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新型と備え

 危機的状況からか、ネガティブになってしまった魔王。彼女と話すことに気を取られてる内に敵の白いゴーレムが城内にまで侵入していたようだ。相手は四人衆たちに匹敵するほどの魔力を持つらしいゴーレムたち。負ける可能性は考慮していたつもりだが、あまりの早さに驚きを隠せない。外ではヴァミリスやシャディムが戦闘に備えていたはずだ。あの二人すらものの数分で倒されてしまったとは考えたくはない。


 敵であるゴーレムは扉を開けた目と鼻の前にいる。驚いてとっさに反応できなかったが固まっている場合ではない。急いで剣の柄に手を伸ばすが、少し違和感を覚える。ゴーレムから攻撃する気配を感じないからだ。この短時間で魔王城を攻め落としたゴーレムにしてはあまりにも反応速度が遅すぎる。


「待て、田所!攻撃するな!そいつはもしかして・・・」




 ナスターシャと部下のワイバーンが無謀にも特攻していく。遠距離攻撃の手段を持った相手への攻撃としてはあまりに頼りない。今のうちに地上からも攻撃を仕掛けるべきなのだろうが、まだ準備が出来ていない。魔族は人間と比べて、体格や身体能力の差が大きい。しっかりと打ち合わせしなければ接近に時間差が生まれ、各個撃破されるだけなのだ。だから今は相手の実力を見極めるのが最優先だろう。


 敵軍の上を取ると思われたワイバーンは戦闘が始まる直前に反転し、こちらに帰還しようとしているようだ。接近前との違いはただ一つ、ナスターシャだ。まるで不用品を投げ捨てるかのように四人衆の一人であるナスターシャを投下した。ナスターシャの冷静な様子を見るにこれが打ち合わせ通りなのだろう。


 曲線を描きながらゴーレムたちの元に落下していく人形。指揮を執っているであろう人間たちもあれが何か、正確には視認できてないだろう。それでも攻撃であると判断し、ゴーレムからの攻撃が始まった。それなりの高さから落下したナスターシャは既にかなりの速度で落下していた。ゴーレムたちお得意の光線攻撃でもそれを打ち落とすのは困難であるらしく、攻撃がナスターシャに対してまともに当たることはなかった。


 ただし三発、ナスターシャを捉えた攻撃もあった。しかし彼女は空中で錐揉み回転しているにもかかわらず、攻撃を腕で受け止めることで致命傷を回避した様子だ。尋常ならざる反応速度と正確な魔力による防御がなくてはできない離れ業だ。それでも彼女が生還することはあり得ない。落下先が敵地である以前に、着地の衝撃で破壊されることだろう。その前に何かしらの魔法を使うのだと思っていたが、その様子はない。防御以外に魔力を使おうという意思は全く感じられない。


 そしてナスターシャは硬い地面に落下し、粉々に砕けた。人形に宿っていた魔力の痕跡もない。普通の魔族が見ればそう感じただろう。俺の反射速度でもかろうじて認識できた程度の小さな違和感。そうだ。ナスターシャの魔力は落下の直前に消えていた。力尽きる前、彼女はすでにそこにはいなかったのだ。


 変化はすぐに訪れた。ゴーレムたちの内、三体が今までにない不自然な動きを始めた。無理やり動かされているようなぎこちない動きだ。これまでのゴーレムたちの動きとは明らかに違う。そしてそのゴーレムたちは仲間のはずのゴーレムたちに手のひらを向け始めた。それが意味するのは例の光線攻撃だ。


 同士討ちを始めた三体以外のゴーレムが次々と破壊されていく。正常なゴーレムたちは対応する術を持たないらしい。慌てふためいていた人間たちも早々に諦めて逃走したようだ。情報のために追いかけても良かったが、目先の脅威を放置して城から離れることはできない。


「待て、攻撃するな!」


 生き残った三体はゆっくりとこちらに向かってきている。何が起きたかわからない者が攻撃するのは当然のことではある。しかし一連の流れを見ていた俺だけは確信があった。あのゴーレムの中身は、あの魔力の持ち主は彼女に違いない。




「お前、もしかしてナスターシャか?」


 扉を開けた俺の目の前にいたのは、どう見ても魔王城を攻めてきた白いゴーレムの一体だ。少女風の人形だったナスターシャとは似ても似つかない。


「なに言ってるんだ魔王!早く戦わないと…」


「落ち着け、向こうは攻撃してこないではないか。それに魔力を見てみろ。こいつはどう見てもナスターシャだ」


 見てみろと言われても俺には判別できない。そもそも俺が魔力を見るには魔眼の魔法が必要で、誰の魔力も同じようにしか見えないのだ。これも人間と魔族の差なのかもしれない。


「魔王様、魔族でもそれは難しいですよ。それと敵の援軍はないようなのでご安心を」


 一応魔法で確認しようとしたが、その必要はなかったらしい。急に現れたシャディムの話ではこれ以上戦う必要も、実行する気はなかったが魔王を手に掛ける必要もなくなったようだ。


「見張りに指示を出したらヴァミリスも来ますので、今後の相談をしましょう。あなたもそれでいいですね、ナスターシャ」


 白いゴーレムは油が切れたようなぎこちない動きで首を縦に振っている。本当にあれはナスターシャだったようだ。このような流れで俺も会議に巻き込まれることになってしまった。




「えっと、じゃあ、敵のゴーレムをハッキングして体を奪ったってことか?同時に三体も?」


「ハッキングとやらはよくわからんが、そういうことだ。たった三体で他のゴーレムを全て破壊していた。人間どもは逃がしてしまったがな」


 戦闘前にヴァミリスが言っていたことを思い出す。いわく、ナスターシャも四人衆の一人なのだと。実際に彼女は剣は扱えずともたった一人で劣勢を覆すだけの能力を持っていたということだ。


「そうか。よくやったな、ナスターシャ。それによく、無事に帰ってきてくれた。いや、前の体は壊れたんだったな。無事というのは不適切だったか?」


「お気に、なさらず。・・・魔王様」


「は?・・・おまっ、今喋ったか!?」


 動きと同様にぎこちなくはあるが、ナスターシャが声を発した。その場の全員が驚愕する中で、真っ先にらしくない驚き方をしたのは魔王だった。俺も驚きはしたがゴーレムは前の世界でいう、機械のようなものだ。スピーカーのようなパーツがあれば喋るくらいはできるだろう。前世でも配膳ロボにわざわざ声が付いていたのを思い出す。


「これは少し驚きましたね。人間たちがわざわざゴーレムに会話できる能力を持たせたということでしょうか」


「会話ってよりは、伝令のための機能なんじゃないか?疲れのないゴーレムが連絡役をできれば、人間は結構ラクできるってことだと思う」


「なるほどな。戦闘以外にも用途があったわけか。一度、何ができるか調べてみても良いかもな」


 魔王以外の二人はさすがの呑み込みの早さだ。同じ条件だったら俺の方が衝撃を受けていたかもしれない。それにしても魔王は未だに騒がしいままだ。驚いているというよりは喜びで浮かれている様子ではある。長年側にいた友人とやっと会話ができたのだ。気持ちは汲んでやりたいが、今は会議を進めてもらおう。


「ああ、うむ。待たせたな。それでは今回の人間たちの攻撃についてだな。ナスターシャの活躍で何とか撃退できたが問題は多い。まずは、次にあのゴーレムたちと戦闘になった場合か。ナスターシャ以外に戦いようはあるか?」


「遠距離から魔法で攻撃できる者と敵の攻撃を防ぐ者。上手く連携が取れれば今回程度の規模なら何とかなるかもしれませんね。普通に攻撃が通用すればの話ですが・・・」


 これまでゴーレムと戦ってきた俺には、シャディムの心配もよくわかる。マジックゴーレムはいずれも高い耐久性能を持っていたからだ。半端な傷はすぐに治ってしまう。心臓ともいえる核、あるいは搭乗者を狙わなくては攻撃も意味をなさない。


「破壊された白いゴーレムの残骸を回収させています。あれを調べて対策を練りましょう」


「よくやった、ヴァミリス。ゴーレムのことがわかるまでは、ナスターシャに魔王城の守りを担当してもらうことになるか」


 ナスターシャ自身はこれまで同様、こくりと頷いている。会話できるようになっても口数は多くないようだ。


「今はそれしかないけど、対策は急いだ方が良いかもな。あっちも痛い目見た以上、ナスターシャ対策を考えてるだろうからな」


 人間の強みは道具を扱えること。そして応用を効かせることだ。同じ手段がいつまでも通用するとは思わない方が良いだろう。規模のわからない相手とこのままイタチごっこをするのも不安しかない。全面的に争わずとも、なんとかして落としどころを見つけられると良いのだが。


「そうだな。それにまだ相手の正体もわからん。直接敵の拠点を叩くこともできん。今は守りを固めることしかできないか。さて、次はアリシエルの件か。戦力の低下は致し方ないとして、守りが手薄になるのが問題か」


「えっと、元々アリシエルは何をしてたんだ?確かさっき、海がどうって…」


「彼女は近くの海を支配していたんです。だからエルフたちの一件でも彼女が真っ先に疑われました。人間たちが仮に海から来たのであれば、彼女は何か知っている可能性があるとね」


 結果としてアリシエルは本当に人間たちと通じていた。それがなければ今回の攻撃やエルフたちの一件もなかったかもしれない。


「そういえばアリシエルはどこまで知ってたんだ?話の内容からエルフの件はアイツの仕業だとして、魔王城への攻撃も手引きしてたのか?」


「その可能性が高いですね。魔王様との会話が時間稼ぎだとして、魔王城への攻撃に便乗して逃げる算段だったのでしょう。つまり、エルフの件で戦った人間たちも白いゴーレムの一団と共犯だった可能性もありますね」


 シャディムの言うことが正しければエルフの集落が攻撃された理由もより、納得できる。魔王城近くを占拠できれば城攻略の前線基地になるだけでなく、魔王たちの逃げる先を減らすことにもなるからだ。東から白いゴーレムで攻め立て、西の逃げ道を塞ぐ。俺やシャディム達がいなければ人間たちの思うつぼだったかもしれない。


「ん?だとしたら、今後は海からゴーレムを持った人間たちが侵入し放題ってことになるのか!?」


 海から来たと思われる人間とゴーレム。そして海を防衛していた四人衆の裏切り。今後はエルフの集落の時のように、魔王城が攻撃されることが可能なのではないだろうか。


「まあ、海の縄張りも一枚岩ではない。それこそ地上と一緒で厄介な魔物もいるからな。アリシエルが直接支援でもしなければ、人間にとって楽な道のりではないだろう。立地の問題もあるからな。時間はそれなりに必要にはなるはずだ」


 前に聞いた話だと、魔王城の周りは道が続いていなかったはずだ。勇者一行の使っている東の陸路。西の森に北の山岳地帯。海が近いのは南だけだ。近くにある大国は海を挟んで南西のアルティミシアだけなので、他の勢力が海から攻めるのであれば北西から回り込む必要がある。魔王の言うことも一理あるようだ。


「あとの問題は、勇者たちか。おそらく到着まで一週間も残ってはいまい。可能であれば交渉で済ませたいところだが・・・」


 魔王が俺を一瞥した気がする。勇者たちと面識のある人間に同席してほしいが、グレイスに刺されたことのある俺には頼みにくい、といったところだろうか。


「魔王、迷惑じゃなければ俺も同席するよ。人間の俺がいた方が話が早いだろうしさ」


 交渉は利益と損失だけの話ではない。相手への信頼や親近感があるだけで難易度が大きく変わる場合も少なくないのだ。営業では真っ先に相手との共通点を探すことがあるくらいには重要なポイントの一つだ。


「魔王様!お待ちください。いきなり勇者たちと会うのは危険です。まずは田所さんだけで交渉してもらいましょう」


「俺に丸投げする気か、お前!戦いになったら俺一人じゃ勝ち目ゼロだぞ。せめて四人衆一人くらいはいてもらわないと」


「今はみな、手が空いていないですからね。それに最善は戦わないことです。こちらが無力な方が話し合いの場を設けやすいでしょう」


 どことなく楽しそうなシャディムに少し腹が立つが、言っていることはあながち間違ってはいない。俺には交渉の妥協点がわからないので打合せをしておくか、同行者が必要にはなるが悪い案ではないかもしれない。


「シャディム、私は田所も失いたくはない。他にやりようがだな・・・」


「いや、魔王。それで良いよ。仮に人間の俺でも構わず攻撃するようなら、交渉の余地はなさそうだからな。魔法を準備しておけば時間稼ぎぐらいにはなるだろうから、ピンチになったら助けてくれよ」


 眉間に皺を寄せて唸る魔王。付き合いの長いらしいシャディムと、俺本人が良いと言ってるんだから気にしなくて良いと思うのだが。結局、しばらく二対一で押し問答をした後に魔王が折れることになった。不安もあるがこれは俺が担うべき役割だ。こうして約一週間後、あの勇者パーティと再会することが決まったのだった。

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