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後悔と再起

 バーゲストとの戦いから二日経った。同行してくれた兵たちは大型のバーゲストに襲われ全滅し、私と同じ境遇の田所祐一さんも死なせてしまった。私が肝心な時に転んだせいだ。仲間のグレイスとルーカスは重傷で今も寝込んでいる。そんな中で私、倉宮美結は大した怪我もせず生き残ってしまった。


 私も兵士や仲間たちのように力及ばずに倒れるならまだ良かった。仲間のミリアスのように最善を尽くしたうえで敗北しても良かった。でも、そうじゃない。私はバーゲストを倒すだけの力があったにも関わらずに恐怖で転び、田所さんを死なせた。即座に戦えなかったばかりに仲間たちを傷つけた。


 勇者として召喚されたが、これは私には不釣り合いな称号だ。仲間のために一人でバーゲストの群れに立ち向かった、田所さんこそが勇者であり生き残るべきだったんだ。


 後悔先に立たず。田所さんはバーゲストに連れていかれ、右腕と剣しか回収もしてあげられなかった。もう勇者は私しかいない。田所さんの分も、亡くなった兵士たちの分も私が戦わなくてはいけない。今となっては魔物と戦うよりも誰かがいなくなる方が恐い。あの時にそれがわかってさえいれば・・・。


「倉宮、準備はできてる?」


「はい、大丈夫です」


 この後、ミリアスさんと陛下と一緒に国民の前に立つことになっている。状況を不安視する民を元気づけるために陛下が提案したことだ。勇者と多数の兵を失った国民はさぞや不安なことだろう。原因の一員である私にできることがあるかはわからないが、田所さんたちの分も私がやらなくてはならない。




「愛する我が国の民たちよ!国王、カール・スタニエルだ。現在我が国は魔物たちとの戦いで多くの被害が出ている。二日前にも巨大なバーゲストの率いる群れとの戦いで、多くの兵と召喚の儀式でお呼びした勇者殿が戦死した。・・・しかし、希望はある!その過酷な戦いを経て、勇者である倉宮殿が驚くべき才能を開花したのだ!今日は倉宮殿にも話してもらうことになっている」


 城の高台にいる国王の話を聞いて、集まった国民が動揺している。バーゲストの件は噂になっていたが、勇者が死んだことを国王に伝えられた衝撃は強いようだ。だからこそ、私が勇者として安心させてあげなくてはならない。


 緊張で動きが固くなっている自覚はあるが、勇者として呼び出された私がやらなくてはいけないことだ。田所さんを失った原因でもある以上、逃げるわけにはいかない。


「アルティミシアの皆さん、はじめまして。ご紹介いただきました、倉宮美結です。バーゲストの件では私が至らないせいで、多くの犠牲が出てしまいました。実力者であった勇者も一人、帰らぬ人となってしまい、さぞかし不安かと思います。だからこそ、私たちを信じてください。私たちは彼らの気持ちを無駄にはしません。あの戦いで生き残った私を、その仲間たちを信じてください!」


 こんな大人数の前で話すのは初めてだ。しかし、思った以上にスムーズに言葉が出てくる。仲間を失った後悔が私を突き動かしてくれているのだろうか。


「私はもう、後悔したくありません。誰かを失いたくありません。そのためには怖くても戦わなくてはいけないんです。戦いを終わらせましょう!誰も失わなくて済むように、私と皆さんで、人間の力を合わせて勝利しましょう!」


 言うべきことは伝えた。私の後悔と、これからの誓い。それを多くの人に知ってもらって、これから同じ思いをする人が減ってほしかった。


 私のような小娘の演説だが思いの外上手くいき、国民たちは盛り上がっている。収集のつけ方がわからない。申し訳ないがあとは陛下にお任せしよう。


「ご苦労だった、倉宮殿。もう十分だ」


 許可も出たので逃げるように台から消える。緊張で心臓の音が聞こえるような気さえする。




「お疲れ、勇者様」


「からかわないでくださいよ、ミリアスさん」


「ううん、本当にちゃんと勇者してたよ。でも、これから頑張らないとね」


 ミリアスさんは最初の印象から大分、話しやすくなった。私もそうだが、初対面では壁を作ってしまうだけのようだ。女同士なこともあって今では冗談を言い合える仲になった。


「はい、田所さんや兵士の皆さんの分も私たちが頑張らないと」


「うん、でも気負いすぎないでね。私たちもいるんだから」


 ミリアスも、怪我でここにいないがグレイスとルーカスも大切な仲間だ。もう誰一人失わずに戦いを終わらせよう。改めて決意を固めて今後のことを考える。ひとまずはグレイス達の見舞いに行こう。




「明日には俺もルーカスも動けるようになる。そうしたら出発するぞ」


「わかりました。これ、差し入れです。おいしいので良ければどうぞ」


「ありがとう、倉宮。演説はどうだった?」


「バッチリだった。文句なしの勇者様」


 教会の所有している医務室。そこで治療ている2人に外で売っていたサンドイッチを手渡す。今後は魔王との取引、あるいは討伐のために旅に出る予定だ。見舞いにも度々訪れていて、グレイスたちにも話は通っている。以前と比べて仲も良くなったと思う。特にルーカスとミリアスは、バーゲストとの戦いで絆ができたような気がする。


 そしてグレイスは、私と同じように強く後悔しているようだ。以前は見せなかった陰のある顔を見せるような気がする。それに私以上に、悩んで苦しそうに見える時がある。もしかしたら貴族としての価値観に関わることなのかもしれない。


「俺たち四人で問題ない。陛下の判断もそれでいいんだな」


「はい、この前の一件で私も戦えるようになりましたから。任せてください」


「いや、グレイスは自分と私が戦力になるかを心配して」


「ルーカス!黙っとけって言っただろ」


 あの一件でグレイスの自信家な面は鳴りを潜めている。彼は私と違って勇敢に戦っていたし、時間を稼いだルーカスも十分役割を果たしていた。もそもそも私からすればあの大型のバーゲストを追い詰めただけでもすごいのに。


「二人は今まで通りで大丈夫。代わりに私も倉宮も強くなったから」


「そうなんです。私も、もう剣だけではないですよ」


 準備はできた。前回とは違い、覚悟もできている。今こうしている間にも、魔物の被害は出ているらしい。グレイス達が動けるようになったらすぐにでも出発しなくては。もう田所さんたちのような被害者を出すわけにはいかない。


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