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遅延と再生

「っだぁあああ!」


 ゴーレムの大振りな攻撃。そのスキを突いて、野球のバッターのようなフォームで思い切り剣を振るう。狙いは振り下ろされた直後の腕。その肘の関節だ。全力でここを狙えば、あるいは。


 そんな俺の望みはあっけなく砕け散った。そう、たった今刃こぼれした俺の剣のように。マジックゴーレムの魔力の通った身体。それは見た目以上の強度を持たせてしまっている。比較的細い関節部でさえこれだ。むしろ、俺の腕の方がジンジンと痛みを訴えている。


 対してあちらには疲れがない。仕方がなく防御に徹しようかとも思ったが、それも許されない。このゴーレムは俺が防御に集中しようとするとコーネリアを狙うのだ。そのせいで俺も剣もボロボロだ。


「そうだ!借りればいいんだ」


 緊急時とはいえ今さら気が付いた。コーネリアの魔法の装備を借りればよかったんだ。姉弟がダメージを与えたのを見たじゃないか。丁度回避した先に彼女のランスが落ちている。


「借りるぞ!コーネリ、あぁぁぁ!!」


 重い。異様に重すぎる。彼女たちはこの重さで、バトル漫画のように体を鍛えていたようにすら思える。なんとか使えないこともないのだが、剣のように攻撃と回避の両立はできなくなる。セントールのように必殺の突進もできない以上、刃がガタガタの剣の方がマシだ。ならば、こちらを借りよう。


 コーネリアのそばに落ちていたもう一つの装備、盾。これは彼女らと同じように装備できた。ちょっと大きいが問題はない。


 ギルバートを見習ってシールドバッシュ、をしても効果はない。筋力の差か、訓練の差か。先ほどはゴーレムが転倒中だったため勢いの違いもある。それなら俺は俺流でやってやろう。


「ここだぁ!」


 ゴーレムが腕を振り下ろしてくる。その瞬間に唱えていた魔法を発動させる。今度は加重の魔法だ。ゴーレムは急に増えた自身の体重に対応できない。腕の勢いに振り回され頭部も付いてくる。場所は丁度、俺の目の前。


 ギルバートがやったように盾でアッパーを食らわせる。俺の力と加重の魔法、そしてゴーレム自身の勢い。これなら・・・。


 今度は手ごたえありだ。ピシィと音を立て、頭部にヒビが入る。だが見ればわかる。まだだ、まだ終わっていない。明らかにギルバートの方がダメージを与えていた。しかし、これでいい。


 魔物のことを聞いた時に白蛇に聞いたことがある。物に宿る魔物は何をするにも魔力を消費するのだそうだ。俺は先ほどの光景を思い出す。セントール達に砕かれた直後、確かに魔力の輝きが弱くなった。このマジックゴーレムも白蛇の話の例外ではないのだ。動くのにも、きっと自身を直すのにも魔力を消費している。俺が見た魔力の動きは、治療の魔法の発動だった、と考えれば説明がつく。


 回復が間に合わない程に魔力を減らせれば俺の勝ち。そうでなくても、動きが鈍くなったりすれば時間を稼げる。そのうえ、ギルバートであれば弱ったゴーレムにとどめを刺すのも容易なはずだ。


 勝機が見えて油断したわけではなかったはずだ。しかし、単調だったゴーレムの動きの変化に対応しきれなかった。ゴーレムが左腕を顔の前に出し、再び炸裂した。


 丁度盾を使っていたおかげで、かろうじて防げた。しかし、勢いは殺しきれずに背中から地面に叩きつけられる。急な痛みに悶える。そうしている間にも、ゴーレムは残った右腕で俺を叩き潰そうとしている。


 今度こそ死ぬ。ゴーレムは無慈悲に俺の腹部に向かって拳を振り下ろした。


 しかし、腹部に穴が開いたのはゴーレムの方だった。深々と槍が刺さっている。ギルバートだ。連れてきたラピールを降ろすより前に、ゴーレムの腹部に風穴を空けていた。


「すみません、お待たせしました!あとは任せて!」


「田所さん!今治療を・・・」


「コー、ネリアを・・・」


 ダメージが大きく、まだ深く息を吸えない。だが彼女を最優先で治療してもらわなくては。


「どちらも助けます!」


 ラピールは俺をコーネリアのそばまで引きずると、片腕ずつで治療の魔法を発動した。そんなことできるのか。両腕で別の文章を書くような感覚、いや同じ魔法だから同じ文章だろうか。俺には到底できそうにないので、ちょっと羨ましい。おかげで今は助かったが。


 コーネリアと違い、致命傷でもなかった俺はラピールの治療を受け、すぐに立ち直れた。ゴーレムとギルバートはどうなったのか。


 ギルバートはゴーレムの周りを止まることなく走っている。そしてスキを見つけ次第、槍で強烈な攻撃を仕掛けていた。ゴーレムの速度では、走り続けるセントールに攻撃はできない。俺の与えた傷がないところを見るに、魔力も治療のために順調に消費している。今度こそ勝てる。


 しかし、またゴーレムが腕を突き出し、炸裂した。あと少しで顔を破壊できそうだったのに、ギルバートは回避せざるを得ない。何か違和感を感じる。


「ラピール!ゴーレムの傷が三回は治ってる。ずっと戦いながらだ。魔力はどうなってる?」


「えっと、ゴーレムは詳しくないですが、異常です!何かで魔力を回復しています!」


 あのマジックゴーレムは疲れ知らずなうえに、魔力も回復しているようだ。しかし、補給源は必ずある。考えろ。ゴーレムが接触した魔力源。


 そうだ。一度は魔力を消費したのに、気が付いたら魔力の輝きが戻っていた。最初に倒した時に魔力を消費して・・・。


「岩だ!岩の中の魔力、あり得るか?」


 奴が常に接触していて、魔力を持つ物質。そもそもゴーレム自体が魔力の宿った岩だったはずだ。それに最初に破壊された後に大きくなった。あれは見間違いや威圧感じゃない。接着させられた地面の岩、それをそのまま体の一部にしたんだ。それで岩の内包していた分の魔力を回復した。


「ありえません!量が少なすぎます」


「量は少ないがあるんだな!?」


 ラピールがこくこく頷く。しかし、それならどうやって倒す?ここで戦えば、ゴーレムは必ず岩に接することになってしまう。俺の考えが正しいなら、外に連れ出す必要がある。あの重量を運ぶのは不可能だ。なんとか固定しても、また腕が炸裂すれば一度、距離をとる必要がある。


 そうだ、あの腕が手榴弾のように炸裂する攻撃。なんで使わないんだ。魔力が無尽蔵で体の素材が岩なら使い放題なはずだ。攻撃以外の意図でもあるのか?あのゴーレムの知能で?あの攻撃を三回は見た。何か共通点でもあったか?


 さっきはギルバートが頭を破壊する直前で・・・。そうだった。今までの全て、頭部が破損したタイミングだったはずだ。最初と二回目も盾で頭を殴られた後だった。じゃあ、あの攻撃は頭の修復のために腕から岩を送る、ついでの攻撃だったのかもしれない。あれさえなければ外に運ぶこと自体はできる。


「ラピール!物を移動できる魔法があるんだったよな!?」


「はい、それが何でしょう?」


 ラピールは治療以外にも、物の移動を助ける魔法が使えたはず。これだ。これしかない。コーネリアが移動できない以上、あのゴーレムはこの作戦で倒す!

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