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見守り

挿絵(By みてみん)


要は、秀二が家族に対して暴言・暴力・敵意をぶつけ続けたのは

「妄想に憑かれた人間には正気の人間が抑圧者・去勢者に見える」

心理状態だったからだという事だ。


つまり、彼にとって

「妻も子供達も敵に見えていた」

のである。


無害なフワフワした夢をいちいち抑圧・去勢しようとする人達によるコモンセンスの押し付けは過剰な矯正圧力だが…

世の中には矯正圧力が無いと狂気と正気とを取り違える人間もいるのである。


この世界の場合はテレビもインターネットもない。

なので秀二のような

「他人の考えた妄想を上手く受け流せない」

人間に向いた世界ではある。


とは言え、ここでは秀二はジョニー。

人間ではなくイミテーション・ニードルマウス。


人間としてやり直す事は不可能。

ジョニーにできる事は、ダンとジンがこの世界のクズ父の搾取から上手く逃げ切れるように見守る事だけなのだった…。



********************



またも臭そうなオッサンがダンとジンの視界の端に入り込んで来ていた。

今度は如何にも悪そうなオッサンと一緒だ。


ジョニーは自慢の聴覚を発揮して臭そうなオッサンと悪そうなオッサンの会話を盗み聞きするべく耳を澄ませた。


「ったくよ〜。お前、ちゃんとガキどもを誘き寄せろよな。自分の役目すら果たせないのかよ?」


「すいやせん。でも、この手口、今回が初めてじゃないんでしょ?何回か繰り返してるから騙されにくくなってやがるんじゃないですかい?」


「なんだ、お前、俺に口答えしやがる気か?」


「いえ、滅相もございやせん」


「ったく。使えねぇグズだな。お前に払う手間賃はねぇ。とっとと消えな」


「そ、そんなぁ…」


「文句あるってのか?それとも役に立てる算段が付いてるとでも言いたいのか?」


「い、いえ、算段までは付いてませんが、一昨日、俺が声を掛けた後にガキどもがフィッシャーって冒険者と揉めたって小耳に挟んだもんで、どうにかして利用できないもんかと思っただけでやす」


「はんっ!そんな話が役に立つかよ!とっとと失せな!グズ!」


そんなやり取りで臭そうなオッサンは追い払われた。


そして臭そうなオッサンを追い払った悪そうなオッサンは

「…フィッシャーか…。ふん、確かアイツ、トラウトの弟だったよな…」

と、ニヤリと笑った。


(…ホント悪そうなヤツだな…。アイツがクズ父に金を貸してダンとジンから金を取ろうって悪党一味だな。許せん)

ジョニーが義憤に燃えていると


「ホラ、あんまりウエストポーチから身を乗り出すなよ。危ないぞ」

とジンがジョニーの身体をウエストポーチへ押し戻した。


「…ジン。さっき、一昨日の男があっちの方に居なかったか?」


「ん?さぁ?」


「貧民街のヤツだと思うんだが、金貸しの取り立て屋とツルんでるんだろうから、気を抜くなよ」


「わかった」


「あと、ジン。あんまりジョニーをウエストポーチに押し込めるな。コイツも野生の魔物なんだ。そのうち自分で闘って自分の餌を捕るようにならなきゃならない。過保護にすると、いつまで経っても自立できないぞ」


「えっ。それ必要?自立なんてさせずにずっと餌付けしてペットで居させてやれば良いじゃん」


「ペットは自由に子孫を残せないだろ?可哀想じゃないか」


「俺達だって子孫は残す気はないんだ。ジョニーだって子孫を残せなくても構わないって思う筈だよ。なっ?ジョニー」


「………」

(イミテーション・ニードルマウスとしてイミテーション・ニードルマウスと番うのって俺には想像がつかんのだが…)


「ジョニーがそんな事考えてる訳ないだろ?」


「そうかなぁ。ジョニーって俺達の会話の意味がちゃんと分かってるみたいに見えるんだけど…」


「賢そうな個体だとは思う。魔物も動物も人間も能力や知性に個体差があるからな。ジョニーはイミニマとしては賢い部類に入るだろうな。もしかしたら特殊個体かも知れない。でも所詮はイミニマだ。人間とは違う。まぁ、俺はジョニーが実は精霊で、ジンを護ってくれるんだったら良いなって勝手に思ってはいる」


「ほら、ダン君だってジョニーが俺達の言うことを理解できてる可能性があるって思ってるんじゃないか」


「俺は自分の希望的観測を希望的観測だと自覚できてる」


「俺だってできてる!」


「…ジンは自覚って事自体理解できてないんじゃないかって気がするよ」


「理解、できてると思うよ?」


「…まぁ、別にいいか。ジンがボーッとしてたり理解できてない事を理解してると思い込んでで、そのせいで災難に遭っても、俺が護ってやれば良いんだしな」


「ダン君。ありがとう。さすが!男前!」

(さすが弾!ホント男前だな!自慢の息子よ!)

ジンのお世辞とかぶる形でジョニーもダンを褒め称えた。


と同時に

(俺が前世で仁に厳しかったのは「護ってやれない状況」を常に想定してたからだったんだな…)

と気付いた。


子供を構わず放任。

子供が災難に巻き込まれても知らんぷりで助けない護らない。

そんな自分が楽する人生を想定して育てたから、些細な事でも致命的失敗みたいに過剰反応して過剰に叱りダメ出しする事になる。


生み出して

ただ食わせるだけ

それだけで子育てが終わる筈だと

どこかで人間社会を甘く見ていた。


(弾は多分、俺なんかと違って良い父親になれる筈なんだ…)

と解ってしまった…。




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