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強者と勝機

 残り一週間、そんな訓練終わりにヴァミリスと会話していると誰かが現れた。この訓練場に俺とヴァミリス以外が訪れるのは珍しい。


「やはりここだったか。お前たち」


 そこに現れたのは魔王だった。普段は玉座の間でしか見かけない魔王が自ら訪れている。しかも俺たちを探していたようだ。非常事態の予感がする。


「魔王様、何かありましたか?」


 あのヴァミリスが敬語を使っている。確かに魔王は上司なのだが、普段の態度に慣れていると違和感を感じる。


「勇者たちに動きがあった。これから忙しくなる。ヴァミリス、お前には明日から外に出てもらう」


「はい。かしこまりました」


「というわけだ、田所。今日を逃すと今後、いつ四人衆と会えるかわからん。すまないが例の件は今、ここでやってみて欲しい」


 ヴァミリスが出張するらしい。それと俺が四人衆を倒す件。そこから導き出される結論は・・・。


「わかった。やっぱりお前が四人衆の一人なんだな、ヴァミリス」


 そういうことなのだろう。むしろ彼女以上の強者が四人もいてたまるか。いや、もしかしたら魔王はそうなのかもしれないが、そんなのに一か月で勝てる気がしない。


「まあ、知っているか。ヴァミリス、任務の前日に悪いが相手をしてやってもらえるか?」


「もちろんです。俺も成果を知りたいところでした」


 ヴァミリスはニヤリと笑って言う。彼女は戦闘狂の気があるのかもしれない。


 急な話だが、やるしかない。ヴァミリスは今の俺より明らかに強い。だが勝負事はいつでも強い方が勝つわけではない。前世のゲームでも、ランクが下の相手に負けて泣きを見たものだ。しかし、この戦いは負けるわけにはいかない。


 魔王の話では勇者が動き出している。ここで負ければ戦いを止める猶予があるかわからない。残りの一週間で四人衆と再戦できることがあるかもしれないが、確実性がなさすぎる。白蛇や倉宮たちを争わせないためにもここで勝つしかない。


「ヴァミリス、今日までの成果を見せてやる」


「よく言えたものだな。実力の差を教えてやろう」


 ヴァミリスが木剣を構え、戦いに備えて魔王が離れていく。不味い。このままではまず、勝ち目がない。


「待て、ルールを決めよう!」


「ルール?要らんだろう。さっさと始めるぞ」


「いや、殺し合いじゃないんだから。剣を首に突き付けられた方の負け、それでいいだろ?」


「・・・まあ、いいだろう。では始めるぞ!」


「待て!まだだ。実戦なら準備が肝心だからな。先に魔法を二つ掛けさせてくれ」


「実戦か。さっきは殺し合いじゃないとか抜かしただろうが」


「殺しはしないけど、実戦に寄せる。それでこそ実力が判るだろ?戦いに準備は必須だ」


「そうか、なら好きにしろ。他にはもうないな」


「ああ、大丈夫だ。ちょっとだけ待っててくれ」


 危なかった。ヴァミリスに対する、唯一の勝ち筋が危うく消えるところだった。俺の剣の腕はヴァミリスに把握されている。そして彼女は、事情があるからと勝ちを譲ってくれる性格でもない。まともにやっても勝率はゼロだ。


 魔法でもルールでもなんでも使って、勝機を作るしかない。どちらかでも断られれば『詰み』だった。まずは俺自身に魔法を掛ける。筋力の魔法だ。加速状態でも速さでは勝負にならないので力で補う。


 次に掛けるのは罠の魔法、ではなく減速の魔法だ。さっきの条件では魔法を『俺』に掛けるとまでは言ってないので、直接攻撃でなければセーフだろう。実際二人とも魔法の発動を黙ってみている。筋力の魔法の約十秒後、無事に減速の魔法が発動する。どうせこれらの魔法で覆せるほどの実力差ではない。だがこれで仕込みは充分だ。


「待たせたな。魔王、始めてくれ!」


「うむ。それでは行くぞ。・・・試合始め!」


 こうして負けられない試合が始まった。いつもは余裕を見せて、移動もしないヴァミリスが切りかかってくる。速い。減速状態でなければこの一撃でダウンさせられていたかもしれない。


 減速の魔法と多少の距離のおかげで、かろうじて対応できる。そしてその攻撃に俺も木剣をぶつけ、応える。ヴァミリスが俺の実力を正確に把握していたおかげで、魔法での強化と弱体化の分ヴァミリスの想定が外れる。鍔迫り合いの形を想定したであろうヴァミリスの剣を、魔法で強化した腕力で横に流す。俺はこの僅かなスキに剣を突き付ける。


 これでルールによって俺の勝利、とはいかない。ヴァミリスは減速の魔法が掛かり、攻撃を流されてなお、俺を上回る身のこなしで反撃してくる。知っていたつもりだが、強い。やはり最初の計画で勝つしかない。




 そこからは一方的だった。ヴァミリスの鋭い攻撃を辛うじて受け止める。初撃のように読めるのであれば力づくで体勢を崩してはいるが、敗北に繋がるような致命的なスキは見せてはくれない。そのうえ彼女には余裕がある。魔法の効果時間、という制限が向こうにはないのだ。それゆえの時間の余裕。


 現在、なんとか戦えているのは俺とヴァミリスに掛かっている二つの魔法のおかげだ。どちらか一つでも効果時間が切れれば、この戦いは即座に終わる。無論、俺の負けでだ。しかし、その時こそが勝負だ。試合前の仕込むが活きるはず。


 木製の剣とはいえボコボコにされながら、ついにその時が来た。俺に掛かっていた筋力の魔法が解ける。そして十秒後にはヴァミリスに掛けた減速の魔法も解けるはずだ。ここで俺は再び魔法の準備を始める。その発動はさっきと同様の十秒後となる。


 筋力の魔法が解けた瞬間にヴァミリスの木剣が俺の体を捉えることが増えていく。相対的に俺が弱体化したこともあり、とても戦いにくい。やはり筋力の魔法の存在は必須だった。そして、ヴァミリスの減速状態が解けるのにあと五秒。


 もう余裕はない。防御する俺の剣が追い付かなくなる。既に実剣であれば致命傷になっている。ルールがなければすでに負けと判定されたはずだ。しかし、耐え抜いた!この瞬間こそが俺の唯一の勝ち筋だ。


 俺の筋力の魔法が解除されてから十秒後。ヴァミリスの減速状態も解除される。そして、同時に俺の魔法が改めて発動する。その魔法は先ほどとは違う『加速の魔法』だ。


 本来であれば減速状態のヴァミリスに対して加速の魔法を掛ければ相殺される。その後に加速の魔法を掛けなおすこともあるかもしれない。だが、今この瞬間、ヴァミリスは減速状態から通常の状態を一瞬しか経由せずに加速状態になった。本来であればありえないはずの速度の変化。正確無比な彼女の剣技だからこそ、多少のブレでも結果が大きく変化する。彼女が連続で攻撃中だったこともあり、急な速度の変化が彼女の動きにスキをつくった。


「なっ!?」


 初めてできた大きな隙。ここしかない。最低限の動きで剣を首に突き付ける。しかし、向こうもそこまで甘くはない。


 背後に飛びのいて回避しようとする。かろうじて読めていた。剣を持たない左腕で彼女の腕を掴んでいたのだ。そしてついに、彼女の首元に剣を当てる。


「そこまでだ。勝者は田所!」


 魔王の声が響く。ルールを決めたのを忘れられていたら、どうしようかと思った。


 ルールによる根回しと、姑息な立ち回りの成果ではあるが、確かに四人衆の一人に勝利した。


「よっし!これで良いんだな、魔王」


「ああ。よくぞ、実力で上回る相手に勝利した。お前の強さは私が保証しよう。まあ、割とせこい勝ち方だったが」


 せこくても勝ちは勝ちだ。魔王に認められたし、あのヴァミリスに勝ったんだ。そういえばヴァミリスは?あんな勝ち方をして怒ってはいないだろうか。


「・・・・・・」


 彼女は俺が逃がさないように掴んだ腕を無言で眺めている。剣でなく握力で決着を付けたことに不満があるのか?一応なんかしらのフォローはしておくべきか。


「ヴァミリス、決して俺もあんな戦い方でお前を超えたつもりはなくてだな。あれはあくまで四人衆に勝つ必要があったから俺の全力を出しただけなんだ」


「・・・・・・」


 聞こえている気がしない。そこまで俺に負けたのがショックだったんだろうか。さすがに少し申し訳なくなってきた。様子も変だし、少し近づいて声を掛けてみよう。


「おい、大丈夫か?怪我はないだろ?」


「なっ、大丈夫だ!来なくていい!・・・今回はお前の勝ちだ。だが、剣の腕はまだまだだ。もっと鍛えるんだな。では俺はもう行く」


 ヴァミリスは距離を取りながら逃げるように去っていった。顔も赤かったし、俺に負けたのがそれほど恥ずかしかったのだろうか。あるいは怒っていたのかもしれない。俺を鍛えてくれた礼も言いたかったんだが、また今度にするか。


「お前、良いのか。それで」


「ああ、わかってるよ。今度改めて鍛えてくれた礼は伝えるよ」


「うむ、そうか。・・・まあいいだろう。それよりも今後のことを相談したい」




 ようやく四人衆の一人を倒せたが、これはまだスタート地点でしかない。まずは何からするべきか。上司の判断を仰ぐとしよう。


「勇者たちが旅立ったという情報が入った。明日からは四人衆で足止めをする。その間にお前には、人間の町に行って協力体制を整えて貰いたい。交渉役には誰かを付ける。非常時や敵が出た場合にはお前の出番だ」


「つまり俺は用心棒か?それなら誰でも良いんじゃないのか?」


「そうもいかないのだ。魔物を恐れる人間たちとの交渉に、力のある魔物を連れて行ってみろ。話し合うどころではない。最悪の場合は無抵抗でも殺されるぞ」


「そういうものなのか。まあ、人間はバーゲストとか獣みたいなのも、会話できる相手でもまとめて魔物呼びだからな。圧倒的に理解が足りてないんだろう」


「そうだな。だからこそ人間であり、魔物の側に着くお前のような者が必要だったのだ」


 俺が毎日顔を合わせている魔王城の住人達、そして会話もできず人間を襲う獣のような生き物。どちらも人間の尺度では同じ『魔物』でしかない。意思疎通できる魔物もいるのだが、それを地道にわかってもらわなくてはいけない。


「では、明日までに交渉役と移動手段を手配しておく。今日はお前ももう休むといい」


「ああ、わかった。いや、その前に少しいいか?」


 魔王の許可で話を続ける。人間との交渉となれば俺が気にしていたことを相談しておきたい。人間の考える、魔物たちのことだ。俺が魔王城についてからの疑問点を魔王にぶつける、いい機会だろう。


「人間たちの魔物の認識。それを何とかできないかな?」


「魔物の認識?どういうことだ?」


「例えばなんだけど、獣のような魔物から町を守るために魔王たちが動いたとしよう。けど人間から見ると、どちらも同じ『魔物』という認識になってしまうんだ。人によっては魔王が部下を送り込むことも侵略行為だと思うかもしれない。だから人間と意思疎通できるものと、それ以外で呼び方を変えさせるのはどうだろう?」


「・・・うーむ、お前の言うことも一理あるな。しかし、少ないとはいえ私の配下にも会話できない者がいる。王として配下を区別するようなことは望ましくはない」


 なんとなく、魔王はそう答えると思っていた。しかしこの世界では情報の伝達に時間がかかる。魔王たちがどんなに頑張っても、それが知れ渡るまでに他の魔物が人に被害を出せば台無しになってしまう。人間と和解できたとしても、前世のように世界中に発信できるわけではないのだ。下手をすればイタチごっこになりかねない。


 だからこそ、そういった危険な魔物が魔王たちとは別であるということが知られてさえいれば、俺たちが地道に活動すれば人間たちの認識も変わるはずだ。


「魔王、お前の考え方は個人としては正しいと思う。だけど王だからこそ自分に従う者と、それ以外の区別ははっきりさせるべきじゃないのか?会話のできない一部の部下についても、意思疎通さえ何とかなれば人間に受け入れられるかもしれない。そのための土台は魔王が作る必要があるんじゃないか?」


「・・・そうなのかもしれないな。だが、すぐにという訳にはいかない。今回のお前の仕事、それをこなすうえで人間の説得に活かせるのであれば、お前のしたいようにするが良い」


「ああ。ありがとう、魔王。お前に後悔はさせない」


「フッ。まぁ、お前は貴重な人間だ。もし危なくなったら逃げろよ」


 こんな感じで魔王との話は終わった。魔王はなんだかんだ言って俺に任せてくれているのだ。今回のことも、俺を雇ってくれたことも後悔はさせない。


 そのためにも今日は早く休んで明日に備えよう。結果的に勝利したとはいえ、一方的に叩きのめされた体が痛む。明日以降の方針も決まったことだし、体を休めなければ。

ストックをまとめて投稿しました。

ここで1章はおわりです。


名前なんかを考えないといけないんで次回以降の投稿は時間がかかります。

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