計画通り
計画通り、という事なのだろうが…
ガチャッとドアが開けられて武装した警備兵が入って来た。
(ままよ!)
と思いながらジョニーは背嚢に潜り込んで宝石を呑み込んだ。
「なんだ、お前らは!」
「勝手に人の部屋に入るな!」
ダンとジンが真っ当な反応をしたが
「黙れ!」
と警棒で殴られた。
ジョニーはカッとなってダンを殴った警備兵に飛びかかって噛みついたが
「クソが!なんだ!コレは!」
と手で払い除けられて吹き飛ばされた。
「「ジョニー!!!」」
ダンとジンが心配して声を上げるのが聞こえる中ーー
ジョニーは宙を舞いながら
(あ、死んだ…)
と思った。
このまま床に叩きつけられて死ぬのだと
自分の運命を悟った
のだがーー
急に頭の中で
「ハムスターが宙返りして華麗に床に着地する場面」
が浮かんだ。
そして気がつくと頭に浮かんだ場面通りに、ジョニーは空中で宙返りして華麗に床に着地していた…。
(何が起きた?!)
自分でも訳が分からず驚愕したが、今は悠長に驚きに気を取られている暇はない。
「なんだ?このネズミ」
再び警備兵がジョニーに攻撃を加えようと足を振り上げた。
踏み潰す気だ。
(誰が大人しく踏まれるかよ!)
ジョニーはドアを抜けて廊下へ逃げようとした。
だがまたも妙なイメージが頭の中に浮かぶ。
「ハムスターが窓から外へ出て華麗に宙返りして道向かいの家の屋根に飛び移る」
イメージである。
(やったれ!)
ジョニーは自分を奮い起こしてイメージ通りに動く事にした。
「クソネズミ!逃さんぞ!」
とクソな警備兵が怒鳴ったが、知ったことではない。
ジョニーは華麗に宿向かいの家の屋根に飛び移った。
ジンはジョニーが離れたことを寂しがって
「ジョニー!」
と声を掛けたが
ダンはジョニーの幸せを願って
「ジョニー死ぬな!生きろ!」
と叫んだ。
全くできた息子である。
ジョニーはホロリときながらも
(この身体じゃ涙も出ない)
と知っている。
(次はどうするべきか?)
と自問自答すれば
「ハムスターが屋根から飛び降りて建物影に隠れた後、馬車の下にしがみつき、馬車の行先まで着いていく」脳内イメージが浮かんだので、一先ず窓からこちらを見てる兄弟と警備兵から身を隠すべく屋根から飛び降りて建物影に隠れた。
「クソネズミ!後で探し出して駆逐してやる!」
と噛まれた警備兵がしつこく叫んでいたが
他の警備兵らが
「お前、次の非番来週だろ?」
「それよりとっとと連行しようぜ」
と職務遂行を促した。
噛まれたのが自分じゃない連中はジョニーを捕まえようとは全く思っていないし、ジョニーにこだわるのを面倒臭く感じているようだった。
ダンとジンは手首に縄を掛けられて連行される事になった…。
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警備兵駐在所の証拠品分析室ーー。
ダンとジンの私物が一切合切運び込まれた。
彼らが頑張って貯めた金も頑張って揃えた装備も運び込まれたのだ。
「証拠品として全て没収するから、書類をこさえておけ」
と役人風の制服を着た男が偉そうに指示した。
(コイツがトラウトか…)
ジョニーは忍者のように天井裏に忍び込んだ後、天井のヒビ割れから室内を見下ろしていた。
(コイツの真上でウンコして落としてやれたらスッキリするのにな)
息子達を陥れようとするクズな役人に対してジョニーは怒り心頭である。
「あれ?…どんなに探しても『人魚の涙』は見つかりませんが?」
と警備兵の一人が広げた荷物を指さして報告する。
「そんな筈が無いだろう。確実な線からタレコミがあったんだ」
「なんかの間違いだったんじゃないですか?」
「…おい。お前、『間違いでした』で済むと思ってるのか」
「はい?」
「お前は間違いで無実の人間を連行して無実の人間の全財産を没収するのか?そんな事する警備兵に対して市民の皆様が黙っていると思うのか?」
「…いえ」
「無いなら探せ。コイツらが今までに立ち寄ったと思われる場所全部が捜索範囲だ。捜索範囲内で『人魚の涙』が見つかれば、あの兄弟が隠していたと見做して押収して良い。この背嚢の中に入っていたと書類に記入すれば何も問題はない」
「…はあ…」
「分かったならサッサと探して来い!」
トラウトにそう言われて警備兵達は証拠品分析室から出て行った。
人が少なくなった駐在所。
正面玄関から堂々と借金取りのビーフが入ってきた。
「分前をもらいに来たぜ」
ビーフがニヤニヤ笑いしながら言うと
トラウトは
「チッ」
と舌打ちした。