産みの苦しみ
(誰がお前らなんかに息子達の金を奪わせるか!)
ジョニーは決死の覚悟を決めた。
ジョニーが辛うじて咥えられる大きさの金貨三枚。
天井のヒビ割れから躍り出るや、金貨に飛びついて、金貨を咥えた。
(このまま逃げ切ってやる!)
「なんだ!ネズミか?」
「なんでネズミが金貨を喰うんだ!」
「捕まえろ!」
「ブチ殺せ!」
とトラウトとビーフが騒ぎ出したが近くに警備兵はいない。
尋問室まで行けばダンとジンを尋問してる尋問官と書記官が居るし、事務室に事務員らも居るが、非戦闘員。
戦闘員は『人魚の涙』探しのために悉く出払ってる。
愛くるしいハムスターのジョニーを追いかけ回すような鬼畜な人間は、今現在、トラウトとビーフの2名に絞られている。
今回もジョニーの頭の中に
「ハムスターが華麗に壁走りしながら天井のヒビ割れへと潜り込み、天井に突き立てられる剣による串刺しを回避しながら逃げ切る」
イメージが浮かんだ。
(よし!イケる!)
ジョニーは頭の中のイメージ通りに行動。
普段の自分なら絶対できない動きをして無事に逃げ切った。
(実は俺、天才だったのだろうか…。自分の才能が自分でコワイ)
と少しナルシシズムに耽ってしまう。
「それにしても、金貨を三枚も咥えての移動はシンドイな…」
思わずイミニマ語で愚痴が漏れた。
先に宝石を(イミテーションのだが)呑み込んでいるせいで身体も重い…。
それにーー
「なんか、ウンコしたくなっちまったぞ…」
思えば、人間だった頃から異様に便の出が良かった。
下痢気味だったりすると漏らす事もしばしばあった。
頭髪も薄くてウンコまで漏らすオッサン。
モテない要素てんこ盛りの秀二だった…。
今は
「尻の穴広がりまくりのドデカウンコをバンバン排泄できる排泄仕様」
こそが役に立つのだ。
「ふふふ、俺のウンコまみれの宝石をお前らの便所の便槽へ落としておいてやる…」
とイミニマ語で呟きながらジョニーは便所へ向かった。
この世界の便所は当然水洗トイレではない。
排泄物が便槽に溜まってるのが見えるボットン便所だ。
ジョニーが便所できばる。
(ヒッヒッフーだっけ?お産の時の呼吸って)
ついお産を連想してしまうくらいには宝石はジョニーの身体に対してデカイ。
(マジでこりゃ、尻の穴がキツいな…)
ハムスターの身体は汗は出ない筈だが、それでも変な汗が出るくらいにはキツい。
(ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー…)
ひたすら呼吸法を繰り返して、中でスルッと何かが動いた。
(よし!)
つつがなく宝石はジョニーの尻から出てきた。
(これを便槽に落とさなきゃならないが…ウンコを素手で触るのは、たとえ自分のでも汚いな…)
仕方ないので誰かが忘れていったらしいハンカチを手とウンコ付き宝石との間に置いてウンコ付き宝石を押した。
ボットン。
頑張った甲斐があって、ちゃんと宝石を便槽に落とせた。ハンカチもついでに堕ちたが、まぁどうでも良いだろう。
実はそのハンカチはジョニーが噛み付いた警備兵のもの。
そのハンカチが宝石と一緒に落ちてるのが見えたせいで、その警備兵は宝石泥棒の犯人の容疑がかかる事になるのだが…
そういう心配をジョニーがしてやる必要はない。
(これで身軽になった。金貨を運びやすくなったぞ!)
ジョニーへ喜び勇んで金貨を安全な場所まで運んで隠す気でいた。