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真意と魔道具

「シャディム様、狼煙です!集落が襲われています!!」


 最初に異変に気が付いたのは避難民のエルフの一人、テレーノだった。普段から自主的に警戒しているだけのことはあるようだ。


「不味いですね。痕跡の調査はお任せしましょう。私は先に戻ります」


「しかし、こちらの戦力が・・・」


「拠点を潰されれば、私たちだけ生き残っても意味はないです。それに、本命は向こうで間違いありません」


 シャディムは私に取り合わず、テレーノに指示書を渡してから飛んで行ってしまった。徒歩以外の移動手段がないと聞いていたが、やはり嘘であったようだ。しかし、彼が行ったところでどうしようもない。エルフと共に一掃できて都合が良いと考えることさえできるだろう。


 シャディムもエルフ達も魔王様でさえも、まるで理解できていないのだ。とっくに人間と魔物たちの力関係は逆転していることを。今さら抗ったところで何が出来よう。


「では、最低限の調査をしたら、私たちも引き返しましょう」


「そうですね。私たちエルフの未来のために、できることをしなくては」


 たとえそれが、同胞や魔王様を裏切ることになったとしても・・・。




 戦闘が始まって、体感三十分ほどだろうか。ゴーレムたちの怪力と耐久力の前に、一人また一人とエルフたちが倒れていった。それに対してゴーレムは三体とも健在だ。俺は前回の戦いのおかげでゴーレムの挙動が少しはわかる。そうでなければとっくにやられていただろう。しかし、ゴーレムたちも決定的な攻撃を許してはくれない。せっかく魔王から魔法の武器を預かったのに、これでは前回と同じではないか。そのうえ、今回のゴーレムについて理解できないことが二つある。


 一つはゴーレムの動力源。前回は足場や周りの岩が多少なりとも補給源となっていると思われていた。だが、今回は思い当たるものが何もない。永久機関でも完成したのかとも思ったが、そもそものエルフが狙われている理由が魔力らしい。わざわざ遠くまで来てエルフたちを捕らえている以上、人間にとって魔力は貴重なもので間違いないはずだ。


 もう一つは行動パターンの複雑化だ。前回戦ったゴーレムは、明らかに行動がパターン化されていた。基本は殴り、必要であれば腕を炸裂させ、自己修復を行う。それだけだったはずなのだ。しかし、あの一件から一週間程度で連携がこなせるほど複雑な行動ができるようになっている。前回のものが型落ち、いわゆる劣った個体だったとも考えられるが、必死に対策を考えていた身としては、あまりそうは思いたくはない。


 狼煙を上げてからそれなりの時間が経ってはいる。シャディム達がすぐに気が付いていれば、あと十数分ほどで増援が来る、と思いたい。しかし、普通のエルフが増えたところで、ゴーレムが倒せなければ事態は好転しない。シャディムが来たとしても、このマジックゴーレムに勝てるかは、正直わからない。可能であれば頼みの綱のシャディムが来る前に、弱点の一つくらいは見つけたいところだが…。


「来た!シャディム様だ!」


 想定していたより早いが、ちょうど来てくれたようだ。しかし、どこにもいない。よく見るとゴーレムたちの背後に影が増えている。見上げるとそこには、蝙蝠のような羽を持ったシャディムが降りて来ていた。コイツ本当に悪魔だったようだ。羽があるとは知らなかったが、飛べるか聞いたわけでもないので、わざと黙っていたのだろう。まだ数日しか一緒にいないが、そういう男なのだ。


「・・・お待たせしました。離れていてください」


 言い終わるより早く、シャディムの周りに変化が起きる。これは先ほど掛けなおした魔眼の魔法の効果だ。シャディムは魔力を集めて何かをしようとしているらしい。ゴーレムたちも増援に気が付いたようで、振り向いてシャディムの方を向いたり、身構えたりしている。その動作に何か違和感を感じたが、それは直後に吹き飛ばされた。


 ゴーレムたちが吹き飛ばされる。前回も似たような光景を目にしたが、今回は三体まとめてだ。いずれも着地などできずに空を眺めさせられている。四人衆である以上、シャディムも俺よりも強いと思ってはいたが驚きを隠せない。


「田所さん!核は!?」


「・・・え、いや、わからない!連携して守ってくる!一体も倒せてないんだ」


「わかりました。あなたは頭を!」


 驚きで一瞬遅れたが、一番近いゴーレムにとどめを刺しにいく。魔力の宿った、この剣であればやれるかもしれない。幸いゴーレムは、まだ立ち直れていない。いきなり吹き飛ばされて状況が飲み込めてないのだろう。


 両手で剣を握り、体重も乗せて頭部を貫く。確かな手応えを感じる。だが、この感触は散々破壊してきた手足と違いがないような気がしてならない。それでもシャディムは別の弱点候補である、胴体を破壊しているはずだ。少なくとも弱点の場所を知ることはできる。


「胴体です!胸の中心を狙ってください!」


 あちらが正解だったようだ。一体だけとはいえ、ようやくゴーレムを倒せた喜びがスキを生んでしまった。それは一秒にも満たない時間だった。シャディムから視線を戻そうとした俺の視界には灰色の塊しか映らなかった。きっとゴーレムの腕だ。


 今度は俺が天を仰いでいる。左腕と胴体にかつてないほどの痛みを感じるが、致命傷ではないようだ。もしかしたら、ゴーレムの頭部が破壊されたことで視界を封じていたおかげかもしれない。少し休めば戦えそうだ。弱点がわかった以上、その必要もないかもしれないが。


 今はエルフたちの動く気配を感じる。俺とシャディムのやり取りを聞いて、攻撃に移っているようだ。よく見ると、汗だくのアルトやテレーノ達も走ってきている。その内の数名は魔法による治療を始めているようだ。無傷のシャディムもいるし、この場は勝利したと思って問題ないだろう。


 アルトが背後からシャディムに駆け寄っていく。その手には大事そうに何かが握られていた。吹き飛ばされた直後でまだ視界が安定しないが、魔力を持つ物体であれば魔眼の魔法の効果で認識できる。つまり、あれは魔道具なのだろう。アルトはそれを持ってシャディムの何の用だろうか。


 俺の疑問を置き去りにして、状況が動いた。アルトの手を誰かの矢が貫いたのだ。普段は狩猟の道具にしている弓矢を同族に使うとは。余程のことが起きたに違いない。同族の身を案じていたはずのアルトとエルフたちの間に何が起きたのだろう。




 集落に戻る前のシャディム様から渡された指示書には、驚くべき内容が記されていた。


『アルトさんには裏切りの可能性があります。私がスキを見せるので、何か起きる前にあなたが止めてください。』


 ありえない。アルトは出身こそ違えど、同じエルフだ。しかも、強大な力を持つ魔王様に敵対する必要性が理解できない。疑り深いシャディム様の杞憂のハズだ。そうでなくてはならない。もし本当に、裏切りを行う同族がいるのであれば、私は何を信じれば良いのだろうか。


 実際、シャディム様が居なくなってもアルトに不審な様子はない。私たちと同じように調査を急ぎ、少しでも早く、戦線に加わろうとしている。最初はそう思っていた。


 集落に戻ったアルトは負傷した仲間に見向きもせず、シャディム様の所在を尋ねて回っていた。そして、その手の中には見たこともない魔道具を隠すように持っている。同族を疑いたくはなかったが、あまりに不審だ。魔道具なんて珍しい物を持っているのも不思議だが、あれが戦闘用であるなら情報共有されていないはずが無い。シャディム様がどのようにしてアルトを疑い出したかはわからないが、確かに用心する必要はありそうだ。


 人間との戦闘に備えて携帯していた、狩猟用の弓矢。これを同族に向けるとは考えもしなかった。だが既に矢は放たれた。アルトが背後からシャディム様に魔道具を使うそぶりを見せたからだ。何故こんなことになったのか。疑念は消えないが、今シャディム様に何かあってはならない、ということだけは確かなはずだ。


 私の矢でアルトの魔道具は地に落ちた。手のひらに隠れるほどの小さな物体。アルトを問い詰めようと思った時、シャディム様に向かって何かが飛んできた。先ほど見たばかりの魔道具。今それを投げかけたのはアルトではない。シャディム様に破壊され、倒れているゴーレム。動きはなかったはずだが、確かにその場所から何かが飛んできた。


 見聞きしたことのない魔道具だが、その効果は絶大だった。並みの魔物とは比較にならないシャディム様の魔力。それがたちどころに流出している。信じられないが、あの小さな魔道具に吸収されているように見える。


 どんなに強力な魔物でも、魔力がなくては著しく弱体化する。多くの陸上生物が空気を必要とするように、魔力なくして魔物は存在できない。あの魔道具を使われたのが他の魔物であったなら、それだけで魔力不足で命を落としていただろう。


 そしてもう一つ、重要な事実がある。戦闘の跡を見るに、シャディム様以外に、ゴーレムを倒せる者はいない。シャディム様が無力化させられた今、我々に勝利はなくなった。

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