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エルフと強襲

 エルフの集落に到着して三日が経った。四日目の朝だが、今のところは全てが順調だといえる。人間たちの襲撃はなく、エルフたちともそれなりに上手くやれている。シャディムの言った通り、俺が魔王の部下であることが大きいようだ。それに、この集落が魔王城の近くにあるおかげかは定かではないが、人間に対する敵対感情がそれほど感じられない。魔王の方針はここにもしっかり伝わっているようだ。


 逆に言ってしまえば、魔王城から遠い集落のエルフたちは、今回の件も相まって人間に敵対感情を持っている者も少なくはない。その代表みたいなエルフが一人いる。


「田所、また見回りか?もうこの辺りは充分見ただろう」


 今、俺に絡んできているのは集落の守りを勝手に担当しているエルフ、テレーノとその仲間たちだ。彼女らは故郷を人間に襲撃されたため、人間である俺のことが気に食わないらしい。人間に対し友好的なエルフは元からここに住んでいる、一部の者だけだったのだ。


 彼女らも魔王のことは敬っているらしい。しかし、人間である俺への警戒心も捨てられないようだ。結果としてちょくちょく様子を見ては、声をかけてくる。見張っているから妙なことはするな、とでも言いたいのだろう。対する俺はできる限りはエルフたちと交友関係を築きたいので、彼女らに警戒されようとも集落を回らなくてはならない。


「テレーノ、何回も言ってるが俺は人間に裏切られたんだ。今更、魔王に敵対するようなことはしないって…」


「しかし、我々だって人間に攻撃されている身だ。お前の話をそのまま信用することはできない」


 テレーノとのやり取りはいつもこんな感じだ。魔王を信頼するなら、部下である俺のことも少しは信頼して欲しいのものだが、それはできないらしい。


「人間だっていろいろ居るんだ。俺は魔族と戦う気はない」


「そんなことを言って、家を見て回っては侵攻ルートを考えているのではないのか?せめて武器を誰かに預けるとかだな…」


 俺としても警戒を怠らない姿勢は必要だと思うので、彼女らの考えは理解できてしまう。だからこそ、いざという時のために剣を持ち歩いていることは認めてもらいたい。こんな感じで、彼女とはどこまで行っても平行線だ。


 ついでに、魔物と魔族の区分についてはエルフたちからは特に何も言われていない。そもそもが人間側の印象改善策なので、思うことはないのかもしれない。


「みなさん、見回りご苦労様です。お話ししたいことがあるので、少し良いですか?」


 声をかけてきたのは初日から世話になっている、アルトだ。代理のようなものらしいが、エルフたちのまとめ役をしている。そんな彼から何かしらの連絡事項があるようだ。


 エルフたちは外で会議をすることが多い。樹の中に住んでいる都合で大人数が集まれる場所がないのだろう。俺はエルフの避難民たちに警戒されているため、いつも会議を遠巻きに眺めるだけだ。必要なことはシャディム経由で知らされるため問題はないのだが、所在なさげではある。エルフたちと交友関係を築くのもだいぶ先のことに感じられてしまう。




 会議を終えたエルフたちの様子がいつもとは違う気がする。なんというか、珍しく活気が感じられるようだ。事態が好転する目処が立ったのかもしれない。


「お疲れ様です。見張りはもう良いですよ」


「エルフ達を見張ってなんかないって…。それで、何かあったのか?」


 シャディムの嫌味にも随分と慣れてしまったものだ。そんなことよりも、何があったのかが気になる。


「戦闘の痕跡が発見されました。人間が狩りでもしたのかもしれません。至急、周辺の調査をすることになりました」


 シャディムの考えた通り、人間たちは近くで息を潜めていたらしい。しかし、そんな痕跡から何が得られるものだろうか。そんな疑問をシャディムは看破したようだ。


「森の生活でエルフたちの右に出る者は居ませんよ。きっと些細な痕跡からでも、人間たちの拠点を見つけてくれることでしょう。問題はそのメンバーです」


「メンバーって、だからエルフ達だろ?」


「当然、彼らが中心ではあります。ただ、アルトさんに頼まれたので私も同行します。その間の守りはあなたに任せますよ」


 急に何を言い出すんだこいつは。俺は今回たった二人という少人数で来たのは、一騎当千の実力者であろうシャディムがいるからだと思っていた。それが集落から離れるとはどういうことだろうか。


「それはあれか?四人衆である自分と二人で来たんだから、お前も同程度の働きをしろ。とかいう嫌味のつもりか?」


「残念ですが、至って真面目に言っています。今回人間たちは、遠くの地でこれだけの被害を出しているのです。エルフだけでは勝てないと思うべきです」 


 それは理解できる。人間にとっては来るだけでも困難なはずの魔王領。そこで堂々と侵略行為に勤しむだけの戦力があるはずなのだ。少なくとも普通の魔族では太刀打ちできない何かがあるのだろう。


「だからこそ、お前が居るんじゃないのか?」


「はい。しかし、私も一人しかいません。そのためのあなたなんです。まあ、安心してください。あなたには時間を稼いでもらいたいだけです」


 元々は人間とエルフの問題だからと、連れ出したくせに何を言っているのか。そう言いたい気持ちは多分にあるが、こんな状況なのだから仕方がないだろう。だが、俺は何故かこの悪魔は、ここまで想定していたのではないかと思ってしまっていた。


「はぁ…。わかったよ。お前たちが帰るまで、時間を稼ぐ。これで良いんだな?」


「はい。きっと、近いうちに魔王城に帰れますから。よろしくお願いしますよ」


 シャディムが何やら意味深なことを言っている。こんなんだから、守りを俺に丸投げしているのも意図的なものかと勘繰ってしまう。


 そして、翌日。シャディムとアルト率いる、エルフ達は人間の追跡に出た。追跡と言っても、戦闘になる前提だ。シャディム以外の全員が覚悟を決めている。テレーノなんかはいつもの俺に対する文句もなく、やる気が目に見えるようですらある。こうして長い一日が始まってしまった。




 自発的に防衛に燃えていたテレーノ達と、戦力の中心だったはずのシャディムが集落を出発して数時間が経過した。残ったエルフは魔王に影響された友好的な者が多いため、居心地はそれほど悪くはない。それでも戦力についての不安は拭えなかった。


 突如、遠くの方から悲鳴が聞こえてくる。まさかとは思ったが、早速来てしまったようだ。あまりにもこちらにとって、都合が悪いのが気になるがこうなった以上はやるしかない。


 この世界に通信手段はないらしい。非常時を知らせる手段といえば狼煙くらいのものだ。普段は蓋をしているが、比較的大きい樹の家は上部に穴が開けてある。これのおかげで森に火を広げずに狼煙を使うことができるようにしてあるのだ。開閉式の煙突のような感じだろうか?もっとも、この辺りの集落が大規模な攻撃を受けることはないようで、俺が火をつけた場所からは使用感をまるで感じられなかった。


 避難誘導は非戦闘員でもできる。曲がりなりにも戦闘ができる俺がやるべきことは時間を稼ぐことだ。なんだか、いつも時間を稼いでいるような気がしてくるが、それが最善だと思われるので仕方がない。戦力の要であるシャディム達が帰るまでの辛抱だ。


 避難するエルフ達に逆行した先に、それはいた。やはりというべきか人間が七、八人。そして魔力の輝きを宿した巨大な無機物。間違いなくマジックゴーレムだ。それが三体。既に本格的な戦闘が始まっている。残念ながら、ここから話し合う余地はないだろう。


 前回のことを思い出し、頭数にたじろいでしまいそうになるが、そうもいかない。人間の方はエルフ達の魔法攻撃の対処で手一杯のようなので、俺は必然的にゴーレムの相手をすることになる。ここで戦力になれなければシャディムに何を言われるか、わかったものではない。なにより、俺に魔法の剣を用意してくれた魔王に申し訳が立たない。


 ゴーレムに挑む前に、移動中に準備していた魔法を発動させる。この三日間で習得した、魔眼の魔法だ。魔力によって硬度の上がった相手にはこれが効果的だ。魔法は問題なく発動し、視界の情報が増える。魔王城での試した時とは違いがあるが、おそらくはゴーレムが無生物ゆえに魔族とは異なる性質があるためだろう。試しに倒れているエルフを見てみるが、魔力の反応は少しも感じられない。既に事切れているようだ。もっと早く来れていれば、なんてことを悔やんでいる暇もない。


「はぁっ!!」


 勢いを殺さず、背後からゴーレムの膝に斬りかかる。ゴーレムにも生物と同じく、動くための構造が存在しているのでそれを狙う。そもそもが重い岩の塊なのだ。少しでも脚を破壊できれば、動きを止めれるかもしれない。


 右膝に不意打ちを喰らったゴーレムはその重量を支えられずに崩れ落ちる。魔法の剣のおかげで攻撃は通じている。問題はここから先だ。俺の知っているマジックゴーレムと目の前の個体は同じものなのか。


 ゴーレムはすぐには立ち上がれない様子だ。しかし、前回と同じ行動パターンなら、まだ油断はできない。例のゴーレムは、下手に核のある頭部を狙えば炸裂攻撃が飛んでくる。それに加え、通常のゴーレムなら核は胴体に付いているはずだ。この二点で敵の正体が見極められるだろう。


「人間、危ないぞ!離れろ!」


 ゴーレムを観察しようとしていた俺に急に声が掛けられる。彼は他のゴーレムと対峙していたエルフだ。俺は訳も分からず距離を取ろうとして、足がもつれてしまった。それが俺の命を救った。


 仰向けに倒れた俺の目の前。一瞬前に俺がいた場所を、弾丸のようなものが飛び去る。この攻撃方法。危惧していた通り、このゴーレムはアーデニアの一件で戦ったものと同じようだ。しかし、あの時とは明らかに違いがある。


 今、破片を飛ばしてきたのは俺と戦っていた個体ではない。直前までエルフたちと戦闘していたゴーレムが、仲間にとどめをささせまいと俺に狙いを変えた。つまり、このゴーレムたちは連携をとっている。一体でもあれだけ苦戦したゴーレムの行動パターンが、明らかに進歩しているのだ。


 さらに例のごとく、俺が攻撃したゴーレムの脚は修復されている。仲間の飛ばした破片で直ったのだろう。俺はマジックゴーレムに対抗するため、武器や魔法を用意してきた。相手が三体いるだけであれば、なんとかなったかもしれない。しかし、連携してくるのであれば前提条件が大きく変わってくる。はたしてシャディムたちが不在のこの状況を乗り切ることができるのであろうか。

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