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魔法と骨

 今日もメイドのセレーヌに起こしてもらう。昨日は驚いたものだが、彼女の美声を朝一番に聞けるのは悪くない。何より彼女は本物のメイドだ。前世であれば余程裕福でないとありえない好待遇である。まだ三日目だがこの魔王城での生活も良いものだ。


 そして朝食後、俺は書庫に向かっている。四人衆に勝つために、昨日、白蛇に教えてもらった魔法を試したい。まず強者である四人衆相手に、強力な魔法を唱えるほどの余裕はない。しかし、魔導書を使えば、頭の中で魔法陣を描く必要がないので発動までの時間を短縮できる。それでも本を持つことでスキができるので、可能であれば頭に叩き込んでおきたい。時間を稼いでくれる仲間がいれば、魔導書の一冊くらいは持っていても問題はなかっただろう。やはり、一人で戦うことがネックになってしまう。


 では逆転の発想だ。戦いの前に魔法を使う。この戦術は前世でもゲームで覚えがある。戦う直前にバフ、つまりは自分に有利な魔法をあらかじめかけておく戦法だ。白蛇に教えてもらった魔法はそういった強化魔法と、罠を作る設置型の魔法だ。


 これらであれば戦闘前に発動することで、スキを作らずに戦闘力の底上げをできる。少しずるい気もするが相手と力の差がある以上はできることは何でも試そう。


 複雑な魔王城であったが、白蛇に念入りに聞いておいたおかげで無事に書庫に辿り着いた。魔王に聞いた話と違い、誰もいない。白蛇は本の位置も教えてくれたので問題はないが、俺はこの世界の文字が読めない。一応誰か居てくれると助かったのだが、居ない者は仕方がない。勝手に探してしまおう。すると背後から声が掛けられる。


「いらっしゃ~い、何かお探しですか?」


「うわっ!何だ!」


 驚かせる意図はなかったようだが、静かな書庫で急に声を掛けられ、驚く。背後を見ると本棚同士の間にある隙間。そこに一体の人骨がすっぽり収まっている。彼の声だったのか。


「カタカタカタ、人間とは珍しいですね~」


 謎の音を鳴らしながら話しかけてくる。もしかして笑っているのだろうか?


「ああ、一昨日魔王に雇われた。田所祐一だ。よろしく」


「よろしくお願いします。私はしがないスケルトン、司書と呼んでください~」


 司書さんと呼べばいいのだろうか。白蛇といい魔王といい、種族と固有名詞があやふやな魔物は少しやりにくい。目の前の骨は役職があるおかげで呼びやすい。


「いやぁ、驚かせてしまって申し訳ありません。ここ、来る人が決まってますので私要らないんですよね~。なので邪魔にならない場所にいたんですよ」


「いや、大丈夫だ。こちらこそ必要以上に驚いて申し訳ない。本を探しているので手伝ってもらっていいか?魔導書の『戦闘補助型上の巻』てのがあるらしいんだけど」


「はいはい、少々お待ちを。え~っと、こちらですね」


 司書さんが迷い無く、本棚から一冊の本を持ってくる。残念なことに文字が読めないため、合っているかは判断できない。


「司書さん、ありがとう。あの、申し訳ないんだけど俺文字が読めなくって、少し内容を教えてもらっていいかな?」


「もちろんですよ~。暇で仕方がないんでね」


 魔王の言う通り快く引き受けてくれた。二人で向かいに、ではなく隣に座る。一つの本を読むためだ。


「田所さんは戦闘要員なんですか?せっかく魔王城では珍しい、人間の方なのに」


「戦闘も必要になった、というか。一か月以内に四人衆に一人で勝つようにって、魔王に言われたんだ」


「そうなんですね~。魔王様も無理をおっしゃる。しかし、できないことはやらせない方です。あなたは期待されているんですよ」


「だと良いんだけど。それじゃあよろしく」


「かしこまりました。それでは時間もないようなので、私がいくつか選びましょう」


 司書さんが目次からいくつかの魔法を選んでくれた。人間に使われることの多いおすすめの魔法だそうだ。そんなことを知っているということは、もしかして司書さんは元人間なのだろうか?


「強化魔法も種類があります。本来であれば役割ごとに長所を伸ばすための魔法を掛けるのです。田所さんはお一人で、ということなので加速の魔法か筋力の魔法が無難ですね~」


 一定時間、対象の動きを早くする加速の魔法。近接戦闘でも魔法使いでもお世話になる万能魔法だそうだ。次は身体能力を上昇する筋力の魔法。魔物が身体的に優れた相手である以上、少しでも近い条件で戦うには筋力を補うことは重要だろう。


「どうせ私たちしかいないんで、試してみましょうか」


 重要な本もあるだろうに、いいのだろうか。まあ、彼が言うのであればいいんだろう。


 魔導書の加速の魔法のページをに手を当て魔力を流し込む、本の魔法陣に魔力が満ちる。これで魔法が掛かった。


 手始めに、ゆっくりと書庫の入り口に歩いていく。俺の認識を置き去りにして、早歩き位の速度が出る。止まろうと思った地点でうまく止まれずに入り口の扉に軽くぶつかる。


 どうやら魔法で早くなるのは体の動きだけのようだ。俺の認識する速度や、思考する速度が体に付いていかない。強力な魔法には違いないが、かなりの慣れを要する魔法だ。




 次に筋力の魔法。発動前に使っていない机を持ち上げようとする。が、石造りの机は重く、完全には持ち上げられない。それを確認してから魔法を発動する。


 今度は机が完全に持ち上がる。軽くはないが、完全に持ち上げられる程度には余裕がある。たった一つの魔法でかなりの違いだ。それにこちらの魔法は、加速とは違い癖がなく扱いやすい。


「どちらも問題なく使えるようですね。二つを使い分けるのも良いと思いますよ」


「そうだな、相手によって欲しい魔法も変わるだろうしな」


 司書さんの言う通り、できることなら両立しよう。他にも白蛇に教えてもらった魔法があったな。


「他には設置できる魔法があるって白蛇に聞いたんだけど、おすすめとかあるかな?」


「そうですね~。集団戦で使いにくいので詳しくはないですが、こちらの粘着の魔法と加重の魔法がいいかと。粘着は足場が硬れば相手の移動を完全に封じられます。加重は効果が短いですが場所や相手を選びません」


 聞いた限りだと、こちらの魔法も使い分けると効果的なようだ。せっかくだし、こちらの二つも習得を目指してみよう。


「わかった。教えて貰った四つを練習してみるよ」


「は~い。それでは少々お待ちを。本の貸し出し手続きをしますね」


 司書さんが紙に記入している。もしかして俺が字を読めないからやってくれているのだろうか。


「俺が書くこととかあるか?向こうの文字で良ければだけど、名前とか必要なんじゃ?」


「では、こちらにお名前だけお願いします」


 自分に書ける文字、漢字で名前を書く。そうしている間にも司書さんは作業をしているようだ。


「よし、これでいいかな?


「田所祐一さん。はい、バッチリです。今日から一か月間はお借りできますよ。他の魔法のことや、読みたいところがあれば気軽にどうぞ」


 司書さんから本を受け取る。よく見ると四枚の紙が差し込んである。


「こちらはしおりです。今日使った魔法のページなので取らないでくださいね」


「わざわざありがとう。何から何まで申し訳ない」


「お気になさらず。私は暇なので」


 司書さんと白蛇のおかげで有効そうな魔法を知ることができた。剣も重要だがそれだけでは勝てない状況もあるはずだ。四人衆の内の手の内がわからない以上は選択肢は多い方がいい。


 今後は午後の剣の訓練までは、魔法の練習をすることになるだろう。城内では使えない魔法があるので司書さんに別れを告げ、さっそく訓練場に向かう。


「人間の勇者。彼が何かを変えてくれるんでしょうか?魔王様。・・・」


 一人になった司書は誰にともなく問いかけた。

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