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発展と魔道具

 魔王城周辺の発展。そのための建築には更なる困難が待ち構えていた。家を一軒立てるにも魔族と人間では必要な大きさがまるで違う。例えば扉一つを作るにも、枠の大きさから取っ手の位置まで変更を余儀なくされたのだ。普段からゆとりのある大きな建造物を作っていれば応用もできたかもしれないが、あいにくアーデニアには標準的な大きさの建物しか存在していない。せっかく建築家を招いたにもかかわらず、ほぼ一から設計をする必要に駆られていた。


 この問題で参考になったのは魔王城だった。数多くの魔族たちが生活できる魔王城は建築の基準として最適だった。それに家屋の建造は大幅に遅れたが、その間全員が手をこまねいていた訳ではない。魔王の領地といえど野生の魔物が侵入してくることは珍しくはない。そのため町の予定地をぐるっと覆う、塀の制作を進めていたのだ。木造の質素なものではあるが見張り台も併設されており、住民の安全を考えるなら優先して正解だっただろう。城には十分な戦力があるとはいえ余計な妨害がなくなったのは開発の効率化にも繋がるはずだ。砦のように立派なものでなくても、次に人間が攻めてきた場合の時間稼ぎにはなってくれるだろう。


 町を囲う塀の建築にあたって町の規模も概ね決まった。アーデニアとほとんど同じ程度の大きさではあるが、倉庫や政の機能は魔王城に集まっているので広さは充分だ。外から来た人間たちが滞在できるようにという考えからこのようになった。


 一度軌道に乗った町の発展。建築の知識のない俺の出番はほとんどなくなってしまった。俺は空いた時間に剣と魔法の訓練、そして魔法について考えていた。この世界に来てから思っていたことではあるのだが、魔法とは何なのであろう。


 前世でいうところの魔法とは、超常的な力や非科学的な現象のことだったはずだ。しかしこの世界の魔法はそれとは少し差異があるようだ。根拠はこれまで見て、そして戦ってきたゴーレムの存在だ。魔法が本当に何でもありなのであれば、無尽蔵な自己修復や、最適な人工知能が搭載されていても不思議じゃないのではないだろうか。しかし、実際に魔力で動くゴーレムは特定の状況下でしか自己修復できず、エルフの一件では行動の効率化のためか人間が搭乗していた。ここまでの経験からこの世界の魔法には明確な規則や制約があると思われる。言い換えてしまえば前の世界の科学のようなものではないか。


 俺は同じ勇者であるはずの倉宮ほど強くはない。当然ではあるが、魔族たちほどの身体能力も持ってはいない。あくまで人間の中では強い方、程度のものでしかないのだ。それならせめて考えを巡らせることによって魔王たちの役に立てないものだろうか。


 仮説の通り魔法にも科学と似た部分があるのであれば、化学技術の発展した世界から呼び出された俺になら人間たちの対策を考えることも出来るかもしれない。元技術者という訳ではないので詳しいことはわからないが、それでも今の魔族たちよりは人間について理解しているつもりだ。そして何より、魔族や魔物は魔法の認識が人間とは少し異なるらしい。人間にとって魔法は技術だ。対して魔族にとってはより身近な存在で、いうなれば生命活動の一部の場合があるらしい。


 例えば以前の世界では、全長が最も大きいのは生物は海中の生物だった。それも陸の最大に三倍ほどの差をつけて、だ。それほどまで差がある理由の一つに自重がある。生物の体、特に筋肉はとてつもなく重い。水中であれば浮力によって軽減されるためにそれほどの巨体を維持できるそうだ。この世界における巨大生物、大型の魔物も本来は陸上だと自重で身体を保てない。それを可能にするのが魔法の存在だ。だからこそ人間たちが使うようになった魔力を吸収する魔道具。あれは魔族によっては命に関わる。他にも体内で生成される成分は多かれ少なかれ魔力を利用するらしい。ドラゴンの火炎のブレスはこの世界にも存在するらしいのだが、それも魔力が少ないと力を発揮できないのだとか。


 これらのことから考えるに、魔力や魔法はこの世界の生物、ひいては生態系の一部にすら組み込まれているということだ。だからこそ魔族たちは生命活動の一環で自然と魔法を使えてしまう。魔法技術において人間に差を付けられているのはこれが原因ではないかと思う。


 対策すべき人間たちはナスターシャから壊滅的な被害を受けたので、しばらくはハッキング対策に時間を使ってくれるような気はする。だが警戒するに越したことはないはずだ。次はゴーレム以外の兵器を用いてくるかもしれない。ハッキング対策が意外と簡単にできる可能性もなくはない。悪い方に想定しておくに越したことはない。


 ただし根本的な問題として俺はこの世界の技術を知らなすぎる。仮にゴーレムや例の魔力を吸収する魔道具をじっくり見る機会があったとしても、弱点や欠陥などを看破することは難しいだろう。それを理解したうえで実際に調べてみる必要はある。そのため今はアーデニアから来てもらった建築士たちに持ち合わせた魔道具を見せてもらっていた。


「うん、全然わからん」


 今見ているのは玄翁や鋸だ。これらは当然、魔道具と呼ばれるものなのだが、ぱっと見では魔力の通わない普通の物との違いすら判別できない。一定以上の魔力を秘めるものであればうっすらと発光するのだが、一般流通しているようなものでは見た目に差異はないらしい。


「強度が上がる程度の魔道具だとこんなもんですよ。それにこんなのを見るよりも……」


 休憩中の建築たちの目が俺の腰あたりに集まる。何を言いたいのか理解できずに困惑させられたが、数秒遅れてようやく思い当たった。腰に下げられている剣。これは魔王に借り受けた魔道具だった。馬車で話すことがなく、この剣の話をしたのを覚えてくれていたらしい。


 なんで普通に指摘してくれなかったのかと思いもしたが、彼らからしたら俺や魔王は大口の取引相手だ。万一、魔王の魔道具が自分たちの道具と大差ない品だった場合は気まずいことになっていたのだろう。逆にこの剣の方が優れていた場合は、俺が彼らの魔道具を見たがっている理由が不明だ。今困惑させられているのは俺ではなく彼らの方だったようだ。


 手元により良い資料があることがわかったので彼らに礼を言って離れることにした。真っ先に自分の剣を調べなかったことに対する疑惑の目から逃げる意味もある。非常時以外に武器を手に取る選択肢がまるでなかったのだから仕方がない、と誰にでもなく言い訳をしてしまう。


 魔王に借り受けた剣はそれなりの魔力を持っているらしい。刀身はうっすらと輝いている。光沢のみではなく、一定の間隔で波打つように色味が変わる不思議な輝きだった。マジックゴーレムなどの魔力を秘めた存在もこれに近い特徴を持っていた。しかし眺めるだけではそれ以上のことはわからない。


 ここまでは想定の範囲内だ。次に俺は魔眼の魔法を発動させる。魔力の量や動きを視認できる魔法。これがあれば何かがわかるかもしれない。剣からオーラのようなものが出ているように見える。これこそが輝きの原因なのだろう。さらにじっくり見てみると刀身に文字のようなものが見えてくる。なんて書いてあるかはわからない。この世界の文字かもしれないし、文字のように見えるだけの図形かもしれない。もしかしたらこれと同じ物を刃物に刻み込めば、それも魔道具となるのだろうか。逆にこれを消した場合は魔道具ではなくなる可能性もあるのだろうか。


「おーい!トビー!どこだ!?」


 俺を思考の世界から呼び物戻したのは慌てる人間たちの声だった。嫌な予感がするが取り合わないわけにはいかない。俺としては魔族たちに対して良い印象を持ち帰ってもらいたいのだ。一応魔族側の人間としては下手なことはできない。俺は問題が複雑でないことを祈りながら腰を上げた。

更新が遅くて申し訳ありません。

多忙だったり、この回おもんなくね?とか思ってたら時間が経っていました…


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