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成長と業務

 議題が尽きかけたころ、俺は共有し忘れた話があったことを思い出した。先程、窮地に瀕した際の魔王の言葉だ。あれが本当に非常時の備えなら問題はない。しかし、あの言動は側近である四人衆の戦闘能力への不安からきているのではないだろうか。そうであれば放置するのは今後の人間関係と魔王のメンタルのために良くないだろう。組織のトップのメンタルケアなど、とても俺一人の手には負えない。魔王と付き合いが長いであろう、四人衆に丸投げしてしまっても良いようにすら思える。


 俺はばつが悪そうな魔王を放置して、さっきのやり取りを三人に話す。この場にいる者はいずれも表情には出にくいタイプではあるが、それでもナスターシャ以外の二人の困惑が手に取るように伝わってくる。俺も同じ思いをしたばかりだからだ。話を聞き終え、最初に口を開いたのはシャディムだった。


「魔王様、何のために我々が率先して出向いたか理解していなったのですか?それとも、私たちが勝利することはあり得ないとでも?」


「いや、そうではなくてだな。単純に最悪の場合を想定して……」


「今は魔王様の身に何かあるのが最悪の状況です。考えるのならそれを回避する方法でお願いします」


「し、しかし父上は最前線で活躍していたし、私が討たれることを想定するのも……」


「今は勇者だけでなく、ゴーレムによって人間も力をつけています。以前とは根本的に状況が違うのです。くれぐれも、ご自身の身の安全を第一に考えてください」


「ああ、うん。わかった。今後はそうしよう」


 どうやって魔王に言葉を掛けるかべきか考えていた俺がバカみたいだ。あまりにもスムーズに魔王を説得して見せたシャディム。魔王との関係性をまだ把握しきれてなかったようだが、一言でいうなら保護者だろうか。また魔王のことで何かあったらシャディムに報告することにしよう。


 残る二名、ヴァミリスとナスターシャは静観している。四人衆の中からも離反した者がいる以上、彼女たちも不満を残さないように言いたいことは言ってしまった方が良いのではないだろうか。余計なお世話かもしれないが、会話能力を手に入れたばかりの者もいる。少し話を引き出してみよう。


「二人は良いのか?魔王に言っておきたいこととか、敵を見たうえで注意しておきたいこととかさ」


「俺からは特にない。シャディムが言った内容で充分だな」


「ワタシは、もう魔王様にいなくなって欲しくない。先代は勇者にやられてしまったから……。魔王様はワタシたちが弱いから不安?」


「待て、ナスターシャ。そういうことではない。王として万が一のことを考えてだな……」


 シャディムからお叱りを受けていたはずの魔王がすかさずフォローを入れてくる。魔族の今後への不安と同胞を思う気持ち。どちらも嘘ではないはずだ。先程はきっと、内通者が出たことによる不信感が態度に現れてしまったせいもあるのだろう。


 仲間たちんpやり取りを微笑ましく思いながらも今後のことについて考える。勇者パーティと交渉するのはきっと簡単なことではない。俺は魔物を恐れるアルティミシアの住民を知っている。人間の生活圏で猛威を振るう魔物の恐ろしさも身を持って理解した。俺一人で交渉時するわけではないはずだが、俺にも準備できることはないだろうか。


「なあ、シャディム。交渉に向けてなんかできることないか?訓練は念のため続けるつもりではあるんだけどさ」


「ないことはないですが、私としてはもう充分かと。あなたたちのおかげでアーデニアとは友好的な関係が築けましたからね」


「アーデニア?なんか勇者と関係でもあるのか?」


 異世界人である倉宮も遥か遠くから来る他の三人もアーデニアとは何の関係もないのではないだろうか。


「アーデニアは魔族と人間が共存できることの好例となりました。そして勇者たちは確実にあの町を通ってここに来ます。魔族と人は争うことなく共存できる。交渉前にそれを証明できるのはこちらにとってはかなり都合の良い状況です」


 言われてみればそうかもしれない。元々は人と魔物の争いだったのだ。文明的な魔物たち、つまり魔族は人間に近しく、共存ができる。それが証明されている以上はあちらも強硬手段に出にくいだろう。


「けど、アーデニアが特例ってだけで、アルティミシアの人は聞く耳持たないかもしれないだろ。実際についさっき人間から攻撃されたんだしさ」


「まあ、その時はその時です。人間と仲良くしていた魔王様に対して勇者が一方的に攻撃を仕掛けたことになりますから、こちらとしては堂々と抵抗できるようになりますね」


 結局のところ大義名分が欲しかったようだ。勇者が悪でこちらは正当防衛しただけだと。理屈の上では理由付けが必要なのは理解できる。だが勇者、倉宮たちと直接関わりのある俺としては、この状況は他の活かし方をした方が良いように思えた。


「それもわかるけど、魔族も人間に近い生活ができることをアピールするのはどうだ?魔物との違いの証明になるし、商売なんかができれば互いの利益になるかも」


「なるほど、悪くはないですね。互いの利になるのなら、手出してくる人間も減ることでしょう。しかし具体的にどうするつもりです?」


「ああ、前から思ってたんだけどもう少し魔王城の周りを発展させるとかどうだ?近くに城下町みたいなのがあれば、一目で人間たちみたいな知能があるって伝わるだろ」


 ふむ、と呟いて考え込むシャディム。今回のように攻め込まれた際の防衛にも役立つし、魔族たちの生活水準も上がるはずだ。なかなかいい考えだと思ったのだが問題でもあるのだろうか。


「良いかもしれませんね。人材や資源が必要なので私一人では何とも言えませんが、後ほど魔王様に伝えておきましょう。ここでは貴重な人間なのですから、その時にはあなたの手も借りますよ」


「ああ、喜んでやらせてもらうよ。今までと比べれば危険もなさそうだしな」


 ここに来てから、というかこの世界に来てから危険と隣り合わせなことばかりだった。必要であれば危険な仕事もこなす気ではいるが、たまには領地の発展のような安全な仕事をしても良いだろう。


 俺とシャディムの会話に区切りがついても魔王たちの会話は続いていた。しかし真面目に会議をしているわけではないようだ。親友だというナスターシャとようやく会話できるようになったからだろう。二人で楽しく雑談している。一方のヴァミリスは無関心に眺めているようだが、その眼差しは優しさをたたえているような気がする。


「まあ、今日はここまでとしておきましょうか。あなたも今日はお疲れ、ではないか。戦ってはいませんからね。魔王様のお側にいたので良しとはしますが……」


「確かに俺は戦ってはないけど、聞いた話だとそれはお前も同じだろ?ゴーレムはナスターシャが一人でやったって……」


「私はアリシエルを警戒していましたからね。逃げたと見せかけて不意打ちを仕掛ける。ありそうな話です」


「その警戒ってのはもう良いのか?別にとどめを刺したわけじゃないんだろ?」


「仕掛けてくるのであれば先ほどの混乱の中でしょう。いくら元四人衆でも正面からは分が悪すぎますからね。彼女は逃げに徹したようです」


 内通者と外からの脅威。いずれもひとまずは凌いだと考えて良いらしい。そもそもの話、アリシエルのことを知っている魔王たちが呑気にしている時点で俺が気にするまでもなかったのだろう。


 勇者パーティの到着に先駆けての人間たちの強襲。そして新型のゴーレム。不安はますます募っていくが、今は目の前の問題に集中しよう。次の俺の仕事は間もなく魔王城に到着するという勇者たちとの交渉。俺を裏切ったアルティミシアの人間との交渉は不安だが、俺と同じ異世界人である倉宮の考えは未だに不明だ。魔族に対する恨みは比較的少ないはずなので話し合いの余地はあると思いたいものだが……。




 翌日も朝から魔王に呼び出された。昨日の一件と勇者の件、そしてシャディムと話したことについてだ。


「田所、昨日は恥ずかしいところを見せてしまったな」


「いや、気にしてないさ。誰だって弱気になることはある。直前にアリシエルのこともあったしな」


「そうか、礼を言うぞ。だが私も魔王だ。もう弱さを見せはしない。強い王として皆を率いることを約束しよう。そう、先代のようにな……」


 シャディムの説教のおかげか、親友であるナスターシャと会話できるようになったためかは不明だが、魔王も少し成長してくれたようだ。あるいはアリシエルという肩の荷が下りたおかげなのかもしれない。


「本題だが、シャディムから話は聞いたぞ。今のところ私たちに領地という概念はないが、まあ仮に魔王領としておこう。魔王領を発展させ、より人間と近い文明を築く。人間に魔族を理解してもらうにも、我らのことを人間に知ってもらうにも良い案だ。指揮や助言はお前に任せても良いのだな?」


「もちろんだ。むしろようやく俺にしかできない仕事ができて安心してるくらいさ」


「うむ、よろしく頼むぞ。それでだな、早速なのだが今日から着手してくれないか?魔王領の開発に」


「は?」


 昨日の今日で一体何を言っているのか。ただでさえ魔王城自体に昨日の攻撃の被害が残っているのだ。そんなことをしている余裕はないだろう。


「フッ、驚いているようだな。気持ちはわかるが、だからこそなのだ。城の修理にも材料や人材を必要とする。同じ業務が必要なのであればまとめてしまった方が少しはやりやすいというものだ」


 驚かされはしたが魔王の言うことにも一理あるかもしれない。追加でマメに人や物を用意するよりは一括でできた方が楽で効率的なのは確かだ。前世でも送料をケチって通販で買い物しすぎてしまったのを思い出す。


「理屈はわかった。けど大丈夫か?俺は建築なんかできないぞ? 」


「ああ、それについては考えがある。人間の協力者も多少は募る予定だ。お前は全体指揮と立ち合いをしてくれればいい。……ああ、それともう一つ伝えることがあった。勇者たちとの交渉の件だ」


 こうして異常に急ピッチで大仕事がたて続けに増えてしまった。不満はなくとも懸念は拭えない。さらに続く魔王の言葉で俺の懸念はさらに増えるのだった。

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