会議と覚悟
人間たちによる、白いゴーレムでの襲撃翌日。俺はいつものように書庫に来ていた。来たる勇者パーティに対処すべく、魔王が指名した者たちと打ち合わせ中だ。
「僕たちで勇者一行と取引、するんですよね?少し責任感じちゃうかも……」
日頃から経理のような業務を担当しているらしいラピール。彼、なのか彼女なのかは定かではないが、人間の町であるアーデニアとの交渉も請け負っているゆえの指名らしい。戦闘要因ではないのでそこはこちらがカバーする必要がある。それでも交渉人としてはこれ以上ない人選だそうだ。
「すでに人間の方たちとやり取りしているんですから、自信持っていきましょう!上手くいけば人間との争いが終わるかもしれないんですよ!」
次に底抜けに明るい、というか浮足立っている気がする白蛇。ある程度魔法が使えるためいざという時の戦力にもなる。彼女が治療の魔法を使えることも俺は身を持って知っているため頼りにしている。両者ともに人当たりも良いため、魔王城にいる中では交渉に最適かもしれない。
そして最後に俺、田所祐一。前世の分も込みで人間との交渉は断トツで経験が多いだろうが、かつての仕事とは規模が違いすぎる。なにせ外交ともいえる大仕事だ。以前に勤めていた中小企業の営業職なんかとは比較にもならない。打ち合わせがこれからとはいえ、交渉の材料やゴールも把握できていない事実が不安を煽る。
さらには共に交渉にあたる二人の存在も俺にとって緊張の種かもしれない。俺は魔族に助けられ魔族のために働くことを心に決めている。それでも俺にとっては白蛇は特別な存在なのだ。なんとしても守り通したい。より戦闘力が低いはずのラピールも一緒なのだ。戦闘になった場合に二人を守ってやれるだろうか。
「田所さん、大丈夫ですか?何か心配事でも?」
「いや、普通は心配だらけだと思いますよ。失敗したら勇者たちと戦うことになるかもしれませんから」
「俺は大丈夫だよ。それよりも二人は良いのか?かなり危険な役割だと思うけど…」
俺たちは争うために倉宮たちと相見えるのではない。それでも向こうは戦うつもりで来るはずだ。異世界の住人だった倉宮はともかく、他の三名は多かれ少なかれ魔物に対する敵対感情を持っているはずだ。問答無用で攻撃される可能性も充分に考えられる。
「僕は魔族や魔物の中では弱い方ですから、ここに居させてもらってるだけでも守助けられてるんです。時々危険なことを頼まれるくらいなら問題ないですよ」
「私もです!弱くてもできることをやります。いざという時の治療はお任せください!」
本人は弱いと言っているが、前に聞いた話だと白蛇は複数のバーゲストに対処できる程度には実力があったはずだ。しかし本人の意気込みに水を差すこともないだろう。
最初に打ち合わせるのは当然、勇者パーティについてだ。俺と同じ境遇で比較的説得しやすそうな倉宮。貴族の子として生まれたために、領内への魔物の被害を重く受け止めていたグレイスとルーカス。口数が少ないこともありスタンスがいまいち把握しきれないミリアス。説得は簡単ではないと思っておくべきだろう。
「特に問題なのはグレイスだと思う。魔族や俺への敵意が強いうえに親が権力者らしい。下手なことをしたら一発で交渉決裂しかねない」
「あの、魔族はともかく田所さんへの敵意とはどこからきてるんでしょうか?人間側にいる時にも魔物に肩入れするような発言でも?」
「いや、余裕なくて詳しくは聞けなかったんだけど俺が予備の勇者だから要らない、みたいなこと言ってたような。それで刺されてバーゲストの囮にされたんだよ」
これまではあまり深く考えていなかったが、思い返すと不自然な言動に思える。この世界に呼ばれて最初の段階では、俺と倉宮のどちらが勇者か決めあぐねていたはずだ。戦闘能力が低い俺は勇者ではないと判断して切り捨てられたということだろうか。
「そんなことがあったんですね。では田所さんは元勇者という認識で良いんでしょうか。それがアルティミシア全体の決定かも不確定ですね」
「多分だけど、アイツの独断ってことはないんじゃないかな。親が権力者らしいし不用意なことはしないだろ。だから悪いんだけど、俺の発言力が特に強かったりはしないと思ってくれ」
追放されてここに来たような身なので期待されていないとは思うが、情報の共有は重要だ。思うことでもあったのか、ここまで黙って聞いていた白蛇が言いにくそうに発言してきた。
「あの怪我はバーゲストだけのせいではなかったんですね。そんな相手と交渉の場に立つなんて、危険なのでは…?」
「大丈夫、俺も二人と一緒だ。人間たちとの交渉なんだから俺が活躍しないと。それに話したいこともあるからさ」
白蛇は納得できてないのか不安げな様子だが、このままでは打ち合わせが進行しない。俺はラピールに話題を振って何とか話を進めることにした。領土や貿易、資源などの取引材料は俺以上に詳しい二人のおかげで悩まなくて良さそうだ。
他に重要そうなのは魔物対策の情報共有だ。人間たちの領地で暴れている魔物たちが存在する限り、人間たちの敵対感情は無くならないだろう。情報共有さえしてもらえればこちらで対処する、というのが魔王の方針らしい。これが実現すれば魔族たちが危険な魔物たちとは違うということの証明にもなるだろう。それも今は机上の空論だ。俺たちの交渉の成否が今後の魔族の立ち位置を決めると言っても過言ではない。
しばらく打ち合わせをして勇者たちに備えて相談すべきことは概ね片付いたと思ってよさそうだ。しかし、まだ会議は終わらない。実はこのメンバーが選ばれた理由はもう一つある。シャディムと相談した魔王領開発の件だ。むしろ今重要なのはこちらの方かもしれない。魔族たちの文明力を見せておくことは、心情的にも交渉にも有利に働く可能性があるからだ。
「こちらも僕たちの担当で良いんですよね。結構大掛かりになりそうな話になりそうですが……」
「こういうのが四人衆の仕事ってわけじゃないんだな」
「はい。これまで四人衆は基本的に戦闘能力で決められてきましたから。何というか、人間たちでいうところの権力者とは少し違いますね」
魔族は戦闘能力を重視する。頭では理解したつもりでも人間社会で根付いた価値観は中々抜けない。俺はここでは貴重な人間なので、その価値観を求められているのかもしれないが。
「それで、領地の開発って何からやればいいんだ?」
「え?」「え?」
こうして全てが手探りの状態で魔王領開発が始まりを告げるのだった。
行進が遅くて申し訳ありません。
短めになってしまいましたが、年末は更新できない可能性があるため一度更新しておきます。




