終話
フィッシャーは心の血の叫びとでも言わんばかりに
「父親を大切にしない鬼畜に生きる価値はないんだ!!!」
と叫び続けたが…
女性尋問官の指摘のお陰でフィッシャー自身が鉱山送りになる可能性があるのだ。誰も鉱山送りになる犯罪者の言い分になど耳は貸さない。
「任意で警備隊駐在所まで来てもらいたいんだけど、任意が難しいのなら縛って連れて行くわ」
女性尋問官がそう言うや否や
「お前らみたいな鬼畜は絶対許さない!!!」
とフィッシャーが剣を抜いてジンへ振り下ろそうとした。
その瞬間ーー
またも
「ハムスターが頭頂部の毛を針のように逆立てて飛ばし、針に仕込まれた麻酔成分で襲撃者を気絶させる」
ようなイメージが浮かんだ。
(息子らは俺が護る!!!)
ジョニーはイメージ通りに自分の頭頂部の毛が逆立ち、針のような硬さを持ち、それがフィッシャーへ向かって飛んでいくのを感じた。
ドサッ
フィッシャーの身体が地面に崩れ落ちた。
「はぁ、見た目が不細工なだけじゃなくて、心まで汚いんでしょうね。コイツ」
と女性尋問官が溜息を吐いて、フィッシャーを素早く縛り上げた。
「ダン君、ジン君、またね」
と言って女性尋問官は気絶してるフィッシャーを楽々担いで馬車へ放り投げてから馬車に乗り込み去って行った。
(成人男性を投げたぞ、あのお姐さん…)
ジョニーは女性尋問官に感心しながら、この世界の公平性を感じた。
(「悪が暴かれ、悪が断罪される」という当たり前の事が、この世界では起きた。…逆に地球世界ではそれが起こらなくなってたんだろうな…)
と思ったのだ。
それと同じ事をダンも思ったらしく
「この世界では『悪事を働きながら仲良しこよし』な悪党はちゃんと看破されて罪を問われるんだな…」
と呟いた。
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その後ーー
ジンもダンもジョニーへの溺愛を加速させたお陰で
ジョニーは逃げ出す隙を全く見い出せなくなってしまった…。
「ジョニーはやっぱり特殊個体だったんだな。頭のテッペンから針を出して飛ばしてただろ?『ゲゲゲの鬼◯郎』みたいで格好良かったぞ」
ダンはメロメロである。
それに対してジンは
「いや、『名探偵コ◯ン』みたいな麻酔針の射撃が見事だった!コナ◯君みたいで格好良かったよ」
と別のアニメを引き合いに出した。
「はぁ?『名探偵◯ナン』だとジンって名前の悪者が出てただろ?お前、悪者になりたいのかよ?ジョニーを殺したいのかよ?」
「えっ?…俺、悪者ジャナイヨ。ジョニーを殺したくナイヨ」
微妙に動揺してジンが挙動不審になる。
一方でダンは
「なら、ジョニーはコ◯ン君じゃない。鬼太◯だ。なぁ、ジョニー?」
と言って満面の笑みを浮かべた。
「チュッ!」
(俺、あのアニメ嫌いだったんだよ!鬼◯郎の親父がチビで裸で矮小過ぎて…)
秀二は弾と違い身長が高くなかった。
頭も禿げてて矮小だった。
目玉オヤ◯というキャラはチビのくせに偉そうな自分の矮小さを連想させるキャラだったので同族嫌悪的に嫌いだったのだ…。
(あっ!だけど、俺、今世ではフサフサだわ。まぁ「髪が」じゃなくて「全身が」だけど)
イケメン兄弟がしょっちゅう構って撫でてくるのでジョニーの毛はいつでも毛繕いされてるような状態だ。
(愛されイミニマ生活…。嬉しいし楽しいけど…)
息子達が前世の父親も今世の父親も嫌ってるのは分かり過ぎるくらいに分かった。
(本当はバレる前に逃げなきゃいけないんだけど。俺はバカだからやっぱり「バレたら逃げれば良い」って楽観視しちまうよ…)
ジョニーは複雑な心境なのである。
イミテーション・ニードルマウスの平均寿命は2年と言われている。
しかし魔物は基本的に長生きだ。
滅多に病気にならないし、怪我も若いうちはすぐに治る。
イミテーション・ニードルマウスが他の魔物よりも短命なのは主に
「捕食されること」
が原因である。
特殊個体は戦闘力が高く、捕食される可能性が低いので魔物特有の長生きの性質を発揮できる。
故にイミテーション・ニードルマウスの特殊個体の寿命は
「30年以上」
と言われている。
魔物専門医がいないので今はその程度だが、そのうち魔物専門医が出てくれば人間に飼育される従魔の寿命はもっと劇的に延びる事だろう。
いつかーー
ジョニーの中身が秀二だとバレる日まで
立派なイケメンに育ってくれた息子達のそばで
「俺が不幸にした息子達の幸せを、今度こそ守りたい」
と決意したジョニーなのだった…。
おしまい。