悪党家族
ジョニーは金貨を呑み込んでおこうかとも思ったが
(宝石よりデカいな…コレは流石に無理だ)
と諦めた。
頭の中に運動能力の底上げされた動作のイメージが浮かぶと常ならぬ動きが可能になる事もあり
(金貨の運び方もイメージで知らせてもらえないかなぁ)
と、ちょっと期待した。
が、そんなに都合良く運動能力底上げイメージは浮かんで来ない。
(重たいが、頑張って宿屋の部屋まで運んでみるか…)
と思い、金貨三枚咥えたまま、頑張って宿屋まで戻った。
すると、丁度馬車が宿屋前に到着して、釈放されたダンとジンが降りてきた。
(あ！釈放されたのか！良かった)
ジョニーは金貨を渡そうとダンの元へと駆け寄った。
ジンが気付いてくれて
「あっ！ジョニー！」
とジョニーを金貨ごと手に乗せてくれた。
「金貨はジョニーが守ってくれてたんだな。偉いぞ。ジョニー」
「そうだな。トラウトから『ネズミが金貨を盗んだ』と聞かされて『まさか』と思ったが、やっぱりジョニーだったか。頑張ったな。よくやった」
二人に褒められてジョニーも嬉しい。
(ちょっとは罪滅ぼしになっただろうか…)
と思ったのだ。
しかし皆がほのぼのと喜びを分かち合ってるその場に
先日の冒険者がーートラウトの弟のフィッシャーがーー
現れた。
「…お前ら、よくもやってくれたな！」
フィッシャーが怒鳴るがダンもジンもジョニーも怒鳴られる覚えがない。
「ビーフさんを詐欺師呼ばわりしたそうじゃないか！お前らの父親が危篤だからこそお前らを連れ戻そうとしただけの善意の人を！よくも！この人でなしの外道どもめ！何故家族で仲良く生きる事ができないんだ！育ててもらった恩すら仇で返す気か！鬼畜！」
フィッシャーがそう怒鳴るのを聞きながら
ジョニーは
(この男、頭がオカシイのか？)
と思った。
不思議と悪党家族は家族仲が良い事が多い。
家族全員が悪党だからだ。
逆に犯罪者未満の小悪党は家族仲が微妙だ。
「悪事で身を立てて、家族に裕福な暮らしをさせて、余裕ある態度で接する」
ようなポジションにいないからだ。
悪のヒエラルキーにおける底辺の者達は
「金持ち喧嘩せず」
的な悪同士の平和の恩恵にあずかれない。
つまり悪のヒエラルキー底辺の者達は悪のヒエラルキーに属するメリットがない。
悪事で儲けられるポジションにいない小悪党らは、いい加減にそうした現実に気づくべきなのだが…
秀二やこの世界のダンとジンの父親はそれに気付けなかった。
だがここにきてジョニーは、流石に
「フィッシャーはオカシイ」
と気が付いた。
(悪党どもの「仲良きことは美しきかな」ってノリは狂ってるな…)
一家丸ごと犯罪者で家族仲が良いのと
父親だけ犯罪者で家族仲が悪いのと
どっちが人間としてマトモなのか比べれば
明らかに後者がマトモだ。
なのに後者に対して
「仲が悪い」
という事を引き合いに出して
一家丸ごと犯罪者で家族仲の良い外道が
「家族仲良くできないお前らは鬼畜だ」
だのと憎み陥れようとするのだから…
本気で頭がオカシイ。
ジョニーも今なら分かるのだ。
(嫁も息子達もマトモな人間だったから、いちいち悪びれる俺の事が嫌いだったんだな…)
と。
もしもーー
(嫁も息子達も狂っていて一緒の価値観・世界観を共有してたら仲良くできてたのかな？)
と仮定してみたとして
(それはない)
と言い切れる。
秀二には悪事で身を立てて、自分も家族も良い暮らしができるようなコネはなかった。
悪のヒエラルキーに属して良い思いをできるようなポジションにはいなかった。
良い暮らしなどさせてやれず、ただ怒鳴りつけて殴りつけていただけだ。
だから沈みゆく船から逃げ出すネズミのように嫁も息子達も秀二から離れていった…。
自分以外の家族がマトモであるが故の必然だ。
それは納得しなければならない。
(俺だって、それを納得できた。納得できなきゃ人間じゃない。ーーって、既に人間じゃなくなってイミニマなんだがな…)
悪党一家のフィッシャーが
「家族仲が良ければ自分達の犯罪行為の罪が無かった事になる」
とでも思ってそうな価値観で
「家族仲が悪いのは大罪だ」
と主張するのが本気でムカつく。
(このクソ不細工なクソガキ、死ねば良いのにな…)
とジョニーも、フィッシャーに対して殺意が湧いた。
