Episode 2〜眠れる森〜
ご覧いただきありがとうございます!!
今回は「眠れる森」のお話を。
てはでは、ごゆるりと。
「これはどういうことだ!」
「山火事なんて起きていたか!?」
「去年の干ばつよりひどいぞ……」
「いや、三日三晩雨だぞ。干ばつが起きること自体おかしいだろ」
村の人たちのざわつきが、次第に怒気や恐怖を帯び始め、人から人へと負の感情が伝染していく。
「……精霊の怒りじゃないのか?」
「そんな御伽話みたいなことがあるかよ!」
「でもよ、あの木の白さはなんて説明するんだよ!」
“森が息を引き取った”
そう感じたのは、僕だけだったのかもしれない。
皆の不安が絶望へと変わり、不穏な空気に包まれかけたその時、母――村長が静かに口を開く。
「静まりなさい」
怒号ではなく、透き通る声だった。
「この状況を恐れるなとは言いません。ただ、私たちは生きています。原因がわからないからといって、何もしないままでいいのですか? 今を生きているからこそ出来ることがあるのではないですか?」
確かな信念を帯びた、村長としての言葉が、身を包む不穏な空気を晴らしていくのがわかった。
「村長の言う通りだ!」
「村の裏手の獣道の方なら、まだ狩りもできるはずだ!」
「冬の備えが足りるかわからんが、子供たちには腹いっぱい食わせてやりましょう!」
「おぉ、そうだそうだ」と、拳を突き上げ、皆の目に光が灯る。
「では、各々……やるべきことを考えましょう。クウィルツには王都に向かっていただきます。森の記録や土地の古文書など、可能な限り調べてきてください」
母の顔は凛としており、ただ目の前のすべき事にのみ意識を向けているようだった。
「できますね、ウィル」
「はい、行ってまいります」
ウィル兄さんはすぐに準備に取り掛かり、王都へと馬で駆けて行った。
次の日、森の様子を見に来ると、以前にも増して森を包む異様な空気に晒された。
「まるで……墓場じゃないか」
鼻腔をくすぐるのは、昨日とはまるで違う、生気の失せた土の匂いだった。
鳥が巣をかけていた枝は、今や骨のように空を仰いでいた。
やっぱり森は、“死んでいる”ようだった――
ふた月が過ぎようとした頃、ウィル兄さんが帰ってきた。
「どうだった?」
ウィル兄さんに、多くの期待の目が向けられる。
「過去にも同じようなことが、遠方でも起きていたようです」
ウィル兄さんは馬から降り、鞍袋から書物を取り出す。
「同じようなこと……ですか?」
母が問いかける。
「王都の古文書によると、原因不明の大災害によって、山や川が枯れて、飢餓が流行したそうです。でも、その後わずか一年足らずで復興したようなんです」
「たったの一年で……」
母は考え込んでいるようだった。
「はい。その一年さえ乗り越えれば、この村にも希望が見えてくるかもしれません……後、十ヶ月ほどを耐えられるでしょうか……」
「そうですね……ですが今はとりあえず、出来ることを互いに続けていくしかないようです」
「俺たちならまだまだやれるさ」と、母の声に同調するように皆が鼓舞し合う。でも、今は不安の色が目に灯っているように見えた。
それからひと月が経つ頃、不思議な事に、枯れたはずの山が徐々に彩りを帯びていった。
「ウィルの言った通りだ」と、村では復興したも同然の空気が流れ始めていた。
――その期待に応えるかのように、一年が経とうとした頃には、森はすっかり元の姿を取り戻していた。
「ようやくあの日から一年が経ったのですね」
母は安心したように、新芽の息吹に包まれた森を見つめる。
「……あの古文書の通りだったね」
以前までの異様な森の姿は見る影もない。木々は生い茂り、川が流れ、鳥が巣を作り始めていた。
けれど、今も“いつも通り”ではない異様な空気が僕を包む。
まるで、何かを語りかけてくるかのように――
ここまでご覧いただきありがとうございます!!
次回は「森の視察中に起きる不思議な出来事」のお話を。
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