタリと止む。それどころか、音という概念が失われたような、深い沈黙にのまれた。


 不思議に思い、声がした方へ進む。


 しかし、そこに人は誰もおらず、代わりに“苔の生えた小さなほこら”が建てられていた。

「こんなところにどうして祠が?」

 目を凝らすと、祠の隙間から、わずかに光が漏れ出ているのが見えた。


 さらに近づくと、光の正体は石碑だった。

「この村の言葉じゃないな」

 祠の中央に、まるでまつられているかのように石碑が立っていて、長くつづられた文章のようなものが深く刻まれていた。


 無意識のうちに、“それ”に手を伸ばしていた。


 ハッとしたのは石碑に触れてからだった。

「温かい……」

 石に触れたとは思えないほど優しい温もりを感じた。すると、石碑の淡い光が瞬く間に強まり、石碑を覆う苔が下から順にと消えていく。その現象に驚きはしたが、不思議と落ち着いていた。


 深く刻まれた文字が、眩い光を帯びて浮かび上がる。その光は、まるで柔らかな絹が滑り込んでくるように視界を覆う。


『『…エアルス……エイカシア…ほころび……委ね…崩壊……調和…』』


 読めるはずのない文字が、既知の言葉として次々と意識の奥へと染み込んでいった――意味は分からずとも。


 少し思考を巡らそうとすると、先程の痛みを思い出したかのように、再び意識を失ってしまった。



 目が覚めると、森の中で横たわっていた。

「……あれ、森の中なのに耳鳴りがしない」

 自身に起きている異変に気づく。先ほどの出来事は何だったのか。夢の中なのか、はたまた現実か。しかし、脳裏に今も鮮明に刻まれたものが、夢ではないと訴えかけているようだった。

『――』

 また遠くで誰かの声がしたような気がして、振り返ってしまう。当然そこには誰もおらず、木々がざわめくだけだった。

「……今日はもう帰ろう」


 家に着くと、母が夕食の支度をしていた。

「ただいま。ウィル兄さんは今日も遅いの?」

 ウィル兄さんの姿が見えず、母に問いかける。

「おかえりなさい。ウィルは村の会合に行っていますよ」

 母は火加減を調整しながら答える。

「そういえば……次の世代を担う人の集まりだっけ?」

 次の世代へと村を繋げる為に母が設けた会である。

「ええ。ウィルは周りと比べてもまだ若いですが、力量は確かなので何かと頼られてしまうのでしょう」

「すごいなあ。やっぱりまだまだ背中は遠いね」

「ルーもよくやってくれていますよ」

「えへへ」

「調子に乗ってしまうのが玉にきずですが」


 今日の出来事が嘘のように、和やかな空気が流れる。家の中には、いつもと変わらぬ匂いが漂っていた。――それなのに、どこか落ち着かない。


 普段と違う空気を察したのか、優しい目をした母がこちらを向いて問いかける。

「……何かありましたか?」

 温かい声がして、安心感と共に言葉が出てきた。

「……少し、聞いて欲しいことがあって、いいかな?」


 母に今日までのことを話した。


 あの日の違和感。耳鳴り。祠での出来事。全ては信じてもらえないと思いながらも、包み隠さず伝えた。


 全てを話し終えると、意外なことに、母の目に疑いの色は感じられなかった。


 母は少し考えるように俯いた後、こちらを向いて語り出す。


「どうしてこの場所に、村があると思いますか?」

 突拍子もない質問が飛んできて、身構えていた力が抜けたのを感じた。

「なぜって……人がいて、広大な土地がここにはあったから?」

「それはそうですけど」

 母が微笑む。僕は至って真剣なんだけどな。

「王都の外れにあるこの豊かな土地に、王都の手が一切かからないことに疑問を抱いたことはありませんか?」

「農村として作物を収めているから?」

「この村はそもそも徴税されていません」

「え?」

「この村には、王都の手が届かないのです」

 たしかに、あの山の騒ぎがあった時、一度も王都から使者や視察に来たと聞いたことがない。


「ここで、私からも一つ話をしましょうか」

「……話って?」

「古くから村に伝わる“エイカシアの伝承”の話です」

ここまでご覧いただきありがとうございます!!


次回は「祖先との対話」のお話を。


感想やご意見など、どんな形でもとても嬉しいです。

一言だけでも、励みになりますので気が向きましたらぜひその際は。


またのお越しをお待ちしております!!

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