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種族と価値

 魔王と四人衆、ついでに俺での会議が終わった。危険だったが得るものもあったマジックゴーレムの一件。四人衆の二人には問題なく共有できたように思う。きっと他の魔族たちには彼らが広めてくれるのだろう。ただ一人、ナスターシャは会話がなかったため少し不安ではある。まあ、彼女はヴァミリスと共に現魔王が直々に任命したらしいので俺が心配する必要はないのだろう。


 目前の問題は会議で急に振られた、新たな仕事についてだ。俺への敵意を隠そうともしない、悪魔のような風貌の男。発端になったその男は未だに名乗りもせず、愉快そうに俺を観察していた。


「それで、そのエルフっていうのは?」


「ああ、そういえば説明していなかったな。彼らは一応は私の下についている種族ではあるのだが、少し厄介な立場でな・・・」


 魔王が重々しく言葉を続ける。だが、それを遮る声がある。当然、説明を受けていた俺ではなく、例の悪魔だ。


「この一件は私の管轄ですので、お任せを」


「そうか、では頼んだ」


 魔王から説明を引き継いで、男が俺に向き直る。敵意を感じ取っているのは俺だけで、魔王はこの男に対してある程度の信頼はある様子だ。


「エルフたちは本来、我々よりも人間に近い種族なのです。しかし、数年前から人間たちによって、狙われる存在となりました」


 人間に近い生態でありながら、その人間に狙われる立場である。それは俺の持っている前世でのエルフのイメージと相違なかった。もちろん、前世のエルフとは創作の中の存在である。


「今では魔力を狙う人間たちによって、その安全を脅かされているのです。だからこそ、田所さん。人間であるあなたが、この件を担当してはいかがでしょうか?」


「正直私は気乗りせんな。確かに人間とエルフの関係は何とかしなくてはいけないが、直接田所を送る前にできることがあるのではないか?」


 魔王の言うことも理解できる。敵対心を持つ相手のところにいきなり向かうのは危険が大きすぎる。だからこそ前回のアーデニアの一件では、人間である俺に白羽の矢が立ったのだ。


 可能であれば、少しでも関係を改善してから向かいたいところではある。しかし、それは難しいだろう。この一件を根本から解決するためには、人間側の行動を改めてもらわなくてはいけない。魔王たち魔族と人間の関係改善もままならない以上、今はこちらから人間に働きかけることはできないだろう。つまり今できることは・・・。


「我々にできることはエルフを守り、信頼を得るだけですよ。それを人間であるあなたがやれば効果は大きくなるはずです」


 男の態度に思う部分はあるが、言うことは一理ある。何より人間とエルフの仲が悪いままでは、魔王の目的である、人間と魔族の和平の障害になりかねない。それを改善するために、俺は便利な存在なのであろう。


 人間と敵対しているエルフたちから攻撃を受けることも考えられるし、最悪の場合はエルフを狙う人間との戦闘もあり得る。だが人間だからこそ、エルフたちの助けになることができれば、人間の信頼回復に貢献できるはずだ。俺の答えは決まっている。


「わかった。俺とそいつでエルフのところに向かうよ」


「・・・いいのだな?前回以上に何が起きるかわからんぞ」


「俺は事情をよく知らないけど、魔王も必要だと思ってるんだろう?なら俺は従うさ」


 この世界のことは未だによくわからない。前世とは違い、ネットで調べるだけで膨大な情報が手に入るわけでもないので当然だ。それでもこの世界にも信頼したい相手がいてくれている。俺を助けてくれた魔王や白蛇。共に死線を超え、仲間になった魔族のために、できることをこなしたい。


「では準備ができ次第、出立しましょう」


「その前に、いい加減名乗ったらどうだ?仮にも一緒に仕事するんだろ」


「ああ、そうでしたね。うっかりしていました。私はシャディムと申します。以後お見知りおきを・・・」


 お手本のような白々しさだが、ようやく名乗らせることができた。やはり嫌味っぽい態度ではあるが、今回はこの男と組む必要があるのだ。できる限りは仲良くするしかない。


 前回のセントールの姉弟のように、足を用意してもらえるものかと思ったが、今回はその必要はないらしい。エルフたちの村は徒歩で行ける場所にあるそうだ。


 何が起きるかわからないので、戦力的に不安ではある。しかし、ヴァミリスと同等の強さであろう四人衆の一人が同行してくれるので、何とかなるという判断なのかもしれない。




 会議は昼過ぎに始まったため、打合せが終わったのは夕方だった。エルフの村が近いとはいえ、夜間に魔物に襲われるリスクを抱える必要はない。そのため出発は翌朝ということになった。


 翌朝、魔王が俺とシャディムを見送りに来ていた。何か渡したいものがあるらしい。


「田所、待たせたな。これがお前用に用意した魔法の武器だ」


 魔王から鞘に収まった剣を手渡される。以前のマジックゴーレムの件で話に挙がった、魔道具の剣だろう。あまり時間も経っていないのに用意してくれていたようだ。


「魔王、ありがとう。でも、今回はこれを使うことがないと良いんだけどな・・・」


 人間とエルフが争っているとはいっても、わざわざ戦いたいわけではない。平和的解決ができるのであればそれに越したことはないはずだ。それが難しくても善処はすべきだろう。


「確かにそうだが、いざという時には躊躇うなよ。まあシャディムがいる以上、戦力的には問題ないだろうがな」


 今回の同行者、シャディムに視線を向ける。相変わらず不機嫌そうに見えるが、仕事はしっかりこなしてくれることを願おう。


「・・・では行ってまいります。魔王様」


「ああ、エルフたちと田所を頼むぞ」


 こうして不安な様子の魔王に見送られて出発した。不確定な部分が多いため、俺も不安ではあるが引き受けた以上、最善を尽くさなくてはいけない。




 今回は徒歩での移動だ。エルフたちの集落のある森は、魔王城からすぐ西にある。徒歩でも半日あれば到着するそうだ。


 俺とシャディムは互いに話すこともなくひたすら歩く。魔王城が近い影響か、魔物に襲われることもなく順調に歩みを進める。確かにこれなら前回とは違い、セントールたちは必要なさそうだ。


 道を知らない俺の前をシャディムが先導している。実を言うと、四人衆の一人であるこの男に聞いてみたいことは結構ある。魔王のことや四人衆の業務について、人間への感情などがそうだ。しかし、相手が俺に対する敵意を隠す気がないことが明白なので、話題を切り出しにくい。苦手な上司と一緒に向かった視察を思い出し、余計に気分が沈んでしまう。気まずい空気感を壊したのは意外にもシャディムの方だった。


「・・・田所さん。あなたは人間の国、アルティミシアから来たんでしたよね?」


「まあ、一応そうだな。元々は別の世界にいたんだけど」


 聞きたいことがあったのは向こうも同じだったようだ。だからこそ、俺を名指しで連れ出したのかもしれない。


「今回の任務。いえ、前回もそうですが、なぜ異世界の人間であるあなたが危険な仕事を?」


「会議の時に言った通り、死にかけたんだ。人間に、裏切られたんだよ。俺を呼んだアルティミシアの貴族の息子に」


 そう、公爵子息だっただろうか。グレイスに裏切られたのだ。その時の口ぶりが嘘でないのなら、あの国に俺の居場所はないらしい。それに加えて今では魔族の味方をする理由も増えている。


「あとは魔王や白蛇に助けられたり、セントール達やラピールとも、なんというか友達になったから、かな・・・」


 前世で友好関係に恵まれなかった俺からすると、言葉にするのは少し、照れくさくはある。それでもなんとなく、今の俺の気持ちを伝えたくなった。よく知らない世界で、大したことができない俺なりの意思表明なのかもしれない。


「そうなのですか。実は私も似たようなものなのですよ。今の魔王様、その先代に拾われたのです」


 一定のペースだった歩みが少しだけ遅くなったように感じる。それと共に、少しだけシャディムの雰囲気が和らいだような気がする。俺の話を聞いた中で、彼の何かが変わったのだろうか。


「なので万が一にも、あなたが我々を裏切るようなことがあれば、魔王様に代わって私が必ず後悔させます。よく覚えておいてください。・・・それを伝えたかったのです」


「そうか、ご丁寧にありがとう。ご忠告、よーく覚えておくよ」


 彼の中で俺は、忠告程度はしてやっても良いくらいの立場には収まったようだ。前世での社会経験をもとに考えると、多少口が悪くとも忠告してくれる相手はマシな部類だ。それどころか、俺であれば全く見込みのない相手には助言もしたくなくなってしまう。彼が俺と同じ感覚を持ち合わせているなら、ちょっとは共感してもらえたのかもしれない。


 しかし結局のところ、向こうがどう思っていてもやることは変わらない。俺は魔王の判断に従うだけだ。将来の人間と魔族のためにエルフたちと人間の争いを治める。だが、せっかく少しだけ話しやすくなったことだし、仕事の前に知りたかったことを確認しておこう。


「なあ、人間がエルフを狙っているのはわかったんだが、その狙いは何なんだ?確か魔力がどうって言ってたが・・・」


「はい。人間とエルフはよく似た身体の構造をしていますが、決定的な違いがあります。それが魔力の保有量なのです。魔道具を作る際には、必ず魔力を消費します。その不足分を捕らえたエルフたちで賄っているわけです」


 つまり、体内の栄養素を道具の素材にされているようなものだろうか。前世でも確か、カブトガニか何かの血液を薬のために採取する、なんて話があった気がする。しかし、それとは決定的に違う点がある。この世界のエルフたちは人間と近しい種族だと聞いている。所属する勢力が違くとも、身体的に違う部分があっても、一つの種族として尊重されるべき存在だと俺は思う。


 では、彼らが狙われないようにするためにできることとはなんだろうか。相互理解で関係が改善すると思いたいが、そんな単純な問題ではないような気がしてならない。カブトガニのことを前世の人間たちがよく理解したとしても、かわいそうだけど必要なことなのだと、利用され続けるのではないだろうか。


 俺はこの世界の人間とエルフたちの関係性は良く知らない。それでもエルフたち、あるいは魔族たちに敵対することのリスクを人間に理解してもらわないといけない気がした。


 しかし、それこそ人間と共存する魔王の目的とは遠ざかってしまう。俺がするべきことは何なのか。今の俺に何ができるのか。俺はそんな不安を抱えたまま、エルフたちの村へと歩みを進めた。

お待たせしてしまい、申し訳ありません。

手違いで原稿と資料を削除してしまったため、時間がかかりました。

しばらくは続きを書かずに設定の再確認と、以前の話の手直しをしたいと思います。

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