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出発と遭遇

 大都市であるアルティミシアを出発して四日が経ち、ようやく目的の村が見えてきた。それも全員分の馬を用意できなかったことが原因だ。馬は領地の防衛のためにも必要であり、今は余裕がないらしい。結果として、舗装もされていない道を徒歩で移動するしかない。前の世界、それも私の住んでいた日本ではとても考えられない厳しさだった。


 それに加えて道中、魔物との戦いもあった。一日に多くて三回ほどだろうか。いずれもあの時の大型バーゲストよりは幾分、弱い相手だったので大怪我をする者はいなかった。


 そうして今向かっているのはなんて事のない農村だ。一般的な貴族の領地。魔王城へ向かうための足掛かりに過ぎない。


 しかし、生前の田所さんの考えだが、魔王側の思惑も知りたい。争っている割には交渉も大規模な侵攻も確認されていないらしい。ここにいるのが私でなく、最年長の彼だったら何か気付くことでもあったのだろうか。そんな私でも相手の考えを理解するためにも、この世界を見て回ることは悪くないと思う。


「おい、何かいるぞ。ミリアス」


「わかった、待ってて」


 私が考えている間にルーカスが何かに気付いたようだ。村が何者かに襲われたのか。ミリアスが遠視の魔法で確認する。道中もこの魔法のおかげで敵に備えたり、余計な移動をしなくて済んでいた。この世界の技術力では望遠鏡はないようなので重宝している。


「小型の魔物。二十近い!」


「おい、煙が上がった!行くぞ!」


 グレイスが言うより早く走り出す。それと同時に加速の魔法を唱える。この魔法はバーゲストとの戦いの後に習得した。非常時に逃げることを想定してのことだったが、逆のことにも適している優秀な魔法だ。


「おい、倉宮!一人で行くなって!ミリアス、俺にも」


「わかってる!」


 ミリアスがグレイスに同じ魔法をかけている。だが、遅い。今、目の前で誰かがが犠牲になろうとしているのだ。もっと、もっと、もっと急がなくては。


 村の入り口に見張りだろうか、三体の魔物がいる。人間の子供にも見えるが肌が薄緑色で手足が不自然に長い。きっと小柄な魔物なのだろう。私の前に立ちふさがるが、邪魔だ。速度を落とさないように走りながら腰の剣を抜き、切り捨てる。きっと一体しか仕留めていないだろうが道ができればそれでいい。


 村の家は十件ほど。ほぼ全てに破壊の跡がある。不味い。おそらくは避難先が定められており、そこに住人は逃げているはず。希望的な予想だが合っていたようだ。一番大きな家、そこに魔物たちが群がっていた。


 あまりにも多い。バーゲストの時は十匹ほどの群れでも逃げることを選択させられたが、今回はさらに多い。推定だが二十匹以上はいるのではないだろうか。


 こんな時の対処法も考えておいた。主にミリアスが。なんてことはない。私が加減をせずに、魔物にだけ有効な魔法を打てばいい。最初に習得した火球の魔法では、避難先であろう大きな家も消し飛ばしてしまう。


 ここは氷結の魔法だ。水に使って氷を生成する程度の魔法らしいが、全力で使えば生物を凍結できることも確認済みだ。魔法の発動のために、頭の中に図形をイメージする。そして魔力を込める。今はこの時間さえ、もどかしく感じる。



「ギャアアア!」


「ギギ、ガアア!」


 群れの中央に向けて放ったため、左右の魔物は動きが鈍る程度の被害だ。時間も惜しい。残り十体ほどは剣でやってみせる。


「はぁあああ!」


 魔物たちはまだ状況が飲み込めていない。加速の魔法が残っているうちに数を減らしたい。魔物たちに駆け寄り切り捨てる。密集していたおかげで二匹を仕留められた。


 近くの魔物がこん棒のようなを物を手に飛びかかってくる。痛みのおかげか早くはない。すれ違うように回避し、同時に切り捨てる。あと七匹。


 相手にも知能があったようだ。三匹と四匹に別れ、囲んでくる。じりじりと距離を詰めて袋叩きにしようとしているようだ。おかげでこちらは魔法の準備ができた。


 障壁の魔法だ。以前ミリアスが教えてくれた、透明の壁を生み出す魔法。これで背後を気にする必要はない。


「ギャッ!」


「ガアアア!?」


 背後が騒がしい。早速魔法が効果を発揮したようだ。飛びつこうとして壁に弾かれたのだろう。正面方向の魔物も驚いている。今だ。正面の魔物に向かって駆け出す。大きく剣を振るって再び、二匹をまとめて倒す。あとの五匹くらいであればまともにやり合える。


 ちょうど戦いの終わりが見え始めたところで、置いてきてしまった三人が走ってくるのが見える。もはや勝利は確実だ。


 しかし、増援はこちらだけではなかった。地鳴りが聞こえる。その音は次第に大きくなっている気がする。音の発生源が近づいているのだ。


 正体はすぐにわかった。死角になっていた家の裏から巨大な魔物が顔を覗かせる。迫力のせいか、身長は人間の二倍にも迫るように見える。小型の魔物達の特徴を持ちつつも、その大きさと筋肉量からその魔物の強さが見て取れた。


 きっとバーゲストの時と同じく、あの魔物が群れの長だ。同じ轍は踏めない。だからこそ、犠牲を出させないと国民たちの前で誓ったんだ。それに私はあの時とは違う。


「私が引き付ける!二人は回り込んで!」


「ああ!」「わかった!」


 グレイスとルーカスは二手に分かれて回り込んでいく。ミリアスは私の後方で魔法を準備している。ここまでの流れは打ち合わせの通りだ。これがあの時に出来てさえいれば、こんな時にもそんなことを思ってしまう。


 相手の武器は木製のこん棒、というよりは引き抜いた木、その物のようだ。人間より太い木を片手で扱えるほどの怪力。私が召喚された際に強くなっているとはいえ、まともに戦うことは難しい相手。だが、何より良かったのはタイミングだ。


「ウグォオオオオ!!」


 大型の魔物は叫びながらまっすぐに接近してくる。手に入れたばかりの縄張りに現れた侵入者、そんな風に見えているのだろう。知能も少なく、怒り狂った相手は読みやすくてありがたい。振り上げた木が降りてくる瞬間に左に避ける。ついでに指を切って痛みを与える。大したダメージにはならないが、怒りを煽ることには成功しているだろう。


 同じようなことを三度繰り返す。回避に専念する私を捉えられないことにようやく気が付いたようだ。今度は大きな足を振り上げ踏みつけてくる。こちらの理想の動きをしてくれている。


 私は相手を、小型の魔物の死体がある場所まで誘導していたのだ。二体をまとめて切った場所、その少し後ろで待機する。ここで合っているはずだ。魔物の足が今度こそと私を捉える。だがその攻撃は私に当たる前に中断された。


「グゥ!?ガアアア!」


 相手は私の作戦通り、困惑した後、痛みに悶えている。地面に設置されていた見えない板、障壁の魔法。それに人間を優に上回る力と重量で、足を叩きつけてしまったのだ。


 足は裂け、丁度親指と人差し指の間を貫通している。人間が裸足で小さいものを踏んでもすぐには立ち直れない。その痛みは想像もしたくない。そんなスキを見逃すはずもなく、回り込んだ二人が足の健に切りかかる。


「ぐっ、硬いぞ!」


 あれだけの巨体を支えていた足の破壊は容易ではない。それでも視線を誘導してくれただけで充分だ。今度は私が手の方の指を狙う。武器を持つために力が入っていたのだろう。伸びきっていた皮や筋は切りやすい。


「武器を落とした!もういいですね!?」


「大丈夫、離れて!」


 これで魔物の頭部がミリアスから狙いやすく、身を守れる武器もない。間に立っていた私が横に回避することで準備が完了した。


 ミリアスから雷槍の魔法が放たれる。正確に頭を捉えている以上、致命的な一撃だと思って間違いないだろう。これまで以上の声量で魔物が断末魔の悲鳴をあげる。そして大きな音を立て、魔物は地面に倒れていった。


 ここで油断してはいけない。私は剣を振り上げ、真っすぐに首に振り下ろす。今度こそ、これで終わった。残りは凍結した魔物たちの処理だけだ。


「倉宮、雑魚は俺たちがやっておく。村人たちを頼む」


「はい、わかりました」


 グレイスに言われ建物を見る。正面は問題なさそうだが、大型魔物のいた裏側が不安だ。正面は仲間に任せて回り込む。




 幸いにも建物の裏側はほとんど無傷だった。もしかしたらあの大型は、他の魔物に狩りを押し付けて、見張りをしていたのかもしれない。魔物にも狩りをする知能があることは、前回の件でグレイスから共有された。考えすぎということもないだろう。


「皆さーん!魔物は討伐しましたよ!裏にいた大きいのもです!」


 そのうち様子を窺ってくるとは思うが、早く安心させてあげよう。私としても、今度は上手くいったので喜んだ顔を見てみたい。


 裏口近くの小窓が開く。様子を窺っているようだ。次に驚きと共に窓が大きく開く。安全を認識してくれたようだ。そこから先は非常にスムーズだった。


 ここまでは勇者のことが知られてはいないようだったが、公爵子息のグレイスと、魔法の天才のミリアスは知名度が高いようで、説明の助けになった。そして村を救ったことによって、私自身を勇者と呼んでくれるようになった。ようやく与えられた称号ではなく、初めて勇者になれたような気がした。


「なるほど、コボルトと呼ばれる魔物が今までにない規模で襲撃を・・・」


「はい、これまでははぐれ者か何かが数匹。それも年に三、四回ほどだけだったのですが」


「きっとバーゲストと一緒だ。強いリーダーが現れて、それで群れが大きくなって侵略してきたんだろう」


 ルーカスの考えにみんなで同意する。ここには兵もおらず、人も少ないのでバーゲストのように罠を用いることはなかったのだろう。あるいは種族の知能の差が出ているのかもしれない。


 気になるのは、これまでと違うという点だ。バーゲストもコボルトも群れで現れることはほとんどなかった。なのに今になって急に強力なリーダーが群れを従え、侵略してきている。


 私から見ると、そのような状況だからこそ召喚されたとも思えるが、この世界の人間からすれば不安で仕方がないだろう。何より、魔王を倒してもこのような大型の魔物が現れては気が気でないはずだ。これには何か原因があるのだろうか。


「あの、これって魔王を倒してなんとかなるんでしょうか?」


 魔王が原因なら元の予定通り、倒せばいい。しかしこれまでの魔物の強大化はなぜなのか。この世界に来たばかりの私には判断ができない。


「わからない。教会では魔力の流れが影響していると考えられてる。そしてその原因が魔王だと」


 ミリアス以外に有力そうな情報はない。今は魔王を倒す以外にできることはないようだ。


 この日は村に泊まらせてもらうことになった。なんと村人の話によると、魔物が大きかったおかげで発見が早く、住人は全員避難に成功していたそうだ。私たちは間に合ったんだ。


 その晩、住人たちは無事を喜んで宴会を開いていた。家や食料は荒らされていたが命には代えられない。私も全力で駆け付けた甲斐があった。単独で挑んだことを三人からは厳しく注意されてしまったが。


 アルティミシアを発ってから数日経つが、ようやく初めの一歩を踏み出せたような気さえする。調子に乗るのは良くないが、私にもできることがあった。それだけでも今後の旅に希望が見いだせた。


 しかし、強力になった魔物はバーゲストだけではなかった。今後もこのような強敵に出会うことがあるのだろう。今回、私一人では勝てなかったように思う。もっと、強くならなくては。


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