Episode 1〜紡がれる宵〜
ご覧いただきありがとうございます!!
これから紡がれる物語を、最後まで見届けていただければ幸いです。
ではでは、ごゆるりと。
まるで世界そのものが息を潜めたような静寂の中に、一つの円卓が浮かび上がる。
七つの椅子に――七つの影。
“円卓の七賢人”と称される彼らが見つめる先に、僕は立っていた。
――世界の綻びを紡ぐ旅が、静かに始まりを告げたのである。
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猛き焔が文明を灯し、静かな水辺には命が芽吹く。穏やかな風が草木を優しく撫で、歴史を紡ぐ大地を星々が駆け巡る――その世界の名はエアルス。
ここはカナン村――王都〈ルフトルディア〉のほど近く、森の外れにある小さな村。
「いってきます」
まだ薄く霧がかるも、淡く照らされた太陽の光に、栗色の髪をした少年――ルクノウは包まれる。
「今日は森の視察でしたね。いってらっしゃい」
明け方の心地よい風が、母の髪を靡かせる。
森は、今日も変わらずそこに佇む。
通い慣れた森だが、忘れられない光景がある。
“あの日”――ウィル兄さんに、初めて森のことを教わった二年前を思い出す。
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「いいか。十五歳になったからには、俺の代わりに母さんの補佐を務めなきゃならない」
この村では、十五歳の節目で大人の仲間入りを果たし、村のために働くことになる。
「で、今日はルーの初仕事だ。俺の後ろをしっかりとついてくるんだぞ」
歳が十ほど離れたウィル兄さん――本名はクウィルツという――は、僕のことを“ルー”と呼び、可愛がってくれている。
「任せてよ、僕はもう子供じゃないんだから」
「ほんとかよ〜」って顔をするウィル兄さんは、僕を優しく見つめていた。
「ここからは、特に足元に気を配るんだ」
ウィル兄さんに倣って視線を落とすと、木の根が地面からまばらに顔を覗かせている。
この程度じゃ大したことないだろうと思い、僕は跳ねるように歩みを進めていた。
すると、木の根に躓き、地面が顔に迫るように盛大に転んだ。
「イテテ……」
「自然を舐めてはいけないぞ。さらに奥に行けば軽い怪我じゃ済まなくなるからな」
ただの注意ではなく、僕の身を案じた上での警告だと今ならわかる。
さらに足を進めると、森の木々は密度を増し、陽の光を遮るようになる。しかし、それだけが原因ではない異様な空気に包まれる。
「ウィル兄さん……なんか変じゃない?」
「ん? そうか?」
ウィル兄さんは首を傾げ、辺りを見渡す。
「いつも通りの森だけどな」
「……そっか」
(何か違和感があるけど、ウィル兄さんがそう言うなら……)
そう思いながらも、ウィル兄さんの後ろをついて歩く。
「もうじき雨が降りそうだし、少しペースを上げるぞ。次は転ばないようについて来いよ」
いつもなら空気の匂いや風の音で、僕にも雨の気配がわかるのに。
「やっぱり……おかしいよ」
「なんか言ったか?」
「いいや、何でもないよ」
そこからは、森を一通り見回った。
何事もなく帰路につく。
「これで次からはルーだけで大丈夫だな」
「うん、任せてよ」
家に着く頃には、ウィル兄さんの言った通り、ポツポツと雨が降り始めていた。
数日後、あのとき感じた違和感が形を成して村を襲う。
“それ”は突然の出来事だった。
平和で穏やかに過ぎるはずの日常が、一夜にして崩れ去ってしまう。
大地はひび割れ、小川が枯れている。木々は白く痩せ細り、葉は灰のように積もっていた。目の前に広がる異様な光景は、僕にはまるで、森という一つの命が静かに息を引き取ったように映っていた。
――この日から、僕の全てが動き始めたんだ。
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次回は「眠れる森」のお話を。
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