何が悪か
フィッシャーの言い分には女性尋問官が答えた。
「ビーフは詐欺師よ。ダン君もジン君もビーフについて何も知らなかったわ。
今までも『父親が危篤だ』と誘き出されて有り金全部巻き上げられる被害に遭ってたのよ。そうした嘘と恐喝のシナリオを書いてたのがビーフだったの。
因みに貴方のお兄さんとお父さんもビーフのようなやつと懇意なようなら今後監察が入る事になるわ。
貴方自身も今まで貴方の家族が冤罪捏造による財産没収で懐に入れた金品で良い暮らしできてきたのだと立証されれば、犯罪奴隷として鉱山送りになる可能性が高いのよ。
『悪事で儲けてる人達と仲が良いのだ』と公言する事のリスクを今まで感じた事も無かったからこその言葉なんでしょうけど。
犯罪に加担していないと証明するには『犯罪者と不仲である事が事件以前から周りにも知られている』必要があるの。
ダン君達の父親は標的が実の息子だとは言え、詐欺の片棒を担いでいた犯罪者。マトモな人間がそんな犯罪者と仲が良い方がオカシイでしょう?
ダン君達が犯罪者の父親と仲が悪いのは当たり前なのよ」
ジョニーは内心で拍手喝采しながら
(偉い!アンタ偉いよ!ダンの嫁候補に認めてやっても良い!ちっと歳を食い過ぎてるが!)
と賛辞を送った。
「ふざけんな!育ててもらった恩を重んじる人間の心があるなら、危篤だと聞けば何をおいても駆けつけるのが人間だろう!それを嘘だと決めつける冷血人間がマトモな人間の筈がない!
父親を大切にできない鬼畜は生きてる値打ちなんかない!」
とフィッシャーが食い下がるが
ダンが静かに言葉を紡ぐ。
「人間、誰かに共感したり感情的になったりする前に『誰が本当はどんな人間なのか』を先に正しく知っておく必要があるんだ。
クズな悪党に好意を持って、クズな悪党に共感したり、感情移入したりする事が、自分自身も犯罪者に変えてしまう事だってあるんだからな」
それに対してフィッシャーは納得がいかないらしく
「血も涙もない鬼畜が知ったような事を言うな!!!!」
と叫んだ。
フィッシャーにとっては父親を大事にしないダンとジンは絶対悪のようだった。
(もしかして、そういうどうでも良い理由で、このクソガキはダンの背嚢に宝石を入れて陥れようとしたのか?)
ジョニーは
(なんか前世のバカ過ぎる自分を見せつけられてるみたいで…本当にコイツ殺したくなる)
と思った。
秀二だった頃には
「どんな父親だろうとも子供は父親を大切にするべきだ」
と思っていたのだ。
だが秀二は浪費家で色気狂いだった以外にも人格面での問題もあった。
職人などに多いタイプだが
「何かに集中してる最中に話しかけられると、ただそれだけでイライラして、上手くいかないと『お前が話しかけたせいだ』と相手のせいにしてキレる」
性格だった。
職人は職人であるが故にそういう性格でも通用する面もあるが、職人でもなく、取り柄もなく、趣味も色々手を出してハマる割には長続きしない。
そんな人間が職人気質のカッとなりやすい性格なのだ。
身内は勿論、誰からも嫌われるのが当たり前だった。
そしてどうやらこの世界のダンとジンの父親も秀二と似たような性格らしい。
しかも息子達を金蔓と考えている。
流石にジョニーも
「クズな父親を子供は大切にしなくて良い」
と思ってしまうのだった。
(フィッシャーは「家族仲良く暮らせば、どんな悪事を働いて身を立てても正当化される」とでも勘違いしてるんだろうな…)
という点は不思議と理解できた。
勿論、納得はできないが。
悪の側からは「何が悪か」という判断基準自体が歪んでいるのだ…。