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過去とこれから

 魔王から想定外の提案を受けたあと、俺はどこへ行くでもなく魔王城を見て回っていた。俺が新しい魔王になる。その提案を受けるかは置いておくとして、あの魔王の治める現在の魔王城を改めて見ておきたくなったのだ。


 自室以外で俺にとって重要なのは、やはり訓練所だろう。この魔王城に来てからほぼ毎日通っていると言っても過言ではない。まだまだ鍛える必要があるということでもあるが、白蛇や魔王たちのことを思えば訓練も苦ではない。


 訓練所の扉を開くと、室内から湿気と熱気が噴き出てくる。現在、様々な種族の魔族たちが黙々と鍛錬に励んでいるためだ。俺がここに来た頃と比べると利用者が増えてきているようだ。俺がヴァミリスに鍛えてもらったのを知って、彼女を慕う者たちが利用しているのだろう。かくいう俺もヴァミリスから話を聞きたくてここに足を運んだのかもしれない。


「失礼、そこの人間の方。もしかして田所さん、でしょうか?」


 訓練中の多様な魔族たちの中から、落ち着いた男性の声が投げかけられる。そこに居たのは二足歩行する巨大なトカゲだ。いや、長い口を見るにワニの方が近いかもしれない。 俺の一回り以上はあると思われる大きさと、鋭い歯を見ると恐竜にも思えてくる。しかし、身に着けた胸当てや巨大な剣が、彼がただの恐竜やトカゲではないことを示している。


「そうだけど、どなたでしだっけ?」


「急にすみません。私はガリムといいます。ヴァミリス様の部下のようなものです」


 思った通り、初対面で合っていたようだ。部下のようなもの、というのがしっくりこないが、おそらくは魔族たちの上下関係がはっきりしていないためだろう。人間の社会と違い、トップである魔王と四人衆以外の関係は曖昧なようだ。


「以前からお話を聞いていて、一度お会いしてみたかったんですよ」


「話って、まさかヴァミリスが?」


 彼女とは長い付き合いではないが、あまり無駄話をするタイプではない。それに魔族たちが食いつくような話題となると、俺がヴァミリスに勝ったことくらいな気がする。まさか、そんな話を自分からはしないだろう。


「いえ、本人ではなく白蛇さんやコーネリアさんが食堂で話していましたよ」


 女性が話し好きなのは、この世界でも魔族でも変化はないようだ。ヴァミリスには自慢できるような勝ち方をしたわけでないのだが、変に尾ひれがついたりしていなければよしとするべきなのだろうか。


「人間の身でヴァミリス様に勝利するとは・・・。一体どのような修行を?最近の人間はみな、強いのでしょうか!?もしかして四人衆を目指したりしているのですか!?一体どのような経緯でここに・・・」


「わかった!わかったから落ち着いて!」


 ガリムと名乗る魔族の外見は人間からかけ離れている。しかし、内面からは人間性、というか性格が滲み出ている。その熱量を見るに、もしかして俺のことは城内で話題になっているのだろうか。思い返すと俺は特定の魔族以外とはほとんど会話をしていない。そのため、ヴァミリスの一件で関心を集めたことを知らなかったのだろう。人間が珍しいことも注目された一因かもしれない。


 さらに彼だけが特例という訳でもないようだ。よく見てみると、訓練中の他の魔族たちもこちらを気にしている。いつまでも注目されたままなのも落ち着かないし、俺の方からも聞いてみたいことがある。たまにはのんびり雑談するのも悪くはないだろう。


 その後、約一時間ほど質問攻めにされてしまった。ここに来た経緯を話す過程で勇者だったことを話してしまったのが失敗だった。特に珍しい人種であることでガリムだけでなく、周囲の魔族たちからも余計な関心を集めてしまったようだ。訓練中の魔族たちも聞き耳を立てているようだ。人間離れした外見からは想像できなかったが、彼らはミーハーと呼んでも差し支えないのかもしれない。あるいは、周囲に平原しかない魔王城の立地が彼らをそうさせているのだろうか。


 時間をかけた甲斐あって、ガリムとはある程度打ち解けられた気がする。俺からも質問をしてみよう。当然、魔王についてだ。俺が魔王になったらどう思うか、なんてことは質問できない。正気を疑われるだろうし、何より口外しないようにと釘を刺されているからだ。


「えっと、そろそろ俺からも質問してもいいか?」


「おお、気が付けば私ばかり、大変失礼しました!もちろん構いません」


「それじゃあ、俺が言うのもなんだけど、元勇者の俺を普通に受け入れて大丈夫なのか?仮にも魔王を倒すために呼ばれたんだけど・・・」


 いきなり魔王のことを尋ねるよりは順を追っていった方があちらも話しやすいだろう。それに勇者はもう一人存在している。倉宮たちのことを魔族たちがどう考えているかを知っておいてもいいだろう。


「そうですね。実際に魔王様を討った相手であれば、恨みもするかもしれません。しかし、田所さんのことはもう仲間だと聞いております。前の立場なんて気にはしませんよ」


 少なくともはガリムは本当に気にしていないようだ。それが魔族たちの総意ではないだろうが、敵意がないようで安心した。現在、勇者と呼ばれている倉宮についてはわからなかったが、俺の聞き方のせいでもあるので仕方がない。そもそも俺の他に勇者が存在するということ自体が知られていないのだろうか。


 思い返せばテレーノは俺が勇者であると知って驚愕していた。未だ人間たちの領地に居るはずの勇者が目の前にいて驚いたのだろう。仮に勇者が二人いると知っていた場合は、俺が行方をくらませた方の勇者だと納得したかもしれない。そう考えると、黒づくめに俺のハッタリが通用したのが不思議ではあるが、相手にも撤退を選ぶべき事情があったのかもしれない。


 ついでに、というか元々の目的である魔王のことについても話を聞いておく。この話の流れであれば余計な詮索もされないだろう。


「魔王様、ですか。そうですね、先代から急に代替わりしましたので、最初は不安がっている者が多かったです。今では私含め、皆が認める存在です」


「急な代替わりって、何かあったのか?」


「ええ、百年ほど前のことなので人間たちはあまり覚えてないかもしれませんが、討たれてしまったんですよ。当時の、人間の勇者に・・・」


 先代魔王は勇者に命を奪われたらしい。仮に魔王が世襲制だとすれば、現魔王は勇者に親を殺害されたということだ。その魔王は一体何を思って人間と手を取り合おうとしているのか。どんな気持ちで俺を拾ってくれたのだろう。


 これまで俺は、魔王のことを何も知らなかった。ここで生活するようになって魔族のことを少しは知ったつもりになっていた。もっと魔王城で話を聞いて魔王のことを知りたい。俺の今後を決めるためだけではない。俺は未だにこの世界と魔族の関係を知らなすぎる。


 俺は魔王が誰であろうと、人間と魔族の争いを止めたい。魔王のことをもっとよく知らなければ、誰が最適なのかも判断できないだろう。だが、結果として誰が魔王になろうとも、俺は俺のやるべきことをするつもりではある。


 より多くの相手に魔王の話を聞きたいが、できることなら優先的に事情通を見つけるべき良いだろう。確か、四人衆の半数は先代の時代から変わっていなかったはずだ。具体的にはシャディムと、確かアリシエルという名前だったと思う。二人にも話を聞いてみたかったが、シャディムは外出しているらしい。アリシエルとはまだ殆ど会話をしたことがなく、踏み込んだ話は少し難しい。


 俺はもう一人の候補の元に向かうことを決め、ガリムに挨拶をして訓練所を後にする。彼、と呼んでいいのかは疑問だが、あの人も長年魔王城に居そうなので事情には詳しいような気がする。




 次に俺は書庫に訪れた。ここも訓練所に次ぐ程度には通っているような気がする。ここで話を聞ける相手は少ないが、大量の本の知識を持つ司書さんなら魔王の事情にも明るいのではないだろうか。


「司書さん、今ちょっと良い?」


「おや、田所さんですか。今日は来客が多いですね~」


 司書さんは定位置の目立たない場所、ではなく机の側の椅子に腰かけていた。彼自身は筋肉が疲労することはないと思われるので、先客が座っていたのに付き合っていたのだろう。


 それにしても俺以外がここに来るのは珍しい。一度、付き添いで一緒に来てもらった白蛇以外にはここへの来客を見た覚えがない。


「へぇ~、誰が居たんだ?」


「・・・魔王様ですよ。少し相談したいことがあったそうでして」


 内容は秘密ですよ、と言いながら司書さんはカタカタと笑っている。答えるまでの微妙な間は、どこまで話して良いかの試案だろう。俺にとってのヴァミリスのように、魔王も誰かに意見を聞きたいと思い、ここを選んだのだろうか。シャディムあたりも相談役に適してそうなイメージがあるが、彼が外出しているために司書さんを選んだのかもしれない。


「実は俺も司書さんに聞きたいことがあって、少し良いかな?」


「ええ、もちろんですよ。時間はたっぷりありますからね」


 骨だから寿命がないことを言っているのだろうかとか、それは冗談のつもりなのか、魔王は何を相談したのだろうかなど、いろいろと考えてしまうが俺の方はあまり時間がない。明日の夜までには考えをまとめる必要があるのだ。雑談もほどほどに、先代からの魔王の世代交代について質問をする。


「ああ、あの時は大変でしたね~。魔王様もまだお若かったですし・・・」


 都合よく現魔王の話題に移ってくれる。もしかしたら、先ほどの魔王の相談も関係していたのかもしれない。少なくとも俺の予想通り、司書さんは当時の魔王城を知っているようでなによりだ。


「先代が勇者に討たれてしまったって、聞いたんだけど、魔王は俺や人間についてどう思ってるんだろ?」


「魔王様の掲げる人間との和平は嘘偽りない、と思います。あなたを拾ったのも、まあ打算もあると思いますが、確かに善意もあったのではないでしょうか」


 ここまでの話は俺の認識と相違ない。俺を助けたことに見返りを求めているという部分に関しても、個人的には何も思わない。それどころか元会社員の性であろうか、利益が互いにある方が善意を受け入れやすい気持ちすらある。無料で多大な施しをもらってしまうと、裏があるのではないかと疑ってしまうような感覚だ。それが互いに利益があれば、変に疑わずに親切を受け入れられる。


「先代、お父上のこともすぐに受け入れたようです。むしろ、家族を失ったからこそ平和を望んでいるのではないでしょう」


 やはり先代魔王は魔王の血縁、父親だった。そして、その悲しみを原動力としているのであれば平和を望むのも理解はできる。だからこそ、なぜその魔王が俺に魔王を任せようと思ったのだろうか。


「それで、元勇者の俺なんかを拾って魔王は何をさせたいんだ?」


 最初に魔王の考えはある程度説明されたが、改めて司書さんの考えを聞いてみたい。


「そうですね。まあ、最近の魔王様は少し焦っているような気もします。勇者が召喚されたと知って焦っているのでしょうか」


 もう一人の勇者、倉宮。彼女は俺とは比較にならない戦闘力を持っているため、警戒するのも理解できる。それとも人間側が最大戦力を投入してきた状況に対しての焦りなのかもしれない。


「それなら、同じ人間で勇者だった俺には、もっと、できることがあるんじゃないかと思ってさ」


 俺の質問を受けて、初めて司書さんが言い淀んだ気がした。表情が存在しないので内心まではうかがえないが、彼もすでに魔王の考えを知っているのではないだろうか。


「それが、田所さんの決めたことなら、私は今まで通り応援しますよ。しかし、ある強者が指示されまま戦い抜いて、最後には後悔しか残らなかった。昔の人間の方の話だそうです。あなたにそうなってほしくはないですよ、私は。そして、きっと魔王様も・・・」


 司書さんの話からは今までにないほどの重さを感じた。もしかしたら、本当は彼の身近な人物の話なのかもしれない。それこそ先代魔王の代の四人衆のことだったりするのだろうか。その人物の詳細が少し気にはなるが、彼が又聞きしたというスタンスである以上、そうもいかない。


「ありがとう、司書さん。参考になったよ」


「いえいえ、また気軽に遊びに来てくださいね~。誰も来なくて暇ですから」


 いつも通りの様子の司書さんに見送られて書庫を後にした。まだ二人にしか話を聞けてはいないが、俺が最も知りたかった話は聞けたような気がする。優先的にjここに来て正解だったようだ。それでもまだ、答えを出すまでには時間がある。訓練に支障のない範囲で、もう少し魔王についての印象くらいは聞いてみようと思う。

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