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町と人間

 魔王領の開発についての打ち合わせが始まったところなのだが、魔族たちと俺の認識には齟齬があったらしい。どうやら人間であれば誰でも建築が可能であると思われていたようだ。考えてみればそれも当然かもしれない。普通の生き物は巣作りなんて誰でもできるはずだ。職業ごとにやるべき業務が分担される人間のあり方の方が異質といえる。


「それじゃあこの魔王城は誰がどうやって作ったんだ?」


 てっきり魔族たちが建築したと思っていた、この魔王城。彼らが建築技術に秀でていないのであれば人間に造らせたということだろうか。


「それが定かではないらしいんですよ。なんでも先代の魔王様よりも、もっともっと前の代に建てられたそうです。噂によると伝説の勇者たちの時代ともいわれてるらしいです」


「それって、俺たちがここに呼ばれた儀式が初めて使われた時代ってことか?」


 異世界から勇者を呼び出す儀式は何度か行われていたはずだ。その中でも伝説といわれる程の昔。そこまで遡ってしまうと長命な魔族たちにも把握しきれないようだ。人間側でもおとぎ話のように語られていただけあり、この場の二人の魔族もこれ以上の情報は持ち合わせていなかった。気になる話ではあるが今は知ればるほどの時間はない。


 結局のところ、魔王城周辺を発展させるには建築技術を持つ人間の助力が必要という結論に至った。とはいっても人間から攻撃を受けたばかりの俺たちが頼れる相手はほとんどいない。そうして翌日には数少ない交渉が可能な人間たちの町、アーデニアに出向く必要に駆られた。


「魔王様も二つ返事でしたね。魔王領の発展ってそんなに重要なんですか?」


「それも重要ではあるけど、それ以上に人間と共に何かをするっていうのが大事なのかもな」


 これから人間たちと歩むうえで、人間たちと何をかを成し遂げた実績はあるに越したことはないはずだ。そう考えて白蛇に答えはするが、俺も詳しいことはわかっていない。詳細はラピールと魔王が二人で決めてしまった。どちらにしても俺たちは明日にはアーデニアに発つ必要がある。


「しかし、こんなことに時間使ってていいのかな?勇者たちが近くまで迫ってるって話だったけど」


「まあ、良いんじゃないですか?魔王様が決めたことだし、問題ないと思いますよ。それにアーデニアの方々が協力してくれるのであれば、私たちがやることも減るんですよね?」


「建設は俺たちにはできないからな。ある程度は任せることになると思うけど…」


 領地の発展は大事業になる。家屋の建築を丸投げして終わるわけではないだろう。少なくとも住民の割り振りや、仕事の斡旋が必要になる。これまでは群れや集落程度しか存在していなかった魔族たちにも町という概念が生まれるからだ。どう考えても簡単な事ではない。これを勇者対策の片手間で行って良いものだろうか。


「それで言うと私たちよりもラピールさんが大忙しですけどね。さっきも大慌てでしたよ」


 対勇者とアーデニア。いずれの業務も交渉がカギとなる。必然的に交渉や資源管理を担当しているラピールの負担が大きくなっていた。変わってやることはできないが、今のうちに俺にできることを探しておきたい。


「俺たちは戦いになった時にでも備えておくか?」


「そうですね。まあ、こちらは戦いたいわけではないですから、逃げるための魔法でも覚えておきましょうか?」


「そうか。いざとなったら戦うことばっか考えてたけど、逃げるのもありか。じゃあよろしく頼むよ」


「はい、もちろんです!ではさっそく魔導書を借りに行きましょう!」


 上機嫌な白蛇に続いて書庫を目指す。温厚な彼女のことだ。きっと戦う術ではなく、安全に逃げるための魔法であることが嬉しいのだろう。しかし俺としては、自分を裏切ったグレイス達なんかと敵対してでも白蛇たちを守ってやりたい。一度交渉が失敗したら、一度逃げたところで争いは収まらないだろう。今逃げるための魔法を覚えるのはあくまで選択肢を増やす目的だ。


 こうして俺は新たに発煙の魔法を習得することになった。近くに黒い煙の発生源を作る魔法らしい。あとで試したことだが俺が使った場合、持続時間は十秒に満たないほどでかなりの勢いで煙が発生する。狼煙のように真っすぐなものではなく、煙玉のように辺りを覆い隠す煙だ。確かにこれなら余程のことがなければ時間稼ぎにはなるだろう。


 さらにこの煙は魔法だ。元は魔力によって発生している。そのため魔力を見通すことのできる魔族相手にも機能するそうだ。普通の煙であれば魔力を目視できる魔族には効果が薄い。使用者自身の魔力を追えばいいからだ。現在の仮想敵は人間である勇者パーティだが、覚えておけばいつか役に立つかもしれない。


 もののついでだ。今後の対人間たちについて聞きたかったことがある。今なら司書さんもいるのでちょうどいいだろう。


「そういえば昨日のことだけど、二人はどうやってゴーレムたちを倒したかって聞いた?」


「確かナスターシャ様が単独で撃退したとか。ついでにあの白いゴーレムの体を奪ったんでしたよね?」


「私もそう聞きました。魔王様の話だとナスターシャ様は人形の体が壊れてしまったって悲しんでたそうですよ」


「そうなんだよ。それについて聞きたくってさ。あのゴーレムを乗っ取る力ってみんな持ってたりするのか?特定の種族だけの特徴とか?」


 もしそうなら今後は敵対するゴーレムに対して格段に有利になる。上手くいけばスパイとして指揮を執る人間の情報を入手することも出来るかもしれない。


「残念ですがそれは難しいですね。あんな芸当ができるのは魔力の扱いに長けていて、尚且つ肉体と魔力の結びつきが弱い必要がありますから」


「魔力の扱いはともかく、その結びつきってのは?」


「言ってしまえば普通の生物には不可能なんです。魔力も体と同じく個人差がありますから。元の体と魔力が最も定着しやすいんです。ナスターシャ様のように物体に意思が宿ったような出自でないと、まず不可能ですね」


 魔力の結びつきという概念は初めて知ったが、やはりというべきか期待していたほど簡単な話ではないようだ。そもそも誰にでもできるのであれば、これまでの戦いの際に試みる者がいても不思議ではなかったはずだ。しかし、そうなるともう一つ気になることがある。


「じゃあ司書さんはそれが可能だったりとか?」


「いえいえ、私には無理です。私は生きていたころからこの体と魔力ですのでね。体との結びつきは強いんですよ。同じように遺体に宿るタイプの魔族には不可能かと思います」


「他にも物に宿るタイプの魔族も多くは知性が低いですから。魔力の扱いの方が不可能ですね。なのであれは、ナスターシャ様だからこそできたって考えで良いかもしれませんね」


「確かナスターシャは魔王の魔力に触発された人形なんだったっけ?やっぱり特別なんだな…」


 ナスターシャのハッキングが今後に活かせるのではないかという俺の考えは失敗に終わった。まだ知らないことの多い魔族や魔力について知れただけでも収穫と思うべきなのだろう。対ゴーレムはこれまで通りにやるしかないようだ。それに司書さんの出自についても少しだけ知ることができた。やはり彼は元は人間だったらしい。それがなぜ魔王のお膝元で司書をしているのかは謎のままだが。




 翌朝にはセントールの姉弟達も加わり、アーデニアに到着した。俺以外は前回の件以外にもこの町に来ているらしく、住民たちとも仲が良いようだ。人間である俺が居なくても魔族と人間は平穏に交流できる。自分の知らない間のことなので少し寂しくも感じるが、魔王の理想も不可能ではないかもしれない。


 交渉はスムーズに終わった。こちらからは食料や資源の提供。あちらには建築ができる者を貸し出してもらうという内容だ。体力に優れる魔族たちは人間と比べると果実や木材を集めることが得意らしい。それには森で暮らしていたエルフたちが城に来たことも拍車をかけている。対するアーデニアはそこまで規模の大きい町ではない。老朽化した建造物の立て直し以外の仕事は少ないようで、快く引き受けてくれたらしい。


 他の面々が報酬の相談をしている間に俺は町の長と二人にしてもらっていた。人間たちの魔王城襲撃について少し気になることがあったからだ。


「そんなことがあったとは…。犠牲者が出なかったことだけは幸いだろうか」


「そうですね。城の方も目立った被害はありませんでしたから。それでその、逃げた人間たちに心当たりがあったりとかは、しませんよね?」


 あの時から気になっていた。魔王城の周りの土地は過酷で、陸路に使えそうなのは東か西に限られる。西にあったエルフたちの集落は攻撃を受けた。この町も攻撃されないまでも、攻撃の足掛かりにされるくらいのことはあっても不思議ではない。


「知らないな。小さい町だからな。大量にゴーレムを連れた人間たちが来ようものなら町中で話題になるだろう」


 彼の言うことももっともだ。町にはまだ小さい子供もいる。万が一、町ぐるみであの人間たちを匿っていたとしてもボロが出る可能性は高い。


「それではゴーレムを失った人間たちがここに逃げてくるようなこともなかったんですね?」


「うむ、確実に。それに話を聞いた限りだと以前、坑道に現れたゴーレムとも関係がありそうだな。私たちがその人間たちの味方になることはありえんさ」


 長の言うことを完全に信じるのは危険かもしれない。それでも彼やアーデニアの住人たちは魔族たちを受け入れてくれている。それに逃げた人間たちが他の逃亡先や移動手段を保有していても不思議ではない。相手は人間大の戦闘兵器を量産できるほどの技術を持っているのだ。


「信頼できなくても無理はない。しかしこの町も我々にとっては逃げ延びた先の安住の地なのだ。それを見逃してくれていた魔王を裏切るようなことはしない」


「そうだったんですね。疑うようなことを言って、申し訳ありませんでした。」


「いや、気にしないでくれ。話しにくいことがあると思ってわざわざ二人きりにしてくれたんだろうしな」


 話をする長の眼差しには何とも言えない威圧感があった。本音で語ってくれていると信じたい気持ちはある。それに彼の境遇は少し俺に似ているのかもしれない。今ここでこれ以上 問い詰めたところであまり意味もない。今は引き下がるしかないだろう。


「もう一つお聞きしても良いですか?間もなく魔王城を訪れる勇者についてです。町の皆さんはどのように接するおつもりですか?」


「あの勇者が?そうか、そうだったのか。まあ相手が勇者でも魔族でも変わらんよ。対等に接するだけだ。魔族と関わっていることについて箝口令を出す気もない」


「良いんですか?勇者たちがこの町の人たちを、魔族の仲間だと判断するかも。最悪の場合…」


 倉宮がそんなことをするとは到底思えないが、最悪のことを想定しておくべきだ。俺のように倉宮のスタンスが変わっている可能性も捨てきれない。


「その時はその時さ。ただの人間同士の争いだろう。それにそうなれば、魔王としても勇者と戦う理由が増える。なんて考えもできるんじゃないか?」


 親しくしている人間たちを勇者が攻撃したので報復した。確かに魔族をよく思っていない人間から見てもそれなりの理由付けにはなる。被害を受けているのも人間だからだ。だがそんな考えは当然、魔王にはない。


「魔王は本気で人間と和解する気です。その相手が勇者でも。そして、ここの皆さんの身も案じるかもしれません。魔族と関りがあることは黙っておいた方が…」


 長は黙って考えている様子だ。彼の考えはすでに聞いたが、町の長として考える必要があるのだろう。結局、町民で話し合うという結論に至ったそうだ。俺も部外者である以上、もう口出しはできない。彼らの無事を祈りながら、建築の協力者たちと共にアーデニアを後にした。

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