兄弟
トラウトとフィッシャー。
コーストという悪徳役人の息子達で兄弟だ。
トラウトもコーストも
「無実の人をはめて冤罪で刑罰という名の不条理を強いる」
のが大好きなクズだった。
フィッシャーは頭が悪いせいで役人にはなれず冒険者になった。
悪そうなオッサン。借金取り立て人のビーフ。
ビーフがフィッシャーを見つけてウダウダ悪だくみを吹き込んだのをジョニーはバッチリ盗み聞きしている。
その際得た情報によると
ワル父のコーストは息子達と仲が良い。
(…羨ましくなんか、ないもん…)
ダンとジンは
シューというダメ人間の息子達で兄弟だ。
兄弟仲は良いが、父親との仲は悪い。
(「どっちがマトモか」を考えると、答えは簡単なんだよな…)
ビーフはコーストと面識はない。
コーストは別派閥の勢力だし、この町の住人じゃない。
だがビーフはトラウトを知っていた。
この町の裏社会では
「誰かを陥れたいならトラウトを雇え」
と言われるくらいの有名人。
「トラウトの弟なんて、やっぱり頭も性格も悪いワルに決まってるさ」
と思ったし、その推測は正解だった。
ビーフは隣町に住む富豪の屋敷から『人魚の涙』という宝石が(アクアマリンが)盗まれたという情報を仕入れているし、『人魚の涙』のイミテーションは安く買える。
なのでフィッシャーとトラウトを使ってダンとジンに宝石泥棒の濡れ衣を着せる計画を立てたのだ。
当然ジョニーは
(誰がさせるかよ。クズどもが)
と思った。
フィッシャーがダンとジンの荷物に『人魚の涙』のイミテーションを仕込み、トラウトが
「タレコミがあった」
と押し入り、ダンとジンの荷物を押収。
宝石はイミテーションなので鑑定に数日かけて後、釈放される事になるが、その間にダンとジンの荷物から金目のものは全て没収される。
コーストとトラウトが散々繰り返してきた手口だ。
今回はフィッシャーが言い負かされた報復も兼ねてるので、トラウトからビーフへ情報提供料が支払われる。
(それが借金返済にあてられる)
「大人しくクズ父の借金を肩代わりすれば経歴に傷が付かずに済むものを、バカなガキどもだ。どの道、有り金全部失くす事になるのにな」
とビーフはダンとジンを馬鹿にして嘲笑っていた。
許せる筈がない。
(アイツらは、俺の自慢の息子達なんだ!俺が馬鹿だったせいで「性犯罪者の息子達」として世間に後ろ指さされる羽目に陥らせたが…もう二度とアイツらを貶めさせたりはしない!俺がアイツらを護るんだ!)
ジョニーは悪党どもの陰謀から二人を護る決意をしたのだった。
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しかし、実際…
小さなハムスターに(イミニマに)できる事は少ない。
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宿屋の部屋は鍵を掛けられるようになっているが、ピッキングできるヤツも多い世の中。
あまりアテにできない。
鍵をかけて部屋を出た筈なのに、二人と一匹が部屋に戻ってきた時には嗅ぎ慣れないニオイが残っていた。
(間違いない!フィッシャーのヤツが忍び込んで宝石のイミテーションをダンかジンの荷物に混ぜやがった!)
ジョニーは確信して
「チュッ」
と声をあげてウエストポーチから飛び出てダンの背負い袋へと駆け寄った。
嗅ぎ慣れないニオイが一番強い場所だ。
「どうしたんだ?ジョニー。餌は入れてない筈だぞ?」
「ウエストポーチが狭いから背嚢に入ってたいってアプローチか?」
「チュッ」
(そうじゃねぇ!罠の仕込みがされたんだ!早く宝石を見つけて、誰にも見られないように何処かに捨てて来い!んで念のために全財産、どこか見つからない場所に隠しておけ!)
ジョニーの言葉は二人には通じない。
種族の違いの壁は厚いのであった…。