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岩と剛力

 四人で今後のことを相談する。問題解決のためにゴーレムを倒すのは良いのだが、すぐに倒しに行くか、一度魔王城に引き返すべきか。


「ゴーレムの一体や二体であれば私たちにお任せください。上位のものでも二人掛かりであれば負けはしません」


「石の体を持つゴーレムに、剣では相性が悪いです。ですから僕たちに任せてください、田所さん」


 セントール達はやる気のようだ。移動の手伝いだけでは不満だったのかもしれない。


 彼らはゴーレムとの戦闘経験があるそうだ。魔力を蓄えた上位種、仮にマジックゴーレムと呼ぼう。魔力を帯びたその体は、通常の岩の体のゴーレムよりも圧倒的に硬く、ある程度の魔法も使えるそうだ。男たちの話を伝えたところ、彼らはその個体がマジックゴーレムだと判断した。それが相手でも二人でなら勝てるらしい。


 彼らが自信を持って問題ない、と判断したのであればそうなのだろう。この世界のことをほとんど知らない俺が口を出すべきではないはずだ。しかし、俺の感じた違和感が正しい場合、十分な備えが必要なのではないだろうか。


「ラピールはどうだ?俺はどうにも違和感を感じるんだが」


 ゴーレムの出現したタイミング。それも今までは採掘所で確認されていない相手。俺はどうしても誰かの思惑があるように感じてしまうのだ。


「僕も田所さんの不安はわかります。しかし、実際に相手を見ないと、魔王城からの増援を選ぶのも難しいです。セントールのお二人であれば撤退も容易なはずです。一度討伐しに行っても良いのではないですか?」


 ラピールの言うことも一理ある。ゴーレムは足の早い魔物ではないそうだ。実際に、採掘していた人たちの中でも死者は出ていないらしい。セントール達であれば、多少ダメージを受けても問題なく逃げ切れるだろう。


 結局、俺の不安は具体性のないものでしかない。ラピールはともかく、セントール達の説得はできなかった。どうしても自分たちに任せて欲しいようだ。彼らも彼らなりに人間との和解の力になりたいらしい。そんな彼らの熱意を抑える程の根拠を俺は持ち合わせてはいなかった。




 採掘所は町の住人たちが採掘を終え、帰ってくるまでに一週間ほど。採掘に数日掛かったとしても、片道半日程度の距離だろう。セントール達に乗せてもらえば、そう時間もかからないということで、すぐに出発した。結局、俺たちは二時間ほどで採掘場に到着した。


 そこには洞窟と休憩用の質素な小屋。そして石を運ぶための線路が伸びている。ここで間違いないようだ。


「それではお二人はここでお待ちください。私と弟で仕留めて見せましょう」


 姉であるコーネリアは、ギルバートを連れて二人で向かおうとする。戦えないラピールはともかく、俺も一緒に置いていくつもりらしい。確かに俺の剣ではゴーレムと相性が悪い。しかし、俺も魔王に任されたのだ。ここで待っているわけにはいかない。


「いや、俺も行くよ。いざって時、ラピールを呼ぶくらいはできるはずだ」


 ラピールは治療の魔法が使える。仮に、セントールの姉弟に何かがあった時に俺がいた方が良いかもしれない。それに俺も多少は魔法が使える。単純な戦力ではセントールに劣っていても、多少の後方支援くらいならできるはずだ。


「それなら僕も・・・」


「いや、何があるかわからない。ラピールは俺たちが戻らなかった時に魔王城に報告してくれ」


 俺たちは炭鉱や洞窟のことを何も知らない。戦闘になった際の余波などで出入り口が塞がれるようなことがあった場合、外に誰もいないと助けも呼べなくなってしまう。セントール達の後押しもあり、ラピールだけは外で残ってもらうことになった。


「わかりました。みなさん、無理はしないでくださいね!」


 ぶんぶんと手を振る、子供のような身長のラピールに見送られながら、俺たちは洞窟に足を踏み入れる。姉弟は自信に満ちているようだが、俺は言い知れぬ不安を払えずにいた。




 まだ夕方であったが当然、採掘所は暗い。魔道具であろう、壁に取り付けられた明かりがなければまともに進めないほどだ。きっとこの明かりは洞窟内で迷わないための道しるべでもあるんだろう。今はただの明かり以上の安心感を感じる。それにはきっと、俺の中の不安も関係している。


 相手は知能の低いゴーレムとはいえ、警戒するに越したことはない。俺たちは無駄話をせずに縦一列で奥へと進む。最後尾にいた俺が通り過ぎた後、突如壁が動いた。


「出た!」


「下がって!田所さん!」


 列の中央にいたギルバートが俺を庇うように前に出る。剣しか持っていない俺よりも、盾を持っている自分が前衛に、という判断だろう。


 相手は洞窟の壁と見分けのつかない、石の体の持ち主。ゴーレムで間違いないだろう。人間よりも頭二つほど背の高いギルバートと同じくらいの背丈だ。そして、体の表面には魔道具と同じ独特の光沢がある。


 やはり何かがおかしい。町で男たちに聞いた話では、ほとんどのゴーレムは人間の大人よりも小さいそうだ。しかし、この個体は明らかに大きい。魔力を感じさせることから、相手は大型のマジックゴーレムだ。俺にとっては間違いなく、厄介な相手。ここはおとなしく姉弟に任せよう。


「ギル!いいな!?」


「うん、任せて!」


 ギルバートが盾を構えながらゴーレムにゆっくりと接近する。どうやら彼がおとりのようだ。大きなスピアはすぐには使う気がないようで、盾を前面に構えている。


 対するゴーレムは動かない。丸い岩の連なった太い腕は人間の筋肉にも見える。それを力なく垂れさせている。ゴーレムは知能の低い魔物のハズだ。それなのに何かを待っているようにも見える。


 俺がゴーレムを観察している間にも、コーネリアは大きく弧を描きながらゴーレムに駆け寄っていく。ゴーレムがギルバートと対峙している間に側面に回っていたようだ。蹄の音を反響させながら槍を構え加速していく。


「ハァッ!!」


 彼女の槍がゴーレムの背中に突き刺さる。洞窟内ゆえに助走をつける余裕が少ないためか、移動時に比べると勢いがないように見える。しかし、馬の筋肉量と重量を乗せた槍の一撃は、俺の想像を優に上回っていた。


 ギャリィと金属同士の擦れる嫌な音が鳴る。直後になんと、ゴーレムが一瞬浮いた。人間大の岩の塊が、だ。驚いたのは俺だけで、ギルバートには動揺は見受けられない。それどころか彼も、コーネリアの攻撃直後に仕掛けていた。


 再び金属の音が響く。今度はもっと鈍い、打撃音だった。ギルバートは正面に倒れこんだゴーレムの顔面を盾で殴り返したのだ。シールドバッシュといわれる攻撃だが、俺の知るものとは違いアッパーカットの軌道を描く。ゴーレムの頭部にヒビが入り、今度は背後に倒れてゆく。コーネリアと違い、助走もないのになんて剛力だ。


 ゴーレムは体勢を立て直す時間も与えられず、仰向けに倒れた。しかしセントールの姉弟はまだ止まらない。コーネリアが、それに続いてギルバートもランスを突きさす。そこはゴーレムの胴体、その中心。あとで知ったことだが、それはゴーレムが動くための『核』、それを正確に破壊する攻撃だった。


「大丈夫か?ギル」


「うん、大丈夫!姉さんも問題ないよね」


 強いと思っていたが予想以上だった。何事もなくてよかったのだが、本当に立つ瀬がない。俺も帰ったら、今後のためにゴーレムに通じる攻撃法を考えよう。


 彼女らの判断に疑いはないのだが、一応ゴーレムの様子を窺う。息をしない相手なのでとどめを刺せたか判断に困るのだ。ゴーレムは頭部だけでなく、背面にも深いヒビがあった。下手をすれば最初のコーネリアの槍だけでもコアを破壊できていそうだ。


 するとゴーレムに変化が現れた。魔力の煌めき、それが動いたような。


「おい、二人ともゴーレムが!」


 俺に反応して二人が距離をとる。終わった感を出してはいたが、さすがの身のこなしだ。


「これは、問題なさそうですよ」


 ギルバートに言われ改めて目を向ける。ゴーレムの魔力の光は消えていくところだったようだ。それが動いているように見えたのかもしれない。役に立たなかっただけでなく、俺が一番の怖がりだったようで、とても恥ずかしい。まあ警戒するに越したこともないと、心の中で言い訳する。


「それでは一応、他の個体がいないか見てから帰りましょう」


 コーネリアの考えに賛成する。彼らが出発前に言っていたように、あと数体くらいは問題ないだろう。そんな話をしていると、いきなりゴーレムの右腕が持ち上がった。その先には・・・。


「ギル!」


 コーネリアが飛び出す。ギルバートが押し出される形で、ゴーレムとの間にコーネリアが割り込んだ。直後にゴーレムの右腕が爆ぜた。粉々になって四方に飛び散る。前世にあった破片手榴弾を思い起こさせる光景だった。


「うぅ、ぐっ」


「姉さん!」


 不味い。医療に関して素人の俺にでもわかる。その一瞬でコーネリアの体は重症に陥っていた。馬の体の左後方には破片が刺さったのだろう。深さも判らないほどの穴が開いている。ラピールを乗せていた、筋肉質な背中側には散弾で抉られたように、いくつもの凹みができている。人間の上半身側は無事に見えるが、下半身の出血だけでも命に関わるだろう。


 俺にはコーネリアを担いで逃げることはできない。馬の筋肉量は人間には手に余る。そもそも下手に移動しては出血が悪化する。ラピールを連れてきて治療してもらう必要がある。


「お前が!よくも!!」


 ギルバートはゴーレムに向かって突進する。槍で効果があるのは確認済みだ。だが、今はそうじゃない。


「待て!俺が時間を稼ぐ。ラピールを乗せてきてくれ!」


 ギルバートが苦い顔で立ち止まる。俺とコーネリアを残して良いものか。倒してからでは間に合わないか。全員で逃げる必要があるのではないか。きっと、俺と同じように葛藤している。


「いいん、ですね?」


「ああ、それくらいはやって見せる!任せろ!」


 そこまでの自信はないのだが、不安がらせたくもない。頼むから俺が死ぬ前に帰ってきてくれ。前世で急用で仕方なく帰らせた後輩を思い出す。もちろん比較にならないくらいにやばいが。これ、走馬灯じゃないよな。


「お願いします!」


 ギルバートが駆け出す。しかし、そこで初めてゴーレムが想定外の動きを見せた。そんなことができるという情報はなかったが、今までは体を修復していたようだ。ゴーレムは再びギルバートに向かって腕を伸ばしている。さっきの攻撃ではなく、立ちふさがろうとしているようだ。


「させるか!こっちも唱え終わったぞ!」


 コーネリアが負傷した瞬間からこの展開は予想できていた。対ヴァミリスでは使えなかった魔法。粘着の魔法だ。ゴーレムの意思に反して、背中が地面に張り付いている。その間にもギルバートは駆けていた。すでに、ここからは目視できない程の距離を進んでいる。




「このままおとなしくは、してくれないよな」


 ゴーレムがゆっくりと立ち上がる。先ほどより大きい。初めて正面から向かい合う、その緊張感がそう思わせるのか。ゴーレムをよく見ると、さっき炸裂した腕が治りきっていない。というか一回り小さくなっている。これならさっきほどの威力は出ないはずだ。


「よし、今度こそ!時間稼ぎくらいはやってやる!」 


 前回は誰かさんのせいで時間稼ぎもロクにこなせなかった。だが、俺も強くなったんだ。コーネリアを背に再び決意を固めた。

基本的に更新は12時の予定です

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