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パーティと訓練

 勇者パーティーの結成後、王の計らいで五人での食事が始まった。俺、田所祐一。同じく勇者として召喚された倉宮美結。優秀な若い魔法使いミリアス。公爵子息のグレイス・アルヴァール。大商会の跡取りルーカス・サンディエルの五人だ。


 正直なことをいうと大分気まずかった。おそらくは年長であろう俺が会話を取り持ちたいところであったが・・・。


「確かミリアスは最年少の魔法使いなんだったよな。大変だっただろ?」


「ううん、コツを覚えればすぐ」


「そうなのか、向こうには魔法がなかったから、教えてもらえると助かるよ」


「わかった、教える」


 ミリアスはとにかく会話が続かない。受け答えはしっかりしてくれるのだが、テンションが低すぎて嫌そうにも見える。向こうから会話を振ってくれることもないため、どうにも話しにくい。



「グレイスは若いのに、かなりの剣の使い手なんだったな。俺は剣も素人同然だから頼りにしているよ」


「ああ、もちろんだ。頼りににしてくれ。この剣も父が用意してくれた一級品だ。俺の腕と合わせれば敵などいないさ。心配なのは、出自のわからない魔法使いくらいなものだな」


 グレイス・アルヴァールは大貴族の息子らしく、自信家だ。自信があるのは結構なのだが、大抵の会話を自身や親の自慢話に繋げたがる。また、生まれが良くないらしいミリアスに対して若干の棘を感じる。



「グレイスの父上には我が商会も世話になっている。あの魔法の剣も我々が用意したものなんだ。勇者も、物資の調達や装備のことは私に任せてくれ」


 ルーカス・サンディエルはグレイスの太鼓持ちだ。互いの親の関係で以前からこのような立場のようである。グレイスが絡まなければ真面目で話しやすいのだが、どうにも親の繋がりのせいで真面目さが悪い方にも出てしまっているようだ。



「田所さんは前の世界では何をなさってたんですか?私は高校生でした」


「ああ、俺は会社員だったよ。やりがいのない営業職だったから、こっちに来たのも満更でもないかも」


 倉宮美結は同じ立場と、共通する話題のおかげで話しやすい。だが時々会話がかみ合わないことがある。俺と倉宮はよく似た別世界から呼ばれたらしい。例として、俺の世界では誰でも知ってるはずのヒットソングが通じなかった。何らかの理由があるのか定かではないが、同じ境遇でこの世界に呼ばれたことには違いないようだ。


 そう、あの召喚の儀式。俺は死んだことによって召喚の条件を満たしたと思ったのだが、倉宮は死んだことにショックを受けていた。二人召喚されたことといい、何らかの不具合でもあったのだろうか。あの時の司教と話す機会があればいいのだが、今さら何かに気づいたところで意味もない。




 食後は兵士長にこの世界の常識について教えてもらった。一番興味がそそられたのはやはり、魔法の存在だ。この世界は前の世界と比べて、科学技術は未発達ではあるがそもそも魔法が存在する世界で化学は需要がないのだろう。実際に生活を助ける便利な魔法もこの世界には数多く存在するようだ。そもそもこの世界の物理法則が前の世界と同じなのかも不確かではある。

 

 魔法について調べてもらったところ、俺も倉宮も練習すれば平均以上には使えるそうだ。この段階では数少ない、この世界に来て良かったと思えた点だ。魔法自体は殆ど誰でも使えるそうだが、特出した才能がない場合は、魔法の練習をせず他の修行に充てる者も居るらしい。


 まさにグレイスがこれに当てはまるそうだ。数多のゲームの経験から考えると、長所を徹底的に伸ばすのは良い判断に思える。親の教育方針なのかもしれないが、俺の中で少しグレイスの評価が上がった。


 魔法についてはひとまず、使い方だけを教えてもらった。魔法文字と図形の組み合わせ、それを頭の中にイメージする、もしくは物理的に描く。そしてそこに魔力を流し込む、これだけだ。


 複雑な魔法であれば戦闘中に使うのが難しいため、魔導書を使う必要があるらしい。また、魔力を流す際にその補助になるのが魔法の杖だ。ミリアスが両手で持つサイズの杖を持っているのは、それだけ扱いの難しい魔法を習得していることの証のようだ。


 先ほどの俺と倉宮の魔法適正についてだが、単純に魔法一つ一つとの相性に差がでるらしい。魔法の図形に魔力を流す際に相性が悪いと効率が落ちてしまい、魔法の威力が下がり消費も大きくなってしまうそうだ。


 なので現在、俺と倉宮は兵士長とミリアスの立会いの下、訓練場で適性のある魔法を知るために標準的な魔法を試し打ちしている。まずは火球を飛ばす魔法だ。魔法の図形の記された紙、この図形は魔法陣とでも呼ぼう。魔法陣の描かれた紙に指先からエネルギーを送り込むイメージ。すると、正面の的に向かって高速で拳大の火球が発射され、木製の的が燃えながら衝撃で倒れていった。


「流石ですね、田所さん。火の魔法にはかなりの適性をお持ちのようです」


 初めて魔法を打てたことに対する感動、そして謎の疲労感で足がふらつく。きっとこれが魔力を消費する感覚なのだろう。


「お疲れのようですね。初めてであれほどの魔法を使ったのでは無理もありません。適性の高い魔法は威力も出やすい代わりに、全力で使うと魔力を大量に消費しやすいのです。まあ、しばらく練習すれば消費魔力の加減も慣れてきますよ。次は倉宮さん、お願いします」


「は、はい」


 俺から魔法陣の描かれた紙を受け取った倉宮が、俺と同じようにおっかなびっくりで魔力を流し込んでいく。紙が淡く光りを放つ。俺の時も光っていたか?集中していて気付いてなかっただけだろうか。


「さがって、二人とも」


 今まで無言を貫いていたミリアスが急に俺と兵士長の前に出る。すると何かが爆ぜた。大砲のような爆音とともに辺りが衝撃波に襲われる。


「キャッ!」


 反動で倉宮の体が的の反対側に倒れこむ。何が起こったのか。頭が追い付かない。兵士長も驚いているようだ。ミリアスだけは何が起きたかわかっている様子だ。だが彼女らしくない、驚きがその表情に現れている。


 的のあった場所を見ると、そこには何もなかった。それどころか的の背後にあったレンガのような壁が少し抉れている。その跡を見るに、倉宮の魔法は的を破壊した後も人の頭ほどの大きさがあったらしい。


「す、すごい。倉宮さんすごいですよ!こんな威力の魔法は見たことがありません!伝承の勇者様は本当だったんだ!これなら魔王もきっと倒せます」


「えっ!あ、ありがとうございます。でも、反動がすごいし、なんか急に疲れちゃって足が・・・」


「魔力を消費しすぎた。普通はどんなに適性が高くてもあんな威力にはならない。魔力操作の練習ができるまで魔法を使うのは控えるべき」


「そうなんですか、ミリアスさん」


 ミリアスが倉宮に助言をしている。もし彼女がいなかったら、俺と兵士長もあの魔法の衝撃をまともに受け、怪我をしていたかもしれない。倉宮の魔法はそう思わせるだけの威力があった。


「ミリアス、庇ってくれてありがとう」


「そうでした、ミリアスさん!ありがとうございます」


「気にしないで、不測の事態のために私がいた」


 そのあとは座り込んでしまった倉宮と共に魔力の操作のコツを教えてもらっていた。なんでも体に流れる魔力のイメージを掴まなくてはいけないらしい。魔力の加減ができなくては俺も倉宮も魔法を使うのは危険だ。魔力操作はすぐは習得できないようなので、この場では練習方法だけ習っておく。倉宮の体力が回復したら、今度は身体能力を試す予定になっている。




 倉宮の体力が回復するまでの間にミリアスは解散していた。今日はもう魔法を使こともないので不要だと判断したようだ。それ加え、倉宮の魔法を見て何か思うことがあったらしい。


 そして身体能力の検査が始まった。


「倉宮は運動はしてたのか?」


「いえ、帰宅部だったので運動はあんまり。田所さんは?」


「一応筋トレはしてたけど、ちゃんとしたものは部活で剣道やってたくらいかな」


「そうなんですね。王様の話だと身体能力も上がってそうでしたけど、少し不安ですね」


「ああ、グレイスが基本を教えてくれるらしいけど、戦えるようになるまでどのくらい掛かるかな」


 そんなことを話しているとグレイスを呼びに行っていた兵士長が帰ってきた。ついでにルーカスも一緒だ。


「お二人ともお待たせしました。体は動かせそうですか?」


「はい、もう大丈夫です」


「魔法一発で動けなくなったそうだな。そんなんで魔王と戦えるのか?」


「グレイス、そういってやるなよ。二人は初めて魔法を使ったんだから・・・。ところであの、壁の穴は何だ?もしかしてミリアスの手本か?」


 ルーカスが倉宮が魔法で開けた壁の穴に気が付いた。あまりに大きな魔法の痕だったので、専門家のミリアスがやったと思われたようだ。


「いえ、あれは倉宮さんが・・・」


「なに!?あれをお前がやったのか?」


「は、はい。そうです!」


 グレイスの急な食いつきの良さに倉宮が狼狽えている。ルーカスは何かを考えこんでいるようだ。


「そうか、勇者とはここまでの力を持っているのか。これなら魔王にも勝てるかもしれないな。田所、あなたもあれ程の魔法を?」


「いや、俺のは的を倒す程度の威力しかなかったよ」


「謙遜しないでくださいよ、田所さん。初めてであれなら十分すぎる才能ですよ」


 ありがとう、兵士長。危うくルーカスにがっかりされるところだった。


「そうか、二人とも素質はあるみたいだな。よし、早速だが剣の腕も見せてもらおうか」


「じゃあ、俺からいこう。倉宮は魔法を使った後だしな」


 というよりも万が一、倉宮が身体能力も俺より上だった場合に悲しくなるからだ。


 訓練用の木剣を構えて俺とグレイスが対峙する。俺のは数年振りの剣道の構えだ。グレイスも大差ないように見えるが、訓練の賜物であろう、俺にはない威圧感を感じる。


「田所。まずは軽く打ち込んで来い、軽くな」


「ああ、いくぞ」


 倉宮の魔法の痕跡のせいで、自信家に見えたグレイスが予防線を張っているようだ。当然、こっちだって手探りだ。いきなり本気で打ち込んだりはしない。


 まずは上段から頭を狙う。難なく受け切られるがそれで良い。そのまま左右から胴を狙う。こちらも正確に対応してくれている。特に問題はなさそうだ。


「よし、大丈夫だな。もっと思い切り来い!」


「ああ!」


 俺は少しずつ力と速度を上げていくが、さすがは騎士。武器が木製とはいえ危なげなく対応してくる。


「問題なさそうだな、このまま打ち合うぞ!」


 能力テストのはずが勝手に打ち合いにしてきやがった。幸い俺も、体力的と早さに余裕はある。このままどこまでできるか試してみよう。




 木剣同士がぶつかり合う音が鳴り続く。訓練のはずが限界を試したい俺と、負けず嫌いそうなグレイスは熱中し続け、互いにほとんど本気になっていた。


 だが、結果を分けたのは訓練の方向性の違いだろう。命の奪い合いを想定していたはずの、グレイスの剣は首や体の中心を的確に捉えてくる。対して、俺の剣道仕込みの剣の狙いはグレイスと同様の面、胴の他にも小手がある。

 

 体幹を狙い合う戦いの中で一瞬のスキを突いて、俺の剣がグレイスの手を打つ。既に十分以上も互角に近い実力者との戦いが続いている。スキを突かれたグレイスの手から剣が落ちる。剣をグレイスに突き付け決着となった。


「くっ、俺の負けだ。素人かと思ったが正確に手を狙ってくるとはな」


「ああ、偶然そういう修行をしたことがあったんだ。じゃなかったら俺が負けてたと思う」


 実際俺も汗だくだ。剣道に小手があって良かった。それに前世での身体能力だったら勝負にもならずに俺が負けていただろう。結果として、この体の身体能力も、グレイスの腕も確かなようで何よりだ。


 続いて倉宮の番なのだが、少しグレイスの休憩を挟むことになった。


「ふう、少し熱くなりすぎたな。さっきの話だがお前、前の世界で訓練を積んでいたのか?」


「ああ。いや、戦いのため訓練じゃないんだ。なんというか、人と戦う競技があってその訓練だな」


「そうか、戦士でもない者に俺は、負けたのか」


「グレイス、相手は勇者なんだ。そんなに落ち込むことでもないだろう」


 太鼓持ちことルーカスがグレイスのフォローに入る。この場合は俺が言っても嫌味にしか聞こえないだろうからありがたい。しかし気になることがある。


「グレイス。兵士長の話だが、こんなに強いのにもっと上がいるのか?」


 紹介の時の兵士長の話だと、グレイスは若い割には強いくらいの言い方に思えた。


「ああ、今の兵士たちは歴戦の猛者ばかりだからな。訓練しただけの俺とは実戦経験がまるで違う。前に父上に頼んで兵士長との手合わせをさせてもらったが、まるで相手にならなかった。今ならもう少しはやれると思うがな」


 実戦経験の差。確かに簡単には埋められないだろう。だが少なくとも、今の俺の強さでグレイスと互角であったことは誇ってもいいだろう。決め手はまぐれのようなものだったけど。


 雑談している間にグレイスの休憩が終わった。倉宮の能力検査、という名の実践訓練が始まろうとしている。


「グレイスさん、よろしくお願いします!」


「こい、倉宮!田所と戦った後だ。全力でかかってこい!」


「は、はい!行きます!」


 俺の時と同じ流れで倉宮がグレイスに上段で切りかかる。全力は不味い気がしたが、倉宮は剣道の経験がないようだ。グレイスであれば問題ないだろう。


 グレイスが倉宮の木剣を受けた瞬間、受け止めた方の木剣が砕け散る。驚きで目を見開いたグレイスの頭部に、そのままの勢いで倉宮の剣が命中する。ゴッ、というとても木には思えない鈍い音が鳴った後、グレイスがその場に崩れ落ちる。ピクリとも動かない。グレイスだけでなく倉宮もだ。何が起きたのかわかっていないのだろう。そして二秒後・・・。


「きゃあああ!」


 目の前で頭部から出血し倒れる成人男性、倉宮はまるで第三者のかのような態度で悲鳴を上げる。こっちが叫びたい。一緒に殺害現場を眺めていた兵士長は人を呼ぶと言って姿を消した。


 どうしていいかわからないが、急いでグレイスの元に駆け寄る。動かしては危険だろう。下手に動かさないようにしつつ、借りていたタオルを使って止血を試みる。


 その後のことは焦っていて記憶にはないが、兵士長が連れてきた魔法使いの治療が間に合って、グレイスは一命を取り留めた。

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