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試行と反復

 訓練場で魔法の試し打ちにきた。書庫でも試させてはくれたが、実戦を想定する以上、思い切り体を動かしたい。まずは加速の魔法だ。この魔法は体の動きだけが早くなるため、頭の認識は平常時のまま。そのため、使いこなすには慣れが必要になる。それでも使いこなせれば強力な武器になるはずだ。


 練習あるのみ。司書さんに挟んでもらった最初のしおり。そのページが加速の魔法だ。魔導書のページに魔力を流し込む。アルティミシアでも練習していたので魔法自体には慣れたものだ。


 魔法が発動した瞬間に体に違和感を感じる。体が重い、いや違う。動きが遅くなっている。よく見ると魔法陣がさっきと違う気がする。そうだ。加速の魔法は、見開きのページの左側の方だ。誤って右の魔法を使ってしまった。教えてもらった他の魔法が右側のページだったのでうっかりしていたようだ。


 これが加重の魔法なら漫画で読んだような良いトレーニングになるかもしれない。だがおそらくこれは加速の魔法の対、減速の魔法とでもいうものだろう。つまりは遅いだけで負担は変わらない。トレーニングにはならない。


 加速の練習にならないのであれば仕方がないので、間違えたページを眺めてみる。加速と減速の魔法陣は少し似たところがある。完全に対照的な図形ではないのだが、共通した箇所がいくつも見られた。今後は間違いがないように気を付けねば。



 ここで一つの疑問がわく。今の状態、減速状態とでも呼ぼう。減速状態の相手に加速の魔法を掛けるとどうなるのか。こういったちょっとした知識に救われることもあるかもしれない。物は試しだ。さっそく試してみる。


 さっきと反対のページの魔法を発動する。体には、特に違和感を感じない。おそらくは相殺され、どちらの魔法も無効化されたのだろう。火球の魔法は、魔力で火球を生み出す魔法だ。そこには炎の球が実在している。しかし加速などの実体化しない魔法は相殺される形になるようだ。つまり敵に減速状態にされた場合に、加速状態になるためには二度の加速の魔法が必要になるということだ。


 おそらく必要にはならない知識なのだろうな。それでも加速の魔法があったため、減速状態が切れるまで待つ必要はなくなった。改めて加速状態の訓練をしよう。加速状態になり体の変化を確認する。今度は問題ないようだ。


 体を慣れさせるために単純な動作を繰り返す。歩いて往復し、早歩き、走ったりして体を馴染ませる。この状態で剣の扱いにも慣れなくては。そう思うと体がいきなり遅くなる。加速の魔法の効果時間が切れたようだ。大体三分くらいだろうか。ある程度時間を把握していないと、いざという時に危険かもしれない。魔法ごとの正確な持続時間はいずれ確かめよう。



 次に試すのは粘着と加重の魔法だ。筋力の魔法は癖が少ないため、先に他のを練習しよう。


 粘着の魔法は床に見えない接着剤を設置できるイメージだ。足が接着されても靴を脱げば逃げられる。足場が確かな必要があるので司書さんの言う、硬い足場が必要というのも確かなようだ。


 次は試しに、手と剣に向けて発動する。予想通り、剣を手放せなくなった。即席の強力な瞬間接着剤にもできると覚えておこう。しかし効果時間は1分程度。離れた場所にも使えないのでやはり、基本的には設置型の罠に適している。


 あとは組み立て式の家具を組むのに便利そうだ。一人だと仮組がずれるんだよな、あれ。まあ、こちらの世界にはそんな物はないだろうが。どうにもまだ前の世界の感覚というか、価値観が残ってしまっている感じがする。



 最後が加重の魔法。一定の空間の重力を強くする魔法。こちらも接着と同じく、目に見えないため罠になる。他にも重力の影響を受ける飛び道具に対する盾になるかもしれない。接着との違いとして、足場を選ばないことが挙げられる。


 瞬間的に発動できるようになれば接近戦の助けになりそうだが、接着の魔法と比べて魔法陣が複雑で発動に時間がかかる。強敵との戦いで使う余裕はないかもしれない。自分で試してみると、動けない程ではないが、かなりの負荷を感じる。衣類がすさまじく重くなったような、水中で動こうとしているような感じだろうか。以前、漫画かなにかで見たような修行に使えるかもしれない。



 これで先ほど習った魔法は全て試した。どの魔法も今後使うことがありそうだが、今は時間がない。完全に魔法陣を暗記し、手ぶらで発動できなければ強敵相手にはスキが大きい。二つ程度に絞って習得を急いだ方が良いだろう。


 四人衆、つまりは強敵相手。仮にヴァミリスと本気で戦うとして、後の二つの魔法は効果が薄いのではないだろうか。粘着の魔法は知能が低い、バーゲストのような相手には効果絶大だろう。しかし知性があれば靴を捨てたり、足場の方を破壊することを考え付く。


 加重の魔法も強力だが、敵自身に掛ける魔法ではなく一定の空間に掛ける魔法だ。移動すれば効果範囲から回避できてしまう。それなら怪我の功名というべき、減速の魔法(仮)の方が使いやすいように思う。減速は加速と似た魔法陣であることも相まって、習得もしやすい。


 消去法で筋力、加速の魔法を取得することにする。減速の魔法の方もできれば覚えよう。加速と減速を上手く使えれば格上相手にも勝ち筋があるはずだ。ゲームでも強敵相手には、強化と弱体化がカギであることがあった。この選択の成否は不明だが決めた以上はやるだけだ。


 この日から午前は魔法の練習。それに加えて加速状態での動きの練習。そして午後にはヴァミリスとの手合わせ。彼女がいない場合には一人でと加重状態で剣の訓練をすることが日課になった。


 ヴァミリス相手には初日以来、引き分けることも出来ていない。あれが偶然の産物なのは理解しているが、成果がないように思えて焦りを感じてしまう。それでも彼女の教えは少しずつは身についているはずだ。




 そして数日経ち、今日もヴァミリスとの訓練中。


「守りに出すぎだ。全身を使って剣を振れ」


「弾かれた後のスキが大きすぎる。すぐに次の攻撃に移れ」


「もう終わりか?魔物はそんなにやわではないぞ」


 ヴァミリスとの訓練はひたすら実戦形式だ。素振りや体作りは一人でもできる。ひたすら彼女に切りかかるだけではあるが一言添えてくれるので効果的な気がする。気がするというのは彼女以外に相手がおらず、成果を実感しにくいためだ。




「今日はここまででいいだろう」


「わかった。今日もありがとうヴァミリス」


「気にするな。前にも言ったが俺の目的のためだ」


 今ならわかるがヴァミリスの交換条件、自分と同等の強さになること、は彼女なりの気遣いだったのかもしれない。彼女が不器用なりに優しいのは伝わっている。俺が気負いすぎないよう、言ってくれたのだろう。彼女が訓練相手を求めていることも事実ではあるのだろうが。


「期日まであと一週間か」


「ああ、おかげでここに来た頃より大分、力がついたよ」


 比較対象がおらずとも、以前よりは良くなっているのを感じる。それに魔法も完全に習得し、魔導書なしでも加速、減速、筋力の三つの魔法は使用可能になった。減速の魔法のおかげで気付いた、魔法のルールを併せれば強敵にも太刀打ちはできると思う。


 前述の比較できる相手がいない、とは剣を持って戦う魔物が少ないということだ。この訓練所に訪れる魔物もいなくはないのだが、大抵が魔法の試し打ちをするだけだ。きっと魔物たちの武器は持ち前の体といくつかの魔法で事足りてしまうのだろう。


 ヴァミリスも人間から見れば充分強そうな爪を持っているが、なぜ剣を持つことを選んだのだろうか。二人での訓練も十回ほどは行っているはずだし、試しに聞いてみようか。


「ヴァミリスは実戦だと、剣以外に爪とかも使って戦うのか?」


「まあ、使えないこともない。だが俺の体は、純粋なドラゴンである兄弟たちに比べて余りにも弱かった。だから剣を持ち、技術を身に着けることを選んだ」


 ヴァミリスは兄弟にコンプレックスがあるのだろうか。さらっと言っているが彼女はドラゴンの家系らしい。その中で人間に近い体で生まれれば、苦労が多かったのだろう。


 しかし、彼女は努力の末にここまでの実力を持った。実力主義の魔物のことだ。俺の想像以上に大変だったはず。きっと彼女の強さに対する自信はそこからきているのだろう。


「そうだったのか。訓練相手も少なそうだし、苦労したんだろうな」


「今では魔王様にも認められている。それ以上は望むまい。それに今後は訓練相手ができるはずだからな」


 そういえばそうだった。それどころでなくて失念していたが、俺は彼女に見合う強さにならなくてはいけないのだ。それを考えると不安になるが、今はやるべきことをやるしかない。


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