重力と逆転
敵に捕まらないよう、走りながら攻撃する。ダメージを蓄積させ、ようやく頭部を破壊できる。そう思うと、ゴーレムは腕を突き出し炸裂する。そうすると、ゴーレムが修復されている。再び攻撃する。何度繰り返しただろうか。ゴーレムの攻撃を直接は受けていないが、破裂した腕の破片を全て回避することはできない。破片によるダメージだけでなく、体の疲労も蓄積されいつまで戦えるかわからない。
これだけ攻撃すれば普通のゴーレムであれば、とっくに核を破壊されるか、魔力切れで倒れているはずだ。しかし通常であれば、魔力の補給のために体の外側にあるはずの核はどこにもない。
このゴーレムは何かがおかしい。強いとか硬いとかそんな単純なことでなはい。もしかしたら田所さんの言ったように誰かの意思によるものなのか。
今さら後悔しても、もう遅い。自分を助けて姉が死にかけている。治療が終わるまで、少なくとも姉が移動できるようになるまでは自分が時間を稼がなくてはならない。たとえ、それが自身の死後であっても、だ。
「ギルバート!なんとか勝てる!俺たちの指示を聞いてくれ!」
田所祐一。あのヴァミリス様に勝利した人間。実力のみで成し得たのではない、と聞いてはいる。それでも感心したものだ。そして、その創意工夫こそが人間の長所であり、恐ろしいところなのだと理解できた。そんな彼が言うのなら、やる価値はあるはずだ。
「わかりました!お願いします!」
「よし!ラピール!」
「はい!」
ラピールが魔法を発動した。あの魔法は確か、浮遊の魔法。飛べる魔物に、重い荷物を運んでもらう時の魔法だ。荷車があるため、僕たちや馬車にはわざわざ使わない。それをゴーレムに掛けている。
「ギルバート!ラピールを乗せてから、アイツの足を槍で突き刺せ!」
意図が分からないが、やるしかない。ラピールが乗ったのを確認し、浮遊しているゴーレムの足を突きさす。今度は背後、ラピールからの指示だ。
「このまま走って、洞窟から引きずりだして!あとは移動中に説明します」
「走ればいいんだね!?しっかりつかまって!」
とにかく走る。洞窟から出せばいいそうだ。しかし何か違和感がある。そうだ、槍の先になんか付いてる?
「あれ?うわぁあああ!」
ゴーレムだ。浮遊しつつ、僕が足を突き刺したままの状態で付いてきている。僕まで腕が届かないせいだろうか、駄々っ子のように暴れている。槍にくっついているのは、田所さんの粘着の魔法だろう。浮遊の魔法で重さは感じないが、こんな状態で攻撃されれば避けられない。
「大丈夫です!攻撃はできません!」
僕とゴーレムとの間には、槍とゴーレムの脚がある。確かにゴーレムの腕は僕たちに届かないだろう。だが、ゴーレムにはあの攻撃がある。
「ラピール!腕が、爆発する!」
「だ、大丈夫です。田所さんが無傷であれば『条件外』だって!」
よく意味が分からない。しかし、不思議なことにゴーレムは腕をバタバタと振り回すだけだ。
攻撃が来ない内に洞窟から抜け出す。
田所さんが考えたと思われる、この作戦の意図が理解できない。人間の思考は僕たちとはどこか違うんだろうか。
「あそこです!草のある場所までゴーレムを運んでください!」
ラピールに指示された場所で止まる。採掘所から少し離れた草原。しかしこれでは場所が変わっただけだ。だが、ラピールは浮遊の魔法を掛け続けている。魔法の効果がある内はゴーレムは移動ができない。腕を炸裂させれば攻撃はできるはずだが、それもしてはこない。
「もう少しです!あとは田所さんが来れば、勝てます!」
律儀に魔法を掛けるラピールと、間抜けにじたばたしているゴーレムが妙にミスマッチな光景だった。
「ギルバートさんは破片を防いで、砕けた後のゴーレムの頭を破壊してください。今はだめですよ!腕の攻撃が来ます!」
ゴーレムを砕いてとどめを刺す。それだけは理解できた。疑問を投げかけようとしたタイミングで田所さんが追い付く。あの不自然な走り方は加速の魔法のせいだろうか。
「待たせた!ラピール、終わったらすぐ離れろ」
「はい!」
そう言うとラピールは浮遊の魔法を重ね掛けする。同じ魔法であれば同時に使える。ラピールのちょっとした特技だ。ゴーレムは相変わらず間抜けな姿のまま、高く高く浮いてゆく。
「今です!ギルバートさんは盾を!」
ラピールに言われるまま、ゴーレムに対して盾を構える。そしてラピールは僕の後ろに隠れている。
田所さんはゴーレムの真下に盾を置いた。あれは姉さんの物だろう。そして何かの魔法を発動した。
「急いで!田所さん!」
「わかってるよ!」
魔法を使った直後、田所さんも慌てて僕の背後に避難してきた。見ると、ゴーレムは落下を始めている。相当な高さだ。下が草と柔らかい土でさえなければ大きなダメージだっただろう。そうか、そのための盾なのか。
「ギルバート!あとは頼んだぞ!」
「わかりました!」
田所さんが言った直後、落ちてきたゴーレムがまたしても炸裂する。自身の身長の3倍ほどの高さから、すさまじい強度を誇る魔法の盾に向かって叩きつけられたのだ。今度は腕だけではなく、全身がバラバラに砕け散る。不自然な落下速度を見るに、田所さんは加重の魔法を使ったんだと思う。
「よし、頭だ!頭を砕け!」
ゴーレムの弱点の核は通常は胴体に付いている。しかし、ここまで来たんだ。田所さんを信じよう。
「ありました!あっちです」
ラピールの刺す先に光る石があった。間違いない、核だ。小さな丸い岩の破片がついている。確かに核は頭部にあったのかもしれない。
「よくも、姉さんを!」
上から槍で貫く。魔力が宿っているだけあり硬いが、それはこちらの武器も同じだ。同条件なら鉄製である槍が勝つのは当然だった。
まだだ。もう油断はできない。周りを見渡す。そこにはゴーレムだった破片から、ゆっくりと魔力の輝きが失われていく光景があった。今度はその光が戻ることはない。ようやく勝ったんだ。
疲れと安心のせいか、視界が暗く、揺れていく。ここで僕は意識を失った。
「ここは!?姉さんは!?」
「うわっ、びっくりした!」
目が覚めると、どこかの建物の中だった。どうやら田所さんが付いていてくれたようだ。
「アーデニアの町だよ。俺たち全員、無事に帰ってこれたんだ。お前は疲れてたんだろうな。ほぼ一日眠ってた」
田所さんの指さす場所には、コーネリア姉さんが横たわっていた。規則的な寝息と傷の塞がった体を見て安心した。しかし、どうやって町まで帰ってきたんだろうか。
「それが、採掘所で働いていた男たちが向かってきてたんだ。自分たちの大切な場所だから、できることがないかと思って手伝いにきたらしい。もしかしたら俺たちに横取りされる、とか思ったのかもしれないけどな」
彼の話だと住民たちが僕たちを運ぶのを手伝ってくれたそうだ。今回の目的の人間との交渉。その任務のことを考えると彼の冗談は笑っていいのか、少しだけ判断に困る。きっと笑っていいんだろう。せっかくできた人間の仲間なんだから。
「ふふっ、そしたら任務は難しいですね」
「いや、それはバッチリだ。俺とラピールがやっておいた。細かいことはコーネリアが起きてから話す」
取引は無事に終わったようだ。気にはなるが後で良いだろう。そんなことよりも言わなくてはいけないことがある。
「田所さん、今回はありがとうございました。あなたのおかげでみんな無事に帰ってこれました。それなのに僕たちは、ゴーレムなんて相手じゃないと油断して、田所さんの言うこともちゃんと聞かないで・・・」
「ああ、一回魔王城に帰るべきかって言ってたやつか。気にしないでくれ。正直、俺もギルバート達の強さを見誤ってたし、ラピールに聞いた分だとあんなゴーレムは今まで確認されていなかったんだろ?誰も予想できないさ」
確かにあんなゴーレムは今まで聞いたこともない。だけど田所さんは危険を感じとって、教えてくれていた。それを無下にしてしまったことは決して、なかったことにはできない。
「それに、勝てたのは全員のおかげだ。時間を稼いだり、とどめを刺したギルバートも、お前を庇ったコーネリアも、必要な魔法を持ってたラピールも、一応・・・多分俺も。みんながいたから無事に帰ってこれたんだ。それどころか俺なんて、借りた盾がなければゴーレムに傷1つ付けらんなかったんだ。ギルバートはよくやってたよ」
「・・・そうでしょうか。それでも、ありがとうございました」
気を遣わせてしまった気がする。それでも、みんなで帰ってこれてよかった。
「それに!お前を認めてんのは俺とラピールだけじゃないんだ。歩けそうなら、ちょっと外に出てみよう」
何か見せたいものがあるようだ。身体には、特に問題はない。少しは動いた方が良いだろうし、少し外に出てみよう。
町の印象は僕の予想とは大きく違っていた。てっきり、魔物の僕が出歩いたら警戒されると思っていたけど、そんなことはなかった。それどころかお礼を言われることまであった。
「俺たち、というかギルバートとコーネリアが傷だらけで戦ってくれたおかげだよ。さすがにボロボロになって戦った姿を見たら信用してくれたんだ」
僕たちが重症になったおかげで、住民たちからの自演の疑いは晴れたらしい。姉さんの怪我は僕のせいなので複雑だ。
「ラピールは長の家だ。せっかくだから顔を見せに行こう」
「そうですね。ラピールにも助けられましたし」
きっと、ラピールがいなければ姉さんは助からなかった。戦闘に巻き込んだことも謝りたいし、あいに行こう。家の場所は田所さんが案内してくれた。僕が寝ている間に何度か交渉に行ったそうだ。
長の家に向かう間にも何度か人間と会話したが、不信感や敵意のようなものは感じられなかった。田所さんは僕たちのおかげと言っていたが、仲良く話すところを見るに彼とラピールの努力の賜物だろう。やはり人間である彼の協力は心強い。
ラピールと町長に挨拶をする。かなり心配させてしまったようだ。ラピールだけでなく長も喜んでくれていた。あとで聞いたが、長はもともと魔物に対する敵対心はあまりなかったらしい。住民も僕たちを認めてくれたため、素直に喜べると言ってくれた。
「ここは・・・室内か?ゴーレムは、みんなはどうなった?」
「おはよう、姉さん。身体は大丈夫?」
翌朝、コーネリア姉さんも無事に回復した。身体を動かそうとしているが、丸一日以上意識がなかったんだ。急に動かない方が良い。
「そのままで良いよ、姉さん。ちゃんと話すから」
ゴーレムとの戦い、町に運び込まれたこと、住民たちの様子などを全て話した。特にあのゴーレムをどうやって倒したのかが気になるようで、食い入るように僕の話を聞いていた。
「・・・そうか、結局あの二人も危険な目に遭わせてしまったんだな」
「うん。でも誰がいなくても、きっと犠牲は出てたと思う」
姉さんの憧れは、弱者を守る騎士だった。人間の騎士のように、貴族の中の兵のことではない。自身の責務に誇りを持ち、他者を助ける。そんな存在に憧れていた。僕もそれに賛同し、ずっと二人で鍛え続けてきた。
それが無駄だったとは思わない。だけど、結果としてあの二人を戦いに巻き込んでしまった。僕たちだけでは力不足だった。その悔しさは僕にも痛いほどわかる。
「・・・もっと、鍛えなくてはな」
「うん、田所さんも訓練に付き合ってくれるって。それにヴァミリス様にも頼んでくれるって」
「そうか、付き合ってくれる人間がいるとはな。帰ってからの楽しみが増えた」
直接口には出さないが、二人で決意を新たにする。仲間を守りきる。そして四人衆にも引けを取らない強さになってやるんだ。




